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誰が為に  作者: 白亜タタラ
世界の常識と陰謀編
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救出

 カナタたちはある程度の知識を身につけ、近いうちにこの村を出ようという話が上がっていた。そしてそのことを一緒に遊んでいた子供たちに打ち明けた。


 それから数日が経ち、その間に村を回って明日には村を出ることをお世話になった宿屋の人や村の住人たちに話し終えた。そして、今日は荷物の整理や旅の道中で消費する食料などを買って過ごそうと計画していた。

 村の人たちも最初の頃のような警戒した感じはもうすでになく、別れを惜しんでくれた。宿屋の女将さんは村を出る当日にお弁当まで用意してくれるという。


 ネルに関しては1番接する機会が多かったのもあり、話を切り出した時は泣いてしまったほどだ。カナタたちはどうしたらいいかわからずにオロオロするだけで、声を聞きつけた女将さんが話をしてとりなしてくれた。

 自分たちとのことで泣いてくれるという事実にカナタたちは嬉しくもあり、この子が大きくなったころにまた会いに来ようと思ったのだった。


 ドンドンドン!


 「カナター!おーい起きてるか!話がある、開けてくれ!」


 「......どうしました?」


 早朝、突然泊まっている部屋の扉を叩く音に何事かと思いながら扉を開けると顔面蒼白な村の男が2人立っていた。


 「昨日から子供たちが帰ってこない。何か知らないか?」


 「えっ!?......俺たちは数日前から村の皆さんに別れの挨拶や旅の準備をしていたので最近会ってないんです。昨日っていうのは正確にはいつ頃からいなくなったのかわかりますか?」


 「それが不甲斐ない事に俺たちも子供たちが今日は遅くなるって言って家を出て行ったからあんまり気にしていなくてな、正確な時間がわからん。いつもなら行くとしても村の中のどっかだから安全だと思っていた。しかし深夜になっても帰ってこないんで俺たち、子供たちの家族総出で辺りを探していたんだ。それでも見つからないからこうして各家を回っている。」


 男たちは心労と疲労が重なりかなり酷い顔をしている。今までもなかなか帰ってこないことは何度かあり、その時は子供たちの中の誰かの家にいたり、空き地で秘密基地のような穴を作り出してその中にいたりしたらしいが、これまではそこまで時間もかからずに見つけることができたらしい。

 しかし、今回に関しては子供の家族だけではなく村人総出で探しても見つからず、もしかしたら村から出た可能性すら出始めたらしい。


 「わかりました。もちろん俺たちも探すのを手伝います。万が一を考えて俺たちが村の外を見てきますよ。」


 「すまない。よろしく頼む!」


 カナタたちも短い期間とはいえこの村の人々と関わり、それなりに情が湧いている。ましてや子供達に関してはネルや女将さんの次に長い時間を共にしていた。それだけで探すのを手伝う理由は十分だった。


 すぐに宿屋を出たカナタたちはアリスとカナタ、ノルンとフィル、そしてヤクモは単独で3方向に散った。

 アリスの眼とヤクモの目、さらにノルンが嗅覚と聴覚を駆使して探す。


 「手がかりなんて全くないんだ。速力全開で虱潰しにして行くしかないよな。」


 この村はカナタたちが通ってきた踏み固められた道がある方向以外は特に道はない。この場所がただの農村ということもあり、人の行き来が少ないのだ。

 カナタたちは街道とは反対方向にある森のほうに進む。ヤクモが村の入り口から向かって右方向にある山の方へ、ノルンたちは街道方面を探す。


 アリスは神眼スキルを発動したままの状態で走る。これまでの鍛錬で15分程度なら発動状態を維持したまま行動できるようになった。


 だいたい10分程度だろうか。3方に別れたカナタたちだったが、漸く手がかりを見つけた。

 見つけたのはアリスとカナタのグループで森の中を進む子供の足跡を見つけたのだ。

 カナタたちは成果が出なかった場合は1時間後には元の場所に集合するように打ち合わせていた。


 そして、今回のように途中で何か手掛かりを見つけた場合は、各々で保護して連れてくる作戦だった。カナタたちは全員が子供達と遊んだ経験があるためお互いに顔は知っている。だから遭遇できれば話は早いと考えていた。


 しかし、事態はそんなに簡単にはいかないらしい。

 足跡を追って進んでいたが、途中で全員が足を止めて固まっていた形跡があった。これだけなら休憩したのだと思うだろう。ここに来るまでにもそういう形跡はあった。しかし今回は、固まっていたと思われる足跡が他の足跡で踏み荒らされていたのだ。


 足跡から分かるのは子供達が何者か(・・・)に追われているということ。

 足跡を見つけてからここまでは細かな情報も漏らさないようにカナタたちはゆっくりと歩いて進んでいた。しかし、事態が切迫していると感じたことで速度を上げて走る。時間的にもアリスの負担が大きくなっているが、まだ大丈夫だ。


 訪ねてきた子供達の親の話から子供達がいなくなってから1日以上は経過している。

 この足跡がいつのものかわからないことがカナタたちを焦らせる。足跡の痕跡から子供達を追っているのは4足歩行の生物のようだ。歩幅的に子供達などあっさりと殺すことができるほどの体格があると推測できる。

 走りながらも得られる情報は一層カナタたちを焦らせる。

 そして......


 「視えた!」


 アリスの眼が捉えたのは、この木々が生茂る森の中にあり、少し開けた場所で大口を開けたような形の洞穴だった。洞穴の中で寄り集まっている子供たちと、その周囲を取り囲むように陣取る5匹のイノシシ型の魔物がいる。イノシシ型の魔物は"ダッシュボア"というらしい。


 「ハスナっ俺の後ろにいろ!このっ来るな!ベンも泣いてばかりいないで棒で攻撃しろ!」


 「いやぁぁあああ!こないでぇぇえ!」


 「このっ!あっちいけよ!......ぐすっ」


 「おかぁさん......たすけてぇ」


 子供達は男女3人ずつの計6人が行方不明になっていたが、今ダッシュボアに囲まれて女の子組は腰が抜けたのか洞穴の後ろの方で尻餅をついて泣いていた。そして、泣きながら絶望して悲鳴をあげたり、両親に助けを求めている。男の子組は、子供達のリーダーであるルッツ(仲間に誘ってくれた子)が目に涙を溜めながらも木の棒を力一杯に振り回して威嚇している。健気にも仲間たちをその小さな体で必死で守っているのだ

 ルッツに喝を入れられて、なんとか立ち上がって木の棒を振るベンと涙が止まらないがルッツのように女の子たちを庇いながら棒を振るケイン。

 子供達の抵抗を前にダッシュボアは精神的に追い詰めるかのようにゆっくりと近づいて行く。


 そもそもダッシュボアは、4つ足をついた状態でも子供達より大きく、皮膚は子供達が思いっきり振った木の棒くらいで傷つくほど柔ではない。

 だが、そんなダッシュボアの油断のおかげで子供たちの生と死の境界は別れるのだ。


 「抜刀術、"飛閃"」


 焦らしながらもゆっくりと近づき、漸く子供達へと襲い掛かろうとしていたダッシュボアは次の瞬間には5匹とも上半身と下半身、あるいは正中線から左右に両断された。

 カナタがダッシュボアたちを視界に捉えた瞬間にアイテムボックスから"凪"を取り出し、飛閃こと飛ぶ斬撃を放ったのだ。


 洞穴の壁を背にしていた子供達も、近くにまで迫っていたダッシュボアから吹き出る血が降りかかり、体を赤く染める。その赤があと少しカナタたちの到着が遅かったら自身の血の色だったのかと思えば血で汚れるくらいなんともないだろう。


 「嘘っ!?」

 

 「なにが......おきたんだ?」


 突然、自分たちを追い詰めていた敵が切り裂かれて生き絶えている今の状況に誰もついてこれなかった。カナタたちもまだ少し離れたところにいるため、この状況を作ったのが誰なのか察するのは難しいだろう。


 「よっ!ギリギリ間に合ってよかった。危ないところだったな。」


 「これに懲りたら無断で村の外に出るなんて無茶なことはしないようにしなさい。」


 まるで自分たちを追い詰めていたダッシュボアなど、なんでもなかったかのように片手をあげて近づいてくるカナタと忠告をするアリス。カナタの手にはまだ凪が握られたままだ。


 「お前ら、どうやってここが分かったんだ!?いやそんなことより助けてくれてありがとぅ!お前たちが来てくれなければ俺たちはあの魔物の餌...になっていた。」


 ルッツは村からここまではそれなりに距離があり、手掛かりもない状態で森の中にいる自分たちを見つけるなんてあり得ないと思った。だから自分を犠牲にしてでも仲間たちを必死の思いで守ろうとしていた。しかし、今はそんなことより自分たちを探してこんなところまで来てくれたこと。自分の仲間たちを無事に救ってくれたことに感謝の念の方が先に立った。

 今にも溢れそうになる涙を豪快に拭いながら、そして震えて今にも後ろに倒れそうになる足に精一杯の力を込めながら感謝の言葉だけはリーダとしての意地で伝えた。


 「うん。それはいいよ。ただ、どうしてこんなところまで来たのさ。危険なことくらいわかっていただろ?」


 ルッツからの感謝の言葉は素直に受け取りながらもカナタは今回の事に関しての疑問をぶつけた。ネメシア世界にはいたるところに魔物が存在するため、力のない者は村や街から外へは出ない。出るとしても冒険者を雇って護衛をさせたり、子供ならその親などが付き添うのが普通だ。そしてそんな常識は幼少の頃から万が一に備えて教えるのが普通のため知らないはずがない。

 それらの事をネルから学んでいたためルッツたちの行動がカナタには理解できなかった。


 「...お前たちが村を出て行くっていうからだぞ!」


 「本当は最後にサプライズで俺たちの秘密の場所(・・・・・)から採って来た花を届けるはずだったんだ!」


 「......えっと、つまり、その秘密の場所で花を取って俺たちにサプライズでプレゼントをしてくれようとしていたわけか。」


 「うん。前に村に来た冒険者の人と一緒に行ったことがあるの!前に行った時は魔物とも合わなかったし、そんなに遠くないから大丈夫だと思ったんだけど、すぐにさっきの魔物たちに見つかっちゃって......怖かった。」


 カナタとアリスは子供達の好意に胸が暖かくなるほど嬉しかったが、その行為は危険な事もあり手放しに感謝を伝えることを躊躇わせた。言葉を選んでいた2人の顔は2つの感情がない混ぜになった様な、なんとも言えない表情だった。


 取り敢えずはまずお礼を言い、ヤクモたちとの合流場所に戻った。

 子供達の感情なんて山の天気ほどに変わりやすいのか、さっきまでの絶望に満ちた顔から村に帰れることとカナタたちに会えた喜びからみんな笑顔だ。


 カナタとアリスが考えたのは、カナタたちならその秘密の場所に一緒に行けるというものだ。ダンジョンの魔物に比べればこの辺りで出る魔物などものの数ではない。

 実際にカナタが自分たちを襲っていた魔物を倒したのも見たことで子供たちも皆安心しきっている。


 そして、カナタたちパーティーが揃うと子供達を先頭に、秘密の場所を目指した。魔物たちは抑えているとはいえ、極少量漏れ出すカナタたちの気配を敏感に悟ったのか全く現れない。もしかすると、今回のダッシュボアが現れたことが稀で、普段は平和な森なのかもしれないとさえ思えた。


 そうして来た道を戻るように歩く一行は秘密の場所とやらを目指して元気よく進んで行くのだった。



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