ノルンとフィル
勿論アリスも可愛いですが、やっと出てきた癒し要素。
カナタたちはアリスが魔法の構築を工夫し、MPの消費を抑えることでそれぞれが使い魔となる生物の召喚に成功した。しかし、いくら消費を抑えたとはいえ、その疲労はとても大きく、二人はしばらく動くこともできないほどの状態になっていた。
そして漸く回復し、自分たちに懐いてくれている召喚獣たちを構い始めた。
「カナタ。この子たちの種族なんだけれど、さっき神眼スキルで調べたところ、カナタの方の子は"フェンリル"の子供。私の方の子は"幻狐"の子供みたい。」
「お前!綺麗な銀色の毛とその小さい体に似合わないほどの風格があるかと思ったら、まさかフェンリルとはな。でもこうして背中を撫でて、そのだらけた顔を見ていると可愛いという感想しか出てこないな。アリスの方の幻狐っていうのは聞いたことないけれどどんな種族なんだ?」
「グルルッ」
「コ〜ン」
カナタの言葉にフェンリルは喜びながら喉を鳴らし、自分のことを知らなかった事に幻狐は寂しげに鳴いた。
「よしよし。幻狐っていうのはフェンリルとかと同じように幻獣と呼ばれる珍しい種族の一種で、この子は幻術を得意とするみたい。でも、幻獣種と言うくらいだからその身体能力も普通の魔物とは比べものにはならないってさ。お前も十分な素質を持っているはずだし、元気出せ〜。」
気落ちした雰囲気を漂わせる幻狐にアリスは優しくその頭を撫でた。
「きゅぅ〜」
「アリスに撫でられてご満悦だな。じゃあそろそろ、新しい家族になったこの二匹に名前を考えましょうか。」
「ぐるー!」
「こん!」
「この子たちも待ち遠しいみたいね。......どんな名前がいいかな。」
フェンリルと幻狐は隣り合って座っているカナタたちの前に、行儀良く犬でいうところのお座りのポーズで待っていた。二匹の尻尾は待ちきれないというふうにかなりの速度で横に揺れていた。
それから少しの間カナタとアリスは名前を考えた。そして先に名前を考えついたのはカナタだった。
「よし!ノルンていうのはどうだ?パッと思いついた名前なんだが、呼びやすいし、可愛らしさとカッコ良さが混ざっている感じがしていいかなと思ったんだが。」
「クゥルルー!」
カナタの考えた名前が気に入ったのか、カナタの座っている足の上に顔を乗せ、お腹に頭を擦り付けて甘えるように鳴いていた。
「ノルンっていう名前を気に入ったみたいね。すごく喜んでいるみたいだもの。お待たせ。私が貴方に考えた名前は、フィル。......どう?」
「コーン!!」
幻狐の方も新たなフィルという名前に喜び、アリスとカナタの周りを駆け回った。
「今日は、いや、当分はノルンとフィルとの触れ合いや戦闘面においてのコンビネーションの練習とかをしないとだから、この付近にとどまる方向で行こうかな。」
アリスもフィルたちも、みんなが手の届く範囲で横になってくつろいだ。
やはり、この二人の召喚獣という事なのか、のんびりすることを好むようだ。
約一ヶ月。二匹の召喚獣を仲間に加えてからは、その存在が癒しなのでかなり進行速度がゆっくり、まったりしたものになった。時には全員で散歩をしたり、アリスが魔法で作った水の輪を二匹が飛び越えて遊んだり、カナタがボールを創ってそれを投げたり、取ってこさせて遊んだりと、とても充実した日々を送っていた。
勿論遊んでいただけでなく、二匹の身体能力や攻撃方法、得意なこと、苦手なことなど、様々な検証を行なっていた。
「ノルンが先んじて敵を察知してくれるから索敵に関してはかなり楽になったな。敵に先制攻撃できるチャンスも増えたことで戦闘もやり易くなったし、数の有利もとれるようになったし。」
「ウチのフィルも幻術で敵を翻弄したり、安全な戦闘が行えるようになってきた。後は、皆んながこれからもレベルを上げて経験を積んでいけばもっといいパーティになれるね。」
「ほら、鹿肉だぞ。今日はそろそろ、歩を進めるのを再開しよう。」
「キャン!!」
「ココン!」
「お肉に関しては、この迷宮を攻略する中で相当量手に入ったし、お菓子類はカナタが最近創ってアイテムボックスに貯蔵しているから生活面は問題ない。そろそろ本格的に戦闘に身を置いてパワーアップしていかない?」
アリスの提案は今までのことを考えればなかなかに予想外の発言だった。
これまでは、この場所を抜ける為に戦闘をし、階層を攻略してきた。しかし今回は自身の力量を上げる為に自分から戦闘を行うことを示唆していた。
「そうだな。パートナーのアリスに、相棒のノルンやフィルもいる。そろそろ階層の攻略を楽に行えるくらい強くなりたいしな。」
「それもあるんだけれど、私たちと違ってこの子たちは不死ではないし、やっぱり痛い思いはなるべくならして欲しくないもの。」
この迷宮や自然の中で生まれる魔物達とは違い、召喚して契約した魔物は人間と同じようにレベルを持ち、スキルを保持する。魔物としてのシステムと契約魔物のシステムはステータスの面で異なるのだ。
「それに、この契約の時に身体に刻まれた契約紋は私たちの間にある目に見える絆だもの。みんなで仲良く、そして強くなって自由に生きていきたいじゃない。」
「ノルンのフェンリルもフィルの幻狐も幻獣種で、幻獣種は魔物の中でも最高位の種族だからそう簡単には致命傷を受けないだろうけど、備えておいて損はないもんな。」
カナタたちの契約紋は左手の甲に刻まれている。形は丸の中に五角形があり、その中に星が描かれている。
契約獣たちは契約紋の中に入り、回復や睡眠を行う。それが一番安全であり、場所も取らないから一般的な魔物使い達は普段からそうしている。
しかしカナタたちは、ずっと一緒にいる。それは家族であるとともに、仲間だから側に居たいというのもあるが、実体を消すというのがリアリティーを無くし、ノルン達との経験の質が薄れてしまう気がするというのが本音だった。
それからの数ヶ月は、かなりハードだった。あののんびり屋の二人が寝食の時間を削り、会話もほどほどに魔物を倒してレベルを上げ、基礎訓練を時間のある時に行いながら日々を過ごした。
二人は今まで攻略した階層に戻り、その場の魔素が枯渇し、新たな魔物が暫くポップしなくなるほどに魔物を殲滅していった。
「俺の剣術もアリスの魔法も進歩している。けど、今のままじゃダメだと思う。いや、ダメだと思うようになった。」
「うん。私も最近二人でいることが当たり前すぎて緊張感が、ううん、ノルンやフィルもいるから四人でか。でも私たちは一回離れた方がいいと思う。私たちはお互いを補いすぎているからこれを基準としちゃいけない。個人である程度は、なんでも出来るようにはなっておきたいから離れようかと思う。」
「......そうだな。俺たちはずっと一緒にいたからそれに慣れきっている。個人で行動したことなんてほんの数えるほどだし。じゃあ、そうだなキリもいいし50階層まで別行動しよう。そこのボスの部屋前でまた会おう。」
「フィルたちも居るから、二対二で攻略して行こう。どっちが強くなるか競争だね。」
「ガル!」
「コン!」
カナタたちは、その日の夕食をバーベキューにし、大いに盛り上がり、大いに騒いだ。フィルたちも肉に野菜とたらふく食べて今は仰向けで服従のポーズで腹を出して横になっている。
カナタたちも騒ぎ疲れてノルンたちのそばに腰を下ろした。
「カナタのご飯も食べおさめしたし、これからは大変だ。フィルもよろしくね。」
「俺たちの方はどういこうかね。先ずはノルンとのコンビネーションを見直していこうかな。」
カナタとアリスの話題は下を向かない。不老不死の二人と寿命の理の外にいる魔物の二匹は時間と諦めない気持ちさえあればいつかは会える。だから二人の思考と会話はこれからの階層攻略へと向かう。
「どうせ別れて鍛錬するんだから再会はその時が来るまでしたくないし、俺が夜に階層を探索するからアリスは昼に行動しなよ。」
「それいいね。でもカナタは寝る時どうするの?私の魔法がないから警戒しないといけないよね?」
「そこはノルンがやってくれるよ。ノルンは寝ている状態でも警戒出来るらしいし、普段は抑えている気配を放てば弱い魔物は近づいて来なくなるしね。」
「そうか。フェンリルの気配なんて普通の魔物が寄って来なくなるに決まってるよね。」
二人の会話は夜遅くまで行われ、久しぶりに時間の流れを感じながらその日は過ぎていくのだった。
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