始まりは火竜
カナタたちはパーティーの皆んなが連携をする事で第75階層のボスであるグレーターデーモンを倒した。
アリスはカナタと同じ人間種である。だが、先祖返りにより吸血鬼の真祖でもある。つまり、アリスは人間種であり、吸血鬼種の血も受け継いでいる。
吸血鬼種、竜種が長い歳月を重ねる事で到るとされる龍種、さらに、ノルンの妖狼種とフィルの幻狐種がカナタの周りにいる。これほど種族の垣根のないパーティもなかなかないが、それぞれの種族の周知ランクはネメシアでも上位種の集まりであると言えた。
グレーターデーモンは近接格闘術と遠距離に魔法攻撃の二種類の攻撃パターンがある性質上、魔物ランクもかなり高く、本来なら騎士が数十人単位で挑んでも全滅の可能性があるほどの魔物だった。
それを数人で倒しきるカナタたちは、この迷宮内のことしかわからないので知らない事だがネメシアにおいても上位の存在たちの中に足を踏み入れたと評しても過言ではなくなった。
そして現在。75階層を超えてからさらに月日は流れ、漸く90階層にたどり着いた。階層が深くなるほどにその階層の広さは反比例して狭くなっている。だが、現れる魔物も強くなっている為に攻略時間もそれなりに要していた。だが、90階層に足を踏み入れて直ぐにそれはあった。
「まじかよ。これは・・・」
「やはり私の眼でも鑑定できない。コレはボスの部屋への扉。」
『ここより下は階層は全てがボスの間ぞ。言い方を変えればボスの間一つずつしかここから先にはないと言う事じゃ。』
「ボスの連戦か。まあ、連続で休み無しってわけではなく、階層を超えるんだから自分たちのペースで進めるのだからまだマシと考えるか。」
「あと10階層。サクッと攻略してしまいましょう。」
『そうは言うがな、ここより先は格が違う。それぞれのボスはその階層の魔素を全て己の力にし、そこにいる全てが最上位の魔物たち。皆、ワシと同等の戦闘力じゃ。』
「ヤクモと同等か。しかもヤクモは直接攻撃はできない。ふふふっ。私たちの最終試練はかなり過激そうね。」
「ボスを直接見てから決めるが、出来るなら各階層を単独で攻略していきたいな。せっかくこの長い長いダンジョンを苦労して攻略してきたんだ、最後は少し無茶してでも自分たちの力試しといこう。」
「グルル!」
「コン!」
『はっはっはっ。其方らはまっこと面白い。やはり生を受けたならばその本質はそう、楽しまなくてはな。しっかり進むが良い。ワシは見守らせてもらおう。』
カナタたちはこの先に待つ強大な敵を前にしてなおどこまでも平常運転だ。
それぞれが今持てる最高の装備で挑む。指には身体強化の指輪を装備し、武器も新たに創り出した。着ている服は今までと変わらないがそれでも最高の装備と言える。
ノルンもフィルも気合い十分だ。
そして、カナタたちはボスの部屋の扉を開いた。
「「「『!』」」」
部屋の扉を開いた瞬間に溢れ出るプレッシャー。そしてボスの部屋の中心に存在するソレを見た瞬間に構えてしまった。
カナタは腰に差した愛刀を握り、即座に抜き放てるように。アリスは神眼スキルを発動させられた。カナタもアリスもこの部屋の主人を見ただけでその気配に呑まれたのだ。
「ははっ。ボスは部屋に侵入者が入るまで動かないと言うこれまでで判明したルールまで頭から抜け落ちるほどのプレッシャーかよ。ヤッバいな。ヤクモと同等、か。上等だぜ。くくっ。俺が殺るよ。皆んなは手を出さないでいい。」
第90階層。ここより始まるボス連戦の一番手はその身を真っ赤に燃やす火龍だった。身の丈はヤクモと同じくらいに巨大で身動きするだけで辺りを破壊の暴風が吹き荒れる。牙に爪、その尻尾の先までが鋭い凶器である。
そんな破壊の権化たる姿を前にしてなおカナタは躊躇なくボスの間に足を踏み入れた。
「まずは硬さを見る。頼むぞ、"凪"」
カナタは先ず凪に手をかけた。そしてカナタのその動きに合わせるように火龍も動き出す。
「GYYYNNUAAAA!」
「五月蝿い。」
カナタは火龍の咆哮に反応して一歩を踏みしめた。その踏み込みは一般人なら見ることもできず、咆哮をあげていた火龍も反応はしたものの回避はできず、その身に凪の一太刀を受けた。
「通常の凪の斬り付けでは少し皮膚を切る程度しかできないか。っと!」
火龍もその短い手を振るう。質量差から直撃も掠ることも許されない攻撃をカナタはしっかり回避していく。
「抜刀術、居合、"銀閃"」
「JAAAAAAAAAA!」
今度は抜刀術スキルを用いてカナタは居合を放つ。その剣線は一瞬だけ光をその刀身に反射して、銀の光を放つ。そして迫りくる火龍の尻尾を両断した。
だがその尻尾が撒き散らす風が鎌鼬となり、カナタの体を切り裂いた。
お互いがダメージを負うが、カナタは徐々に回復する。火龍はその身を硬い鱗の鎧に守られている為ダメージを負いにくい。しかし、自身の能力での回復は出来ない。本来なら龍の鱗はそう簡単傷つけることすらできないほどの高度なはずなのだが、カナタの斬撃は鱗を切り裂きその下の肉体にも届く。だがそれは魔法を多重で自身と刀にかけて能力を向上させてようやくその段階である。
「纏術、"水刀"。"身体強化"発動!」
カナタの纏術は魔素を刀に纏わせて切れ味や耐久性を向上させるだけではなく、火や水、風や雷などの魔法属性の性質を魔素を変換して纏わせることが出来るようになった。抜刀術に重きを置いて創った凪から通常戦闘用として創った華月へと持ち替えて戦闘を続ける。
持久戦を得意とするカナタだが別に逃げに徹するとかそういうわけではなく、その攻撃の一発一発は熾烈を極める。そして対する火龍もその巨体を振り回すことで純粋な暴力と化して攻撃してくる。
カナタの華月も水属性のオーラを纏いながら火龍を傷つけていく。
ダメージは双方共に同じ位負って、腕が引き千切れ、骨は至る所が粉々になっている。だが、満身創痍なのは火龍だけだ。カナタのHPの値は半分を切っているが、火龍はもう三分の一ほどしか残っていない。
ネメシアに生きる者のステータスにあるHPとはその者の命の値だ。HPが尽きれば皆死に、これが回復すれば死の淵から蘇る。だが、カナタはこのルールに縛られない。カナタのHPの値は耐久度を示している。死の理から外れたカナタが死ぬというのは精神や自我によって左右される。この数値が減少すれば回復速度が落ち、動きの精細さも欠けていく。そうだな、わかりやすく言うなら戦闘持続時間の数値がカナタのHPの数値と言える。カナタはHPの数値が尽きればもう動くことができないのだ。もちろん死ぬわけではないので時間と共に回復はするが、その間は完全な無防備となる。とはいえ、死のくびきから外れたカナタは一般人からしたらかなりのチートだと言える能力を有していると言えるだろう。まあ、そんな能力を付与できる神のギフトが異常なのだが。
HPの数値はステータスの防御力の数値や種族の特性などで減り方が異なる。つまり、ただの人間と龍ではやはり、死の絶対的可能性が圧倒的に違うのだ。
「GGHHAAAAA!」
何度目かの龍のブレスの予備動作。息を吸い込み、喉が赤く発光するモーションでカナタはすぐに距離をさらに詰め、火龍の背後に回り込む。広範囲で前方を焼き尽くすブレスを回避するには、勇気を持って前に踏み出す方がむしろ安全だ。
「二刀流、"皇呀"」
完全に火龍の隙をついたカナタの全力攻撃はその背を十字に深く切り裂く。右手の花月を振り下ろし、左手の凪は踏み込みのスピードもその抜刀速度に乗せて抜き放つ。溢れ出る大量の血液がその威力を物語っていた。
「GYAAAAA!」
火龍は最後に力なく、しかしよく響く声で吠えた。そしてその姿をドロップアイテムへと変えてカナタのアイテムボックスに消えていった。
ーー火龍を倒しました。500000経験値を獲得しました。ーー
戦闘時間は三時間にも上り、カナタの体は回復も間に合わずにボロボロの状態だ。そして、戦い続けたことでその疲労もかなり重いものであった。
「はぁはぁはぁ。MPも纏術や身体強化で使い切ったし、体力ももうないよ〜。......でもまあ、倒し切った、か。くくくっ。よっしゃーーー!!!って痛てて。なんとかいけるな。レベルもだいぶ上がってきた。少しは慢心しちゃうよなーこんなの。俺も強くなったものだぜ。」
「ふふっ今日は調子に乗ることを許します。」
「ぐる〜ぅ」
カナタはその場に仰向けで倒れ込んだ。集中の糸が切れ、足も不自然にガクガクと震えている。だが、その心は歓喜に満ちていたのだった。
火龍が消えてすぐにノルンはカナタの元に駆け寄った。そして主人を称えるようにその足に、腹に顔を擦り付けて甘える。
『火龍に単独で勝利するとは。外の世界の基準は知らんが、相応の力量はあるだろうな。』
カナタたちは暫しの休憩を取ってから次の階層に進んだ。そしてカナタたちとボスとの連戦の幕が開くのだった。
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