第100階層の主
ヤクモから齎されたこのダンジョンの情報はカナタたちにゴールを示すものであり、90階層から始まったボスラッシュも今までのゆっくりとした攻略から、ほぼ毎日階層攻略を進めるというハイスピードのものになった。もちろんカナタたちの性格が変わったという訳でもないため、疲労したり気が乗らなかったりしたらその日は休んで休憩とする日常はそのままであった。
カナタたち二人と二匹はそれぞれが龍種の階層ボスを倒した後、順調に階層を進んで行った。そして、約二週間の月日を用いて漸く第100階層のボスの部屋の扉の前に辿り着いたのだった。
「ヤクモ。もう一度だけ聞くが、この100階層を抜ければダンジョン制覇でいいんだな?」
「う〜ん。私たちがこのダンジョンに費やした時間は膨大だったけれど、振り返ってみるとどれも楽しい思い出ばっかりだった気がするよ。もちろん、ボス戦とかの苦労したこともたくさんあったけれどね。中でもムカデとかの多足系の魔物が群れを成して襲ってきて周囲を囲まれた時は気持ち悪すぎてヤバかった。全力で燃やし尽くしたけど。」
『カナタの言の通りじゃ。しかし、ここのボスは儂の目で見る限り他とは別格じゃ。戦闘能力然り、頭の良さ然りのう。そしてこの階層は儂も戦える。理由は不明じゃが、儂のボスに手を出せない枷はここの領域では発動しておらん。故に全力を尽くそう。』
カナタとアリスの纏う気配は、もう既にかなり濃密なものになっている。一般人が剣や武道の達人と呼ばれる人と向い合った時に威圧されるという現象が起こる。これは、己の修行や、経験によりその気配やプレッシャーと呼ばれるものが増して、無意識、有意識問わず相手に放っていることが原因だ。簡単に言うならその道のプロからはなんか凄みがあるなーと感じるようなもので多かれ少なかれ経験があるのではないだろうか。
そしてカナタたちは致死ダメージを受けたり、数々の強敵との戦闘を経験してきたことにより本気で放つ威圧は相当なものになっていたのだ。
カナタ、アリス、ノルン、フィル、ヤクモ、全員が今できる最高の装備と万全の状態で100階層のボス部屋へと続く扉を開けた。
ボスの特性上、扉を開いただけでは動き出すことはない。部屋に一歩でも入ることで敵として認識するのだ。
故にカナタたちはいつも通り部屋の外からボスを確認する。中にいたのは、見た目からは子供としか言いようのない存在だった。身長は百四十センチほどの男の子。白髪で黒目のところが赤い色をしていた。
「......アレはやばい!私の眼でも何も情報が視えない。つまり、これまでの相手とは格が違う。」
『儂の目でも見えんのう。まさか、最下層があんな奴のテリトリーだったとは。皆、心していくのだ。』
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unknown
【レベル】:unknown
【HP】(体力):unknown
【STR】(筋力):unknown
【AGI】(速度):unknown
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アリスたちの目に映るのは、どの情報も読み取れないということだけだった。
「グル!」
「コン!」
「今まで通り前半は様子見で安全重視の戦い方を、後半は相手を追い詰めながら死角をとった者が攻める戦い方で行こう。基本無理はするな。安全第一で!ただ、相手が予想以上の存在だった場合は持久戦でなんとか削りきる。」
カナタの指示に耳を傾けながら、戦意を上げていく面々。そして、アリスの魔法による能力向上のバフを各種掛けて準備が整ったカナタたちはついに第100階層のボス部屋へと入っていった。
カナタは脇に差した刀に手を添えながらまっすぐ敵に向かって行き、アリスは少しでも高威力で魔法を発動するために脳内で詠唱を唱えながら、部屋の壁沿いを左に進んでいく。ヤクモはアリスとは逆方向に向かい、ノルンとフィルはカナタの少し後方から敵に向かう。この時、ノルンは少し右に、フィルは少し左側に逸れながら距離を詰めて行った。
丁度カナタを中心に、アリスとヤクモの間にノルンとフィルがいるような陣形だ。
カナタたちが部屋に入った瞬間に相手も動き出した。しかし、カナタたちとの距離を詰めるのではなく、ただ侵入者を|眺めた《・・・』だけ、といった感じだ。
「やぁ。僕の部屋への侵入者たち。」
「「「「『!』」」」」
突如話しかけてきた敵に対して、カナタたちは驚きと共に警戒をさらに高めた。そもそもここまでで言葉を発し自意識を有した魔物はヤクモだけだった。カナタたちの警戒も当然だろう。
「僕のところまで辿り着いた侵入者は君たちが初めてだよ。改めまして。ここ、E205ダンジョンの”最終管理者”及び、”最終試練員”の508、そうだね、君たちに合わせるならコーヤとでも名乗ろうか。とりあえず僕の役割から説明しよう。僕の役割は君達みたいな侵入者の排除と見極めだよ。」
唐突に語り出したコーヤと名乗るボスに対してカナタたちは警戒を解かずに話を聞く。コーヤもこんなに自然な感じで話しているが、カナタたちですらその隙を見つけられず、警戒するしか出来ないでいた。故に、勝手に話してくれるなら情報はあるだけ欲しいカナタたちは黙って聞くことにした。
「排除と見極めとは、矛盾していないか?どうせ排除するなら見極める意味はないだろう?」
勿論、黙って聞くとは言っても、わからないことは積極的に聞くつもりでもある。
「矛盾しないさ。僕を倒せる者はこの先に進み、ダンジョンコアと契約できる。契約とは、ここを自分の所有物にできるってことさ。今この世界にあるダンジョンの正式な契約者は数えるほどしかいないんだよ?このダンジョンの土地や資源、更には能力も君達のもの。どう?夢が膨らまない?ねえ?」
カナタもアリスもお金にはあまり興味がない。不自由せずに生きていけるならそれでいいと思っているし、土地なんかも興味の外だった。カナタはアリスたちがいる場所ならそこでいいし、アリスはカナタたちがいる場所ならそれでいいと思っている。
「ああ。その顔はあまり興味を示していないみたいだね。まあ、ここの権利については僕を倒せたならコアに直接聞くといいよ。本当は、僕が自我を持っているのはこの説明を僕がするからなんだけれど、乗り気じゃない者に話してもしょうがないし、コアが直接伝えたほうが効率的だから僕が言うことはもうないかな。」
「なあ。お前と戦わなくていい方法はないか?別に俺たちは好き好んで戦っているわけではないんだ。素通り出来るならそれに越したことはないしな。」
ダメ元でカナタは一応戦わない選択はないかと聞いた。
「それはないよ。僕の存在理由はここで戦うことなんだから。くくくっ。初めての会話は楽しいんだね。君たちも何か聞きたいこととかある?何でも聞くよ?ねえ?ねえってば!」
「じゃあ、お前とダンジョンコアの関係はなんだ?」
「コアが主人で僕はその創造物さ。それ以上でも以下でもないよ。まあダンジョンの詳しいことはコアに聞きなよ。」
「貴方は何?人?魔物?それとも他の何かなの?」
「僕は"一つ眼"っていう魔物さ。ただ、ここに永い事いたせいで進化をして今は"メガリア"って種族になったよ。詳しいことは戦いながら把握してね。」
カナタとアリスがそれぞれ質問を重ねた。しかし、戦い方などはやはり教えてもらえないようだ。そして、ダンジョンのことはダンジョンコアに聞けと言うから、そこまで多くの質問はない。
それから二、三質問をして話は終わった。
「さて。聞きたいことももう無いみたいだし、そろそろやろうか。」
コーヤの雰囲気が先程までとはガラリと変わり、その身に打ち付けるプレッシャーは痛いほどだ。
カナタたちも再び戦闘態勢をとり、その時に備える。
カナタは華月を抜き、アリスは周囲の魔素を自分が魔法で使いやすいように変質させる。カナタが華月を選んだのはこの状況で抜刀術を使うのはリスクが高いと考えたからだ。正面からの戦闘ならバランス良く打ち合える華月の方が相性がいい。
ノルンとフィル、そしてヤクモもすでに臨戦態勢を整え、辺りの空気がここにいる高レベルの者たちが放つプレッシャーでさらに一段階重たくなる。
そして、カナタが動き出すのとアリスの魔法が放たれるのは同時であり、コーヤもまた示し合わせたように同タイミングで動いた。
こうして第100階層、ボスの間にてこのダンジョン最後の戦いが始まったのだった。
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