第101階層の間
ダンジョン......ネメシアにおいて局地的に魔素が濃く、長い年月をかけてその姿を変質させたもの。
ネメシアは神が5つの世界とその要素を組み合わせて創り出した世界だ。魔素の比較的多い世界の要素に、さらに大小はあるが他の4つの世界の魔素も組み合わされたことで残存する魔素は規格外の多さを誇る世界になっている。また、モンスターと呼ばれる魔物が存在する要素も組み合わされている。
つまりネメシアは比較的ダンジョンが出来やすい傾向にあるのだ。
しかし、カナタたちが居るこのダンジョンは自然発生したものとは違う。神々のダンジョンはネメシアに数個しか存在せず、その表の作成理由は世界に漂う魔素の安定化を担う働きがあり、世界に増えすぎた魔素を吸収してダンジョンの糧とする。そして裏の理由は神の気まぐれと娯楽の提供のための場所として創られていた。
その表の役割は魔素をちゃんとダンジョン内に取り込むことで果たされていたが、とんと攻略者が来ないことで裏の目的はなかなか果たされず、神々もその存在を忘れていたほどだった。
そして漸くその神々のダンジョンの内の一つをカナタたちは、100階層ボスを倒すことで攻略一歩手前まで到達したのだった。
「うん。3日ほどこのボス部屋で休んだけどそろそろ次の階に進もうか。」
「次の階は最後だって話だし戦いもない筈。でも、一応みんなの体調は完全回復したし、警戒はちゃんとしながらいつも通り行こう。」
「そうじゃのぅ。油断はいかん。」
カナタたちも最後だからと無意識に少し気が緩んでいた。アリスの仲間たちへの配慮と気遣いは少しの気の緩みにも気づき、さり気なく注意するあたりがこのチームを支える一助となっている。それはアリスが生まれてから転移するまでに地球で周囲に怯えて、自分を守る為に身に付けた悲しい観察眼だったが、今は仲間との日々を笑顔で過ごすこの日常がたまらなく楽しく、みんなのためになることは体が勝手に動くほどに当たり前になった。それはアリスが今を守ることに対して本気であるとも言える。
当然カナタもそんなアリスの気遣いや注意力は理解しているし、信頼もしているが、それに気づいてもあえて話の腰を折ってまで感謝も述べない。
カナタはアリスがしたいように生きてーーちゃんと聖悪の判断はするがーーしたいように行動すればいいと思っているし、自分がそんなアリスを支えればいいと最初に誓った時から考えている。お互いが何も言わなくても支え合える関係こそが理想だとすら思っている。
「ノルン。一応お前の鼻での警戒をしておいてくれ。......じゃあ、いくか。」
カナタたちの中で一番の索敵能力を持っているのはアリスだが、常時眼を発動しておくのは効率が悪いため、次に索敵範囲の広いノルンに任せる。当然各々が索敵と警戒を怠ったりはしないが。
こうしてワープゾーンへと入り、カナタたちは次の階層に転移した。
「「「「......」」」」」
「なるほど。他の階層とは全然違う訳ね。」
第101階層は今までのダンジョンエリアとは全く趣が異なり、その広さは三畳くらいしかない。そんな狭い空間にポツンと赤く輝く直径十五センチくらいの玉が浮かんでいた。部屋はその玉以外には何もなく、地面も壁もただただ真っ白なところだった。
カナタたちが全員この空間に入った現在は少し手狭に感じるほどに他の階層とは広さも、雰囲気も違っていた。ヤクモが人化の術を会得して人型になっていなければこの空間では身動きもできなかったことだろうと、カナタとアリスはそんな場違いな思考に至る。
『ようこそ。神々のダンジョンを攻略し者たち。』
赤い玉はその光る身体を明滅させながら言葉を発した。その声を聞いて、カナタたちもすぐに思考を切り替えて不意の状況に備えるように警戒した。
「お前がダンジョンコアか?」
話しかけてきたのだから会話ができるだろうとカナタが質問を返す。
『はい。私はこのダンジョンの"管理デバイス"であり、通称ダンジョンコアと呼ばれるモノで間違いありません。』
ダンジョンコアは玉の外見に見合わないそれこそ人に近い話し方をする。その声色も無機質なモノではなく本当に話しているように感じる。ーー口などは当然この玉には存在しないのだがーー
「俺たちはここまでたどり着いた訳だが、今後はどうなる?そもそも、ここから出られるのか?」
カナタはまず今後のことを聞く。それがわからなければなにも出来ないし、大岩で出口を塞がれているところを見ているから脱出出来るのかも気になった。
『貴方たち、とは言え召喚獣の二匹や、元はこのダンジョンの魔物だった黒龍はダンジョンの操作権利はありませんが、お二人にはこのダンジョンとの契約の権利を獲得されました。この契約により、このダンジョンは貴方たちの所有物となり、私も貴方たちの支配下に置かれます。これによりダンジョンに生み出される魔物の操作や、命令権、この広大な土地の利用権が貴方たちに齎されます。そしてご質問の回答としましてはこのダンジョンからの脱出は可能です。』
「つまり、実質ここは俺たちの拠点として好きに使えるということか。ちなみにこのダンジョンで生み出された魔物は倒しても問題ないのか?」
『はい。その認識で問題ないです。しかし、支配下に置いたダンジョンで生み出される魔物は貴方たちの所有物なので、倒しても経験値は入手できなくなります。また、このダンジョンの外への連れ出しは実質不可能になっております。』
カナタはここでの定期的な修行として、経験値集めができないのは残念だった。
「うん?ダンジョンの魔物って溢れたら外に勝手に出ていくものではないの?」
アリスはカナタからダンジョンの魔物は長期間放置されて数が増えると外に流れ出てくるのではないかという予想を聞いていた。
『神々のダンジョンでは、生まれた魔物はダンジョンの完全支配下に置かれ、普通はその領域から移動することも出来ません。しかし、そこの黒龍のように階層を移動する個体がイレギュラーで生まれることは有りますが、ダンジョン外へは一切出られないよう神が定めております。』
「......」
それを聞いた面々はヤクモはここから出られないという現実を受け止めきれず、黙ってしまった。
『しかし、ダンジョンの攻略を果たした者はその枠から外れ、外界へ出ることができるようになります。』
!!!
しかし、続けて告げられた言葉は皆を復活させるには十分だった。
「「お、驚かせやがって!」」
「ワシ、絶望から復活して若返った気分じゃ!」
『そして、ダンジョン所用者は他のダンジョンを攻略した際にコアを持ち帰り、所有ダンジョンのコアに統合することでダンジョンのランクを上げることが出来ます。ランクが上がるとダンジョン所有者への恩恵も効果が増加しますので頑張ってください。』
「恩恵?」
カナタはダンジョンにランクがあることも知らなかったが、恩恵の話も当然知らなかった。
『はい。ダンジョン攻略者にはダンジョンの所有権と、ダンジョンの加護が与えられます。これは、契約者を簡単に消滅させないための仕様なのですが、ステータスにも加護の表示が現れることとなります。そして、加護の内容ですが、まず契約者は”不老”になります。寿命で死なれてはこちらも困りますからね。次に”状態異常の完全無効化”の能力を得ます。これも契約者を守るための仕様ですね。そして最後に、この”ダンジョンへのワープ能力”と”ダンジョン内でのワープ”が行えるようになります。これによりダンジョンへの即時帰還と階層内の移動が可能になります。』
「不老は私たちには意味がないけれど、状態異常の完全無効とワープは便利ね。」
「俺たちも耐性はあったが無効ではないからな有難い。それにいざという時のエスケープの能力は助かるな。」
ダンジョンの加護はどれも契約者を守り、ダンジョン維持のための能力だか、普通の人間にはとても魅力的な能力だろう。特に不老の能力なんて国を挙げて手に入れようとする勢力が出てもおかしくはないほどに破格だ。
『私は神々のダンジョンであり、長期に渡る魔素の吸収によりランクは最大値のため加護はもう増えませんが、領域を広げるためには統合をすることをお勧めします。』
「うん?神々のダンジョンであることが意味あるのか?普通のダンジョンとは差があるってこと?」
カナタはコアの言い方に疑問を覚え質問をする。
『神々のダンジョンの最大レベルは10です。加護もレベルの上昇に比例してその能力の効果が上昇していきます。一般のダンジョンの最大レベルは5で、その加護は不老と状態異常耐性、そしてダンジョン内転移までしか与えられません。』
「そんなに差があるのか。......神がここに俺たちを転移させたのはこの加護を取らせるためだったのかもな。」
「なるほど。リリーさん達のような結果を見ればあまり褒められたものじゃないけど、神様なりに配慮してくれてたんだね。」
盛大に勘違いをするカナタたちだが、誰もそれを訂正してはくれないのだった。
その後も細かい質問を繰り返したカナタたちはダンジョンコアと契約を行い、ダンジョンの所有権を得たのだった。
よろしければ下の所にある☆で評価やブクマ、感想などを頂けると励みになりますし、とても嬉しいです|△//)




