修行中
カナタとノルンがアリスとフィル達と別行動を開始してからどれだけの日にちが流れただろうか。いや、もしかしたら何年に昇るかもしれない。
アリスとの話し合いにより、カナタの探索時間は夜の時間になった為、昼の時間は基本寝ている。しかしながらずっと寝ているわけでもなく、ある程度のご飯をまとめて作ってアイテムボックスに保存しておくことで時短を図っている。
「今いる階層が44階層のはずだから、もうすぐ合流地点に着きそうだな。まあ、とはいえ、今日明日の話ではないけど。ノルン、周囲の気配はどうだ?俺の索敵には何も感じないけど。」
「グッルー」
カナタの問いかけにノルンは首を振りながら鳴いた。召喚獣とその主人の間では簡単な意思疎通がなんとなくの範囲でできる。それこそ、その感覚は勘と言っていい位のものだがコミュニケーションをとったり、戦闘の打ち合わせをする分には問題なかった。
「魔物のポップ速度を見る限り、そろそろこの階層の魔素も消費しきったみたいだし、下の階層に降りようか。」
「ガル!」
「お前も早くアリス達と再開したいんだよな。下に降りればその分その時が近づくから嬉しいんだな。」
カナタに頭を撫でられながら上機嫌で、以前見つけたワープゾーンに向かう。
カナタもノルンもかなり実力をつけており、以前とは比べ物にならないほどだ。しかし、階を増していくほどに敵のレベルも洒落にならないほどの個体が増えてきており、戦闘を見たところでその実力の変化を感じるのは難しい。ただ、速力も、筋力も、そして武器を扱う腕も上がっている為、行われる戦闘は素人目にはもう見るのも難しいレベルに達していた。
「!」
「ぐるっ!」
突如として地面から突撃してきたモグラのような見た目の魔物の攻撃をカナタは咄嗟に後ろに下がることで回避し、ノルンはカナタが避けたことで無防備に隙を晒している敵に右前脚を振るうことで、その鋭い爪と腕力によってモグラ型魔物を真っ二つにした。
カナタがアリスと離れてから身につけたのは、気配の察知と、索敵の能力だった。
アリスがいればその眼で対応してくれて、声をかけてくれたり、先んじて倒したりしていたが、ノルンでも流石にアリスの眼には敵わなかった。故に自身で対処できるようになる為に敵の中に身を置くことで、今のように敵の攻撃を察知出来るようになった。
「いやー、驚いたな。地面からの攻撃は魔法によるもの以外では初めてだったし、むしろ今のはよくできたな、うん。ノルンもナイス攻撃だったぞ!」
「キュー!」
最近のノルンは鳴き声にもバリエーションが増え、そのパターンでもカナタは感情を判別できるようになってきた。
「しっかし、少し前くらいの階層から敵の硬いことよ。ノルンの爪や牙は何の問題もなく敵を切り裂いているけど、俺の刀や剣は数回使用しただけで折れたり曲がったり、消耗が激しいよ。この刀も何作目かわからないくらい創ったし。」
「グルル!」
「そうそう。お前のは凄いって話だよ。って、こら、のしかかってくるなよ。」
「ガルガル!」
カナタに褒められたのが嬉しくて、ノルンはとうとう我慢できずにカナタに飛びかかってしまった。
カナタもノルンが周囲に敵がいないからこそ、このように無防備になるようなことをしているとわかるから、口では止めるように言うが、しっかりとその手はノルンの頭を撫でている。
因みに、この階層まで来るのにこんなに時間を要したのは、階層ごとの魔物を狩り尽くしているのもあるがその他にも、ノルンとの模擬戦をしたり、新たなスキルを得る為に色々試したりしていたのだ。
魔法、剣術、体術。基本的なものは全ておさめた。もちろんアリスのようなことは出来ないし、剣術もまだ達人の領域とはいえない。
カナタたちと離れてからのアリスは、常に困っていた。まずカナタがいないことで調味料などの消耗品が補充できない。かなりの量をアイテムボックスに入れてあるが、なくなることも頭の片隅くらいには入れておかなくてはならない。次に魔法耐性のある敵に対してアリスは圧倒的に不利になる。そこで今以上に近接攻撃や体術の向上に力を入れたりと、この階層に来るまで苦労しっぱなしだった。時に、魔物からのドロップ品で食料を集めたり、眼を使って薬草や香辛料などを探し回ったりしていた。
アリスも各階層の魔素が枯れるまで魔物を倒し続け、自己鍛錬も怠らなかった。
アリスとカナタは同じ迷宮に居るわけで、時間を分けたと言っても魔素や魔物の量には限りがある。ここまでのボスの部屋は先に倒した者勝ちで、もう一方は素通りしている。
「フィル、分身!」
「こん!」
アリスの戦闘方法は杖による近接戦闘を行なっている。身体強化の魔法を自身とフィルに施している。カナタたち同様得意分野だけでなく、なんでもある程度はこなせるオールラウンダーを目指している。
「"鋭化"、"杖貫"」
「コーン!」
アリスの鋭化の魔法により武器を強化し、貫通効果を施した杖での攻撃を行なった。それのタイミングに合わせてフィルが幻術により敵の視界を一時的に奪った。
「うん。単体との戦闘ならそう苦労せずに倒せるけれど、私とフィルの戦闘スタイルだと数が増えればその分、敵の攻撃の処理に追われて動きにくくなる。幻術も適当に振るった攻撃が、たまたま逃げる場所がなくて当たることもあるし。」
「こん」
「ふふっ。そんなに落ち込まなくても、そう言う欠点を減らす為に今があるんだから。本当にここは戦闘訓練にはもってこいの場所よね。」
普通の人間ならこの場所の過酷さに、戦闘訓練などとは考える余裕すらないだろう。そもそも、アリスたちがこの迷宮に来てからかなりの月日が経った。その時間によるストレスや昼夜問わずの魔物の襲来に精神もすり減ることだろう。
さらに、食事やお風呂なども満足に行うことが普通なら困難になる。しかし、カナタの創造スキルやアリスの魔法で食糧や水、生活物資も手に入る。
やはりこの二人の能力は万能に過ぎるほど優秀だった。
カナタとノルンのペアはきっちりと役割分担をし、ノルンが索敵をしてカナタが攻撃を行うというパターンができてきた。ノルンの攻撃自体も鋭い爪や牙により強力だからこれは一パターンに過ぎない。ノルンが攻撃主体でカナタが投擲や魔法によるサポートも練習中である。
ノルンも流石はフェンリルであると思わせる戦闘センスでみるみる成長している。攻撃力や身体能力は元々高かったが、敵の攻撃に合わせて動く反応やカナタとのコンビネーションは格段に良くなってきている。
アリスとフィルはかなり偏っている。そもそも魔法職のアリスは近接戦闘には向かない筈なのだ。だが、今では普通に、いや、この階層の魔物と対等に渡り合えるくらいだから相当に腕を上げている。とはいえ本職は後衛なので敵との距離は遠い方が戦いやすい。更に、フィルは幻術が得意なので此方も後衛であり、敵を翻弄しながらコツコツ削る戦い方を好む。このペアも戦闘方法はいろいろ訓練して何でもできることを目指しているが、やはり種族的にフェンリルの方が基本的な戦闘面では上であった。
こうして各ペアがいろいろと試行錯誤をしながら階層を攻略して進んでいく。ただ、階が深くなるほどに敵も強くなるため、その分時間も要してしまう。
「そろそろアリスに渡した食料も底をつく頃だと思うし、アリス大丈夫かな?向こうも順調に進んでいればいいんだけど。ノルンも体が少し大きくなってきたし、フィルも会う頃には見違えているのかな。」
「ワフ!」
「そうだな。お前もその頃にはもっと立派になっているかもな。もう一息、頑張って行こう。」
「グルル!」
「私の血の小瓶ももう直ぐ無くなりそうだし、向こうも何か困りごととか出てきているかな?カナタたちは今どんな状況なんだろう?」
「キュウ!」
「そうだね。再会する時までに成長を誇れるくらいになっていたいね。」
「コン!」
カナタもアリスも再会が近づいていることを感じて、お互いの事を考えると共に鍛錬のラストスパートを開始していくのだった。勿論、再会した時に相手の驚く顔が見たいという好奇心がそうさせたのもあるし、更に自分たちの後々の為になると考えて今の苦労を選択するのだった。
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