感覚を信じるな
ネメシアにおいて、力とはその者のレベルとステータスに他ならない。レベル一の剣士とレベル二の剣士が戦う場合では、同一の経験下にあるなら、十中八九レベル二の者が勝利するだろう。そしてそのレベルの差が広がるほど力量差、ステータス差は覆すことができないほどに開いていく。
ただし、それは真実ではあるが、全てではない。例えば、同レベル帯での戦いなら経験が豊富なものが有利である。また、戦闘の上手い者、才能のある者がレベルの差を覆すこともある。
第50階層で黒龍にして、階層ボスであったヤクモを仲間に加えたカナタたちは現在75階層に到達した。50階層を出てから数年の月日が流れている。ゆっくりと、そして着実に経験を積み上げて魔法や剣技の腕を上げていった。そしてそのレベルも上がったことでステータス、スキル共に成長していた。
「いや〜ここまで長かったな〜。毒の矢を放つ床や麻痺効果を与える扉、出現する魔物は発見しにくく、いやらしいスキルばかり、そして一度スキルの効果を受ければほぼ死を免れないようなものばかりで、時間かかったからなー。」
「私もカナタも何度も致死ダメージを受けてきたものね。ヤクモが動けない私たちをガードしてくれたり、ノルンたちが私たちを運んでくれたりと沢山助けられてきた。」
「ここまでの道のりでアリスの眼の能力も上昇して、階層の半分くらいなら視えるようになったし、ヤクモの龍眼もある。二人の目のおかげで宝箱はきっちり回収してきたはずだし、装備も充実した。」
「敵の強さが上がって倒すのは困難ではあるけれど、そろそろ安全性を削ってでも、進行速度を上げてもいいと思う。」
『今までは各階層の魔素を正常化するまで魔物を倒してきたが、それをやめるというのか?』
「私たちの今の実力ならそれぞれ各方に分かれても戦えると思う。今までみたいに固まって動くより効率的だし、夜ご飯の時間くらいに再集合すればいいと思う。」
「......ここまでは、氷河エリアに暴風エリアを55階層から70階層までで超えてきた。アリスの魔法や俺とヤクモの魔法補助でここまで来れたわけだけど、確かにこれから先は自分の力だけでも対応できるようになっておきたい、か。」
『ワシもそれで良いと思うぞ。ここからは個の対応力を伸ばしていくのは有効だと思うしのう。』
「ぐる!」
「こん!」
ここまでには、かなりの数の魔物を倒してきた。そしてそれはカナタたちの召喚獣たるノルンやフィルの経験値にも反映され、さらに年月も経過したことで二匹は少し大きくなった。
まずノルンは、その体高が五十センチほど増大した。攻撃力、防御力、そしてその身に有する強力な爪や牙も鋭く強くなった。
フィルもその身を三十センチほど成長させた。幻術のレベルや速力、身体能力はちゃんと成長した。
こうしてカナタたちはこれからの方針も決め、75階層の中へと足を踏み入れた。
「「『「「っ!」」』」」
75階層の罠は転移だった。流石のカナタたちも上の階からの転移後すぐに罠があるとは予想していなかった。
「しまった。ワープゾーンから一歩で罠があるとかありかよ!......見えていた景色が違う。それにみんなもいない。転移、か?いくらなんでも階層を上層へと戻すような転移ではないと信じたいが、まずはみんなとの合流が先か。」
(......私の眼でも十メートル先までしか視えない。この階層の性質は阻害?転移で進むことを許さず、濃い霧で視界を通さず、恐らく道にも何か仕掛けがあると思っておいた方がいいかな。)
『やられた!ワシの目ですら今まで捉えられていなかったとは。煩わしい!』
「「......」」
カナタたちはそれぞれ転移させられた階層を進んで行った。この階層は全てを妨害する。それは、召喚獣を紋章に戻すことも対象に含まれていた。故に、ノルンたちもこの階層を進む。
「これは......幻術か?進んでも進んでも元の場所に戻されている。しかも俺が気づかないうちに戻されているのがたちが悪いな。」
(私の眼を含めた索敵系のスキルも意味をなさないほどの撹乱効果。これはこの階層攻略はかなり時間がかかるかも。)
『出現する魔物の数が少ない。ワシの階層のように皆無ではなく、少ないのが仕様なのかのう?それに漂う魔素も他の階層に比べると少ないし。これは少し厄介かもしれんのう。』
「ガフッガフッ」
「ハムハムッ」
この階層で一番大変なのはノルンとフィルだった。カナタとアリスはアイテムボックスに大量の食料が入っている。ヤクモは食事の必要はない。この魔物の数が少ない階層では食事が摂れないとノルンたちは一食抜かなくてはならなくなる。故に獲物を発見したら即座に狩って腹に収めていった。
実はこの階層は広さ一キロ四方程度しかなく、ヤクモのいた階層とほとんど変わらないほどだった。だが、視覚、感覚、気配などを狂わすこの階層の特性はまともに索敵をさせてくれなかった。ちなみにボスの部屋への扉は、入ってきたワープゾーンから見て北の最端にある。
そうとは知らないカナタたちは約二週間この狭い空間の中で彷徨い歩いたのだった。
ノルンとフィルは少し早くカナタとヤクモと再開できたため、生活には困らず乗り越えることができた。
一番に扉にたどり着いたのはアリスだった。ここにたどり着くのは皆が偶然だ。なにせ頼りになるものが全て妨害されているのだから、そのいやらしさは言わずともわかるというものだ。
「いやー、みんな久しぶり。ここの階層は予想外の塊みたいなところだったな。しかしその分対応力は鍛えられた気がするよ。」
「ここの階層にきて最初に話していた別れて索敵するという話は奇しくも行われたわけだけれど、いけそうだね。」
「次からは、様子見はもちろんするが別れて索敵していくことは決まりだな。このダンジョンも残り僅かなところまで来たし、さらに気合を入れて行こうか。」
『まずは、この扉の先におるボスを倒すところからじゃがなぁ。』
「カナタ。話はこのボスを倒してからでもいい。まずは進もう。」
「ガル!」
「コン!」
こうして、カナタたち全員の意思は扉の先にいるボスに向いた。そして、カナタは扉を開いた。
「敵はグレーターデーモン。レベル七十九の高位魔物。脅威はその魔法みたい。かなり上位の魔法を使いこなす。」
『今まで通り、ワシは階層ボスに攻撃が出来ないから任せるぞ。』
「ついにデーモンが出てきたか。高いステータスに各種魔法適性を持つ万能な魔物だ。しっかり屠って行こう。」
「「行け!」」
「ガル!」
「コン!」
75階層のボスはグレーターデーモンだった。魔物の中では中位のランクだが、その戦闘能力はかなり高い。そして自然発生したグレーターデーモンは知能が高く、言葉を発し、策略、策謀を巡らせることもできるほどに優秀だ。そしてネメシア世界で人々がグレーターデーモンを恐れる理由は、その万能さが故だ。その身体から繰り出される打撃は鉄をも穿ち、操る魔法はかなりの威力を誇る。ここでアリスの言葉と矛盾があるのだがダンジョンで生まれるグレーターデーモンは思考能力が著しく落ちるため中位ランクに分類される。しかし外で自然に生まれた個体は深い知性を持つために高位に分類されるのだ。
そして、ノルンとフィルは相手を恐れず、飛び出した。
「ガルルアウァァアアア!」
「コーーーン!」
ノルンはその足を活かして、高速で駆け、スキルにより氷の礫を放つ。
フィルの幻術によりノルンとフィルは数体に分かれた。また、氷の礫も数を増して襲いかかる。
「キャャアアアアアアア」
耳をつんざくような大声を上げてグレーターデーモンは氷の礫を拳で迎撃する。
グレーターデーモンは上半身が裸であり、頭の両側のこめかみに当たる部分にヤギの角を生やしていることを除けば、その姿は人間と変わらなかった。背丈は百八十センチ程で、ムキムキの体は無駄な脂肪などないように窺える。
成長を果たしたノルンの速度は、現在ここにいる者の中で最速である。さらにその脚力は数回程度なら空を蹴って、空を歩むことも可能になった。そして氷の攻撃も強化されている。
フィルの幻術も効果を上げている。その幻術は幻の枠を外れ、実体を持つ。増えた礫もノルンたちも攻撃に質量が存在することでその技の厄介さは跳ね上がっている。もちろんステータスも上昇しているため、ノルンもフィルもちゃくちゃくと幻獣種たる力に成長している。
「グラッ!」
「コン!」
ノルンの爪はその速度に対応しきれないグレーターデーモンに徐々にダメージを与えていく。
増えたノルンたちは確実に死角から攻撃を与える戦法を取る。
「ギャアアアアアアアア!」
だが、グレーターデーモンがとった対策は広範囲に及ぶ火炎魔法だった。
(消えろ)
グレーターデーモンの火炎魔法はアリスがその魔法の結合を解除し、無効化して魔素に戻した。
「ギ!?」
突如自身の魔法が効果を発動する前に消えたことで、グレーターデーモンは理解できずに動きを止めてしまった。その瞬間を見逃すほどに甘い者はここにはいない。
「抜刀術、居合。"纏ノ一閃"」
『"龍威の目"』
「ガルル!」
「コン!」
カナタが纏術スキルを併用した抜刀術を放つ。そして、攻撃はできないがサポートや支援は出来ると、ヤクモは威圧スキルでグレーターデーモンをさらに拘束した。ノルンとフィルは両側から挟むようにその動けない体に鋭い牙を突き立てる。
だが、本命のカナタの居合はグレーターデーモンの両腕を犠牲にすることで防がれた。
(神鳴りはその姿を変え我が敵に降り注がれる!"竜牙")
アリスの魔法発動とほぼ同時にノルンたちはその場を離れた。そして、一瞬後に雷で形作られた竜の顎門が満身創痍のグレーターデーモンを飲み込んだ。
物凄い爆音と風圧を辺りに撒き散らし、グレーターデーモンは跡形もなく消滅した。
ーーグレーターデーモンを倒しました。350000経験値を獲得しました。ーー
カナタたちの脳内に機械的な音声が流れた。その内容から今の戦闘でグレーターデーモンから得た経験値の事を言っているのは明確で、このように音声で内容を伝えられたのは初めての事だった。他の階層ボスを倒してもこのような事にはならなかったので今回が特別なのだろうと考える。
こうして流れるように連携を重ねて75階層のボス、グレーターデーモンを倒した。ちなみに、このグレーターデーモンは階層中の魔素を取り込むことで強化された個体だった。だが、今のカナタたちの連携と実力はそのボスすらも一方的に倒すほどにまで成長していたのだった。
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