召喚魔法
「BUMOOOOORAAAAAAAA!]
「くっ!」
「”ライトニング”」
「斬!」
オークの太い腕がカナタを襲い、その理不尽な破壊力を喰らうまいと両手に持った刀をクロスすることで攻撃を一瞬だけ受け止め、さらにインパクトの力が自身に掛かる一瞬に相手の攻撃に逆らわないように体を捻りながら後ろに受け流す。
カナタに攻撃を行ったオークに対し、自身がフリーになったことで存分に魔法を放つことができた。しかしカナタとの距離が近いため、敵に一直線に向かうライトニングの魔法を使うことに決めた。更に、雷属性の魔法なので直撃した相手は少なくとも一瞬は体が痺れて隙ができる。そのタイミングでカナタも切りかかった。
今カナタたちが居るのは迷宮の第25階層で、洞窟エリアである。10階層から20階層まで続いていた廃墟エリアは洞窟エリアに変わり、25階層に居る今もなお洞窟エリアは続いている。そしてこの階層ではオークが群れを成して生息しており、漸く最後の一体を倒すことができたのだった。
「ふぅ。お疲れ。オークはそこまでの攻撃スピードではないけれどやっぱり火力がえげつないな。ガードしていても吹き飛ばされるし、直撃を喰らおうものなら数分は動けないーー普通は即死ーーダメージを貰っちゃうし。」
「少し前の階層に居たコボルトたちもそうだったけれど、集団で行動しているのはめんどいよね。数は力って言葉があるけれどまったくその通りだし、避けるスペースがない攻撃されたら詰んじゃうもんね。」
16階層から出現しだしたコボルトはゴブリンのように体は人間のような見た目で、その身長は子供サイズだ。そしてその頭部に犬によく似た顔を持つ。コボルトは集団で獲物を襲い、弱らせて仕留めるという戦法をとる。コボルトの戦闘力は単体ではゴブリンとそう変わらないが、集団戦になるとうまく連携して戦うことに長けており、その強さは跳ね上がる。
そして、20階層からはオークが出現した。体長は二メートルを超え、その体は筋肉の鎧に包まれている。顔はブタのような見た目で知能の低さを物語っているように見える。だが当のオークは確かに知能は低いが、戦闘面においては連携し、集団で戦うことができるだけの賢さはあった。オークは肉弾戦を行うために敵に対して接近して襲い掛かってくる。その迫力たるや、さながら筋肉の壁が大挙して襲ってくるかの如くの恐ろしさであり、その攻撃力も一撃一撃が致命に達するほどのものであるため気が抜けない。
「今回の一体で飽和状態も解けたみたいだし、明日か明後日にはボスに挑戦しようか?」
「オークも確実に倒せるようにはなったけれど、やっぱり戦闘能力の向上はもう少し必要だよね。今日明日で、最終調整していこう。」
二人がこの階層に降りてきたのはもう数か月も前の事であり、これまで数多くの敵を屠ってきた。さらにそれらを索敵している中でこの階層は粗方調べ尽くしていたので、ボスの部屋の場所も突き止めていた。
それからさらに数時間の戦闘を終えて、自分たちのベースキャンプへと戻ってきたカナタたちは少し遅めの昼食をとる。
「この階層の利点はオーク肉が大量に手に入ることと、香辛料がドロップする魔物が多く生息していることだよな。食の面では、野菜も、肉も、調味料もすべてこの階層の魔物がドロップするから充実してきたことが最近の評価ポイントだな。」
「最近は、ご飯の調理に前以上に凝ることができるようになったからその分味も大満足できる品になって良いよね。」
野菜類をドロップする植物型の魔物や、香辛料などをドロップする魔物などこの階層は数多くの魔物が生息しており、洞窟エリアをある程度進むごとに生息する魔物の分布が分かれている。そのためドロップアイテム目当てで魔物を倒すときも生息場所が解り易くてカナタたちはにはこの階層の仕組みが重宝していた。
そしてこの階層の魔素の飽和状態を解除したという事はその分のドロップアイテムを手に入れているという事でもあった。
「今回は昨日から煮込んでいるこのオークシチューが登場です。もう肉は十分煮込んだことで口に入れた瞬間に解れるほど柔らかくなっています。シチューもハーブや香辛料を豪華に使うことで刺激的かつ、後味は優しい口当たりになっていると思う。お昼はこのパンをつけて食べよう。」
「......うんまぁ~。食の充実が著しい。敵との戦闘でお腹が減って、美味しいものを食べる。はぁ~幸せすぎる。」
二人の食事は大満足な味に舌鼓を打ち、あっという間にその時間は終了してしまった。しかしその感覚は食べていた当の本人たちだけであり、お喋りなどをしていた時間もあるためゆうに二時間は経過していた。
「カナタ~今日はもうだめだ~。私のお尻はここに根付いて動けなくなっちゃった。今日はもう休もう!ボスへの挑戦はもう少し日にちを延ばそう。うん。そうしよう!」
「......まあアリスが乗り気でないならそれでも俺は一向に構わないんだけどな。じゃあ今日の空いた時間はどうする?お茶淹れようか?のんびりするなら要るでしょ?」
「は~い。お茶要りま~す。」
アリスはカナタの提案に手を挙げてお茶を求めた。カナタはそそくさとお茶の用意をして、アリスの前のテーブルに湯呑を置いた。
「じゃあもうちょっと休んだら、新しく作った魔法でも試してみよう。私の魔法真理のスキルで存在は知っていたんだけれど消費MPがバカにならなくて今までは使えなかったんだけど、漸く術式の改変も完了したからカナタにも試してほしいんだぁ。」
「おお。俺にも使える魔法か!戦闘系の魔法?」
「ううん、違うよ。これは”召喚魔法”に分類される魔法で、使い魔とかを召喚できるの。でも、改変前の状態の魔法はMPを五百程度使って漸く発動できるほど大変な魔法なの。しかも召喚される生物は何が来るか分からないという、博打的な要素もあるし。そもそも通常の使い魔って、そこらに生息している魔物に魅了の魔法を使ったり、知能の高い魔物と奇跡的に交流することで使い魔として契約してくれたりって方法がほとんどで、魔法で呼び出すこの方法はかなり前にその技術自体が途絶えちゃったみたい。」
「きっと嘗ての天才が生み出した魔法なんだろうけど、MPが今の俺たちの有する絶対値の倍以上に必要って時点で使える人なんて限られるだろうしな。しかもそうまでして呼んだ使い魔がどんな奴が来るか分からない時点でさらに使用頻度は減るだろうしな。」
『私が改変した今でも現状の私たちのMPでギリギリの値までしか減らせなかった。召喚魔法で私たちをこの世界に送ってくれた神様たちはやっぱり規格外の存在なんだと改めて感じるよ。人の召喚なんて、消費するMPの桁が数個違うほど莫大なMPが必要だし、個人でなんて絶対無理だと思う。」
そもそも召喚魔法は、召喚する生物を呼ぶために次元層に穴をあける必要がある。そしてそれを行うのに魔素を使うのだが、次元を割るというのはやはり想像通り大変なことで、その形態に魔素を変質させるのにもMPが莫大な量必要なのだ。
しかもこれは何も指定もせずに同空間に呼び出すだけの魔法のことで、さらに、場所や、性別、時間など、指定していく項目が増えるごとに使う魔素も増大していくので比例してMPの消費も増える。
それから食休みに一時間ほどまったりと過ごした二人は少し開けた場所にやってきた。勿論召喚される生物がどの程度のサイズかわらないため、このような場所に移動した。
「じゃあ詠唱を描いていくから、カナタがそれを唱えて。勿論集中力を切らしたら私たちの魔力量では魔法を維持できなくなって失敗するから頑張って!」
「よし。じゃあ行ってみよう。「『内なる力の脈動が容得て我が前に顕現する。その性質は鏡。我が身を映す鏡であり、我が身と共に歩む分身也!”サモンズゲート”』」
カナタは額から球の汗を流しながら、目の前に現れた直径一メートル程の黒い輪が靄を吹き出しながらその場に留まるように堪えている。カナタはMPの大量消費により自身の全MPの完全消費による眩暈と倦怠感、そして頭痛に襲われて今にも倒れそうだった。しかしそれを気合いと根性、そして意地で耐えきった。
「キュゥイ!」
「はぁはぁはぁ......はぁはぁ」
「......かわいい。」
黒い輪から現れたのは、体長五十センチほどで白銀の毛並みを持つ犬だった。見た目からその犬はまだ子供であり、疲労のあまりその場に倒れて荒い息を上げ、動くこともできないカナタに擦り寄り、そしてその頬に頬ずりをしてはぺろぺろと心配をするように短い舌を出して舐めていた。
カナタもその行動に胸が暖かくなると共に、今は腕も上がらい程疲労しているため、その顔を見つめて優しく微笑むことしかできなかった。
「内なる力の脈動が容得て我が前に顕現する。その性質は鏡。我が身を映す鏡であり、我が身と共に歩む分身也!”サモンズゲート”」
カナタに懐いて甘える小動物を見ていたアリスはその可愛さに我慢が出来ずに、自分も召喚魔法を使った。カナタと同様に飛びそうになる意識を必死に堪え抜いたアリスもその場に座り込み、動かない体で必死に回復を図る。
「コン」
アリスが召喚したのはキツネの子供だった。その体長は三十センチほどで、薄紫の毛並みをしている。そして尻尾と耳は真っ白であった。カナタの召喚した犬もそうだったが、その顔はまだ幼さが残り、とても愛嬌のある可愛らしい顔をしていて、今すぐにでも抱きしめたくなる存在だった。
子狐もアリスの元に寄って行くと、その顔を伺うように、そして心配するように覗いていた。
カナタもアリスも暫く動くことができなかったが、二人の召喚した二匹は自分の主人を心配しながらも周囲の気配はちゃんと探り、守る体勢は既に出来ていた。
二匹の小さなガーディアンに守られながら、カナタたちはなぜかその小さな身体に安心感を感じ、ゆっくりと休ませてもらうことができた。そして数時間後に漸く体を動かせるほどに回復したのだった。
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