ヤクモ
第50階層、ボスの部屋
カナタとアリスは防御をほとんど捨て、攻撃を主体に黒龍と戦っている。ノルンとフィルも最大火力の攻撃をした後は、カナタたちの手の甲にある紋章に入っている。
カナタは迫る黒龍の攻撃に対して、毎回片腕を犠牲にすることで無理やり体をひねって安全圏に位置させ、残る腕で刀を振るって攻撃に繋げる。
黒龍の体を覆う鱗はとても硬く、頑丈なために刀傷はほとんどつかない。しかし、一点を何度も何度も狙うことでダメージは蓄積し、鱗を貫く。
アリスは瞬間的に神眼スキルを使い、黒龍の初動を見切ることでダメージを回避し、超至近距離で魔法を放つ。カナタとは違い安定した戦い方だが、その黒龍の巨体から生じる風圧はアリスの体を打ちつけ、さらに捻れることで風圧は鋭い刃となって体を浅く切り裂く。
カナタもアリスも回復能力が恐ろしく高いため、傷は受けたそばから回復する。だが痛みは感じるためかなり辛い戦いであることは間違いなかった。
「はぁはぁ。刀に纏い術を施し、身体強化を自身に多重で重ねて攻撃しているのに全然切れない!不死性は俺らと遜色無いぞこいつ!」
「"爆雷"......痛ったいな!もう!頑丈にも程がある!」
もうすでに戦闘を開始してから数時間に及ぶ。カナタの体の一部が吹き飛んだ回数は数知れず、致死ダメージを受けた回数も、もう両の手の指では足りない。
アリスも幾ら神回避しているとはいえ、体の一部分が消し飛んだことも何度もあるし、それこそ切り傷なんかは全身に受けている。
自身が有する回復能力で間に合わない時は、ポーションなどのアイテムを使いながら戦闘を続けている。
一方の黒龍の方も長時間の戦闘で鱗はボロボロになり、腕や足も無数の刀傷や魔法による火傷を負っている。黒龍のブレスは広範囲に及ぶ攻撃のため、その時だけは二人も回避に専念する。ブレスは少しの溜め動作があることでなんとか防げていた。
それからさらに数時間、カナタとアリス、黒龍は戦い続けて傷をお互いに負い続けた。
『クフッ。ワーァッハッハ!良い!良いぞ其方ら。やはりワシが見込んだ通りの実力を有しておる。』
これまで威嚇の咆哮すら発しなかった黒龍が突如として笑い、そして話し始めたのだった。
『ワシの攻撃をここまで耐え.......ここまで受けてなお存命で、さらにあろうことか向かってくる。更には黒龍であるワシの体に傷まで負わせる。面白いことこの上ない!』
「いきなりなんだ?めっちゃ饒舌じゃねーか!」
「さらにワシが見込んだとか言った。ずうずうしい!」
あまりの出来事にカナタたちも攻撃の手を止め、更には動きを止めてしまった。
だが黒龍は変わらず話し続ける。
『其方らは良い!フェンリルに幻狐まで仲間にしておる時点で規格外なのは周知の事実であったが、こうもワシと戦えるとは思わなんだぞ。さて、改めて、ワシは古龍種が一体。黒龍は"ヤクモ"と言う。』
「.............なんのつもりだ?」
いきなり自己紹介をする黒龍に対してカナタたちは警戒は解かない。
『そう邪険にするでない。今までは見ているだけしかできなかったから、試しただけではないか。そもそもこの階層まで到達し、ワシと相見えた者はおらんのだから少しくらい遊んでも良いではないか。』
「アレで少し遊んだだけとは。お前の方が規格外にも程があるだろうに。」
「カナタ、そこじゃない。見ているだけと言った。私たちがこの階層に来る前からのことを言っているように思える言い方。」
『ほう。その娘はなかなか聡いのう。確かにワシは其方らが10階層に辿り着いたときに其方らを見つけ、それから観察するようになった。』
「何故俺たちが見える。特殊なスキルか?」
『ああ。ワシの"龍眼スキル"じゃな。ワシの目はこのダンジョン内なら基本的にどこでも見える。そして、それ故にワシはこのダンジョンにおいて唯一自我を持った魔物である。』
「私の目でも一階層全てを見通すことすらできないのに、そんなことが出来るの?」
「うん。......このダンジョンができてからどれほどの歳月が立っているか分からないが、数百年程度ではないと思う。その間、魔物の黒龍なら魔素を吸収して成長できたはずだ。そうじゃなくてもこの高密度の魔素の中に居続ければ自然と魔物のランクが上がってもおかしくはない。」
「なるほど。私のレベルじゃあまだまだ目を使えてないと言うことか。」
『そうなるのう。ワシが自我を得てからゆうに1万年は経過しておる。格上の眼を持つ其方より優れていても不思議ではなかろう。』
龍眼スキルはアリスの神眼スキルを除けばかなりランクの高い希少なスキルだ。全ての龍が所持しているわけではなく、このヤクモが特殊なのだ。
『ワシはこの目で自身を知り、このダンジョンを知り、そして世界を知った。とはいえ、世界とはこのダンジョンの外にも空間があると知っただけであるがな。まあ要するに、ダンジョンの頸城を外れ、ワシはこの通り自由になっておる。このボスの間より出ることは出来ないがのう。』
「ダンジョンの魔物はダンジョンに縛られているのか?」
『その表現は正しくないのう。ワシらはここで生まれ、このダンジョンのシステムの一部として存在するだけのモノに過ぎない。だからワシが特殊なだけじゃ。』
『クックック。こうして会話というものも初めてしてみたが悪くないのう。さて。本題に移るが、ワシもこの場から去り、其方らと共に行きたい。』
「はぁ!?ななっ、何を言ってんだ!無理だろ!そもそも、ダンジョン生物が外に出ることなんて出来るのか?」
「......いや、でも、この戦力の増加は正直魅力的。」
『まず、ワシがダンジョンから出ることは可能じゃ。ダンジョンには生成限界というものがあり、各階層の魔物の絶対数は決まっている。じゃが、最上階の出口から外に出ることはできる。そもそも意志のないダンジョンの魔物は外になぞ出ることがないから対策されておらん。まあ、このボスの間は普段は扉が閉じているし開かれたことすらないために外に出れなんだから今に至っているのじゃがな。そして、ワシは其方らの関係を見てきた。お互いを支え、お互いを思い遣る。なかなかに良い関係じゃと理解しておる。そこにワシも加えて欲しい。』
「それはない!俺とアリスは特別だ。召喚獣のノルンたちも一心同体の家族と言っていい。だがお前は違う。何も知らないし、知る気もない!」
『確かに仲間にはなってもらえたら助かると思う。でも、私たちの関係までには至らない。それは無理。』
『もちろん其方らのことは知っておる。簡単な関係でないこともな。じゃが、ワシは生まれてこのかたずっと一人じゃった。共に生き、共に言葉を交わし、共に戦ってくれれば良い。今が楽しのじゃよ。其方らの関係も見ていて眩しいほど焦がれておるがな。』
「「...........」」
カナタたちは何も言えなかった。ヤクモの話では、万年規模で孤独だったらしい。この部屋の中に閉じ込められ、出来るのは周囲をその眼で見ることだけ。それを思うと、自身の境遇と少なからず重なり、言葉に詰まった。
「それはそれとして、お前を倒さないでこの階層から出れるのか?」
とりあえず。そう、とりあえずはここを出てから決めようと話を先送りにした。
ただ、迷うという時点で即座に関係を否定した先ほどとは違い、既に大方気持ちが決まっているとも言えるが。
『それは大丈夫じゃ。階層主たるワシが認めれば、次の階層に飛ぶことが出来るワープゾーンが出現する。』
「アリスはどうだ?こいつのこと。」
それだけでカナタが言いたいことはわかる。というより、自分も同じことを考えていたため理解できた。
「うん。カナタの思っている通りでいいと思う。とりあえず協力してここを出る。」
「そうか。聞いた通りだ。ここを一緒に出よう。」
『......かんしゃする!』
黒龍はそれだけを告げた。少し声も震えていたように感じる。黒龍がどれほどの辛さを経験したかはその年月を生きていないカナタたちにはわからなかった。だが、その気持ちを理解するくらいはできる。
「出て来いノルン。」
「フィルおいで。」
「ぐる!」
「こん!」
『おお、お前らか。貴様らも鍛錬に励み主人と共にあり続けよ。ワシはヤクモと言う。以後よろしくな。』
「ぐるぅ!」
「こん!」
今回の件で自分たちの力不足は痛いほど感じたノルンたちは力強く鳴くのだった。そして、ヤクモの言う主人と共にあり続けると言うことに共感した。
こうしてそれぞれの顔合わせも終了し、次の階層へ行くための準備を行うのだった。
よろしければ下の所にある評価やブクマ、感想などを頂けるととても嬉しいです|д゜)




