水、土、風と続いて
90階層から始まった階層丸ごとボス部屋仕様による、ボスラッシュとも言うべき連戦が幕を開けた。
90階層はカナタが火龍との戦いに勝利を収めた。ヤクモの齎した情報により、このダンジョンは100階層までしか無いと知った為、このボスとの戦いをカナタたちは最後の力試しに利用しようと考えた。それにより、カナタたちはそれぞれ単独での戦闘に赴いた。
「この階は私がいく。カナタの時同様に余程危機的状況にならない限り私に任せて。」
「いってらっしゃい。アリスなら大丈夫だとは思うけど最後まで油断しないようにな。」
「ぐる!」
「こん!」
『気をつけてのう。』
「うん。それじゃあ行きますか。」
カナタたちの普段と変わらない激励に、アリスも変に気を張らずにボスの部屋の扉を開けた。
「......ふう。"オールバフ"、"オールプロテクション"」
アリスは敵を視認し、自身に各種能力上昇の魔法と各種ダメージ軽減の魔法を掛けた。
そして、準備の整ったアリスはボスの部屋に足を踏み入れた。
「GGAAAAAAYYYY!」
91階層のボスは水龍だった。蒼い鱗に覆われて、その全長は七、八メートル位はある。水龍も火龍同様、質量がアリスの比ではないので、少し動くだけで風を発生させて辺りに被害を及ぼす。それはつまり、アリスもカナタ同様に回避にはいつも以上に注意が必要ということである。
(私はカナタみたいな持久戦はできない。寧ろ狙うなら短期決戦の方がいい。リスクはあるけど大技の連発で勝負をかける!)
アリスもかなり高い不死性を有している。それは、吸血鬼の真祖の血が傷を回復する為だ。しかしカナタとは違い、その回復能力には肉体的疲労と体内に存在する血液という代償も必要である為、無限にできる訳ではない。
「GYAAAaAAAaa!」
先手を打ったのは水龍だった。溜めも最小に抑えた水属性のブレスを口から放ったのだ。
対するアリスもこのボスの部屋に入った瞬間から神眼スキルを使用して、万が一にも備えていた。
そう。アリスは既に神眼スキルを使っている。つまり、アリスの眼にはいくら最小の溜めに抑えたとはいえ、ブレスの予備動作はしっかり見えていた。そして、ブレスで来るならと、万全の態勢で後の先を取るために既に動いている。
(駆けろ!"雷光")
もはやアリスの十八番ともいえる”雷属性の魔法”が、一直線に雷の速度で水龍に迫る。いや、正確に表現するなら水龍の放ったブレスに迫った。
ぶつかり合う雷と水の光線はすぐさま水が雷を飲み込んだ。そしてそのままアリスへと迫る。だがアリスも雷光をブレスとの相殺のために放った訳ではなかったので、雷光を放った後即座に場所を移動していた。そのため、十分に余裕を持って回避できた。
「GIIYYAAAAAA」
響き渡ったのは水龍の絶叫であった。アリスが狙ったのは"通電"である。水は電気を通すため、口から放たれるブレスを伝って水龍は雷光をもろに受けたのだ。
(今!......"神鳴り")
電撃の影響で体が硬直し、動けなくなった水龍に向かってアリス駆けた。水龍の硬直が解けるのとアリスが水龍に辿り着き、その手を鱗に触れさせたタイミングは同時だった。しかし、アリスの魔法は無詠唱でも放てるためアリスの方に優勢の軍配が上がる。そもそも水龍はこれまで生きてきた中でダメージを受けたことはない。そのため、今回のアリスの魔法は電撃による感電の有無に関わらず驚きから動きを止めてしまっていた。
「GYAAAAAAAA」
ゼロ距離で放たれる雷魔法は水龍の硬い鱗を通り過ぎ、その体内をも焼き焦がす。
(はぁはぁ。私の全開の魔法でも耐えきるの!?くっ、なら何度でも放ってあげる!)
アリスはもう既に息が上がるほどに全力で神鳴りを放った。しかし、全身を焼かれた水龍はまだ倒れてはおらず、体が痺れて動けないため、アリスを鋭い眼光で睨んでいた。つまり戦意は微塵も衰えてはおらず、麻痺が解ければまた襲いかかってくるということだ。本来、カナタが相対した火龍や、ヤクモのような龍種は体表面を覆う鱗が高い”魔法耐性”を備えていて並みの術者の魔法ではいくら攻撃しても傷一つつかないのだ。つまりそれはこの水龍にも同様の事が言える。アリスの魔法に耐えたのは高い魔法耐性の賜物であった。しかし、龍種に魔法でダメージを与えるアリスも十分に理を超越しているだろう。
(突き立てるは牙。威するは咆哮。その顎門は全てを喰らう!"竜顎")
奇しくもアリスの放った最大威力の魔法は、雷で形作られた竜の頭部を模したものだった。
水龍と頭部のみの雷竜がお互いに顎を大きく開けて噛みつき合う。
(はぁ。見た感じ水龍にはもう動き回るだけの余力はないように思える。はぁ。私のMPももうほとんどないけど後一発ならなんとかいける。はぁ。"双頭竜顎")
アリスのなけなしのMPで作られた竜の頭部は、先に放っていた頭部と合わさることで双頭の様相になった。アリスの残りMPが少なかったことで最初に放った竜顎よりも少し威力は落ちていたが二つを合成することで十分な威力を持つ魔法になった。
「GRAAAAAAA!」
水龍も力を振り絞りながら噛みつきを返し、腕や尻尾を振り回す。溜めのモーションが必要なブレスは受けるダメージの割に合わないので今はもう使っていない。アリスの眼と魔法発動速度の前では溜めモーションは致命的な隙に他ならなかったのだ。
(くっ。)
しかし、先に倒れたのはアリスだった。MPの完全喪失により極度の倦怠感と疲労が襲い、さらに酷い頭痛にも襲われていた。だが、その場に倒れたアリスだったが既に放った魔法は未だ消えずに水龍に猛威を奮っている。
魔法は、その形を作るために用いた魔素と消費MP、さらに術者の腕次第で効果時間が短くも長くもなる。操作はできないが既に手を離れた魔法は消費したMPを使い尽くすまではその猛威をふるい続ける。
「GYAAaaa......」
水龍もアリスの魔法である雷竜とのせめぎ合いをしていたが、とうとう力尽きた。雷竜も水龍が倒れるのとほぼ同時に形が保てなくなり、空気中に霧散した。
力量はほぼ互角。しかし、戦闘における戦略と一瞬の爆発力はアリスの方が勝っていた。
(はぁはぁ。カッコつかないな。もう少しゆっくりと攻めることも出来たみたいだけど、それは倒した今だから言えることだし。)
ーー水龍を倒しました。500000経験値を獲得しました。ーー
「お疲れ。アリスならバフとデバフの魔法を使って遠距離から徐々に削っていくかと思ってたよ。まさかの短期決戦とはな。」
『龍の体をも傷つける雷魔法とは流石じゃな。カナタもじゃが人類の成長は凄まじいのぅ。』
「ぐる〜!」
「こ〜ん」
「今回は力試しだから火力勝負をしてみた。私の全MPを使えばかなり高威力の魔法が使えることがわかったし、後衛での持久戦も含めて大分いい感じになってきたと思う。ここを出る頃には私の"雷竜"をもっと実用的に使えるようになりたいな。」
アリスも今回の水龍との戦いでこのダンジョンでの日々を費やして得た成長を実感した。しかし、まだまだ今回の水龍然り、上を見れば強者や覇者と呼ばれる存在は沢山いるだろうと今後の自身の成長点を認識したのだった。
アリスの91階層攻略からさらに数日が経過した。水龍との戦いで疲労した体を休めるためにその日はボス部屋で過ごした。また、食事もカナタの時と同様に豪華なものを用意して慰労の会とした。
そして、92階層ではノルンが地龍との戦いに赴く。地龍は龍種の中でも防御力に優れ、ノルンの牙も爪もほとんどダメージを与えられなかった。しかし、ノルンの操る氷の礫はダメージ量的には微々たるものしか与えられなかったが、数時間にも及ぶ攻撃により氷漬けにすることに成功した。最初の攻撃で、氷の冷気で動きが多少ーーほんとに微量ーー鈍くなっていることに気づいたノルンは時間をかけてコツコツと攻めていった。
93階層ではフィルが幻術と魔法、そして爪と牙でこちらもまた時間をかけて風龍を倒した。風龍は今までの龍たちより二回りほど小さかったが、巻き起こる風が体表を覆い、さらに硬い鱗も健在のためにこちらも時間がかかったのだ。ちなみにフィルの魔法は幻術魔法の次に炎魔法が得意のようでよく使っている。
しかし、ノルンもフィルもしれっと龍種を単独で倒せるほどに成長している。魔物の格という点で言えば龍種の方が上なのだが意志を持たないダンジョン産の魔物であれば時間を掛ければ倒せるまでになったのだ。
ヤクモはボスたちに手が出せないため、今回の実力見極め祭りに参加しない。よって、皆がそれぞれ一体ずつ単独でボスを倒したので次からはまたパーティー戦に戻るということで話がまとまったのだった。
ヤクモも龍魔法でカナタたちへのバフやサポートはできるため、周囲に気づかれないように気合を漲らせていた。
しかし、本日もやはり戦ったメンバーが疲労しているために美味しいご飯とのんびりごろごろの昼過ぎを堪能したのだった。
よろしければ下の所にある☆で評価やブクマ、感想などを頂けると励みになりますし、とても嬉しいです|△゜)




