ドッペルゲンガー
第15階層、ボスの部屋
部屋を眩い光が包みこんだ時に神眼スキルを発動していたアリスは、遅くなった視覚情報の中で思考だけは高速で展開していた。アリスの神眼スキルはあくまで視覚情報の強化である。故に遅くなっては見えるがアリスの動きはその速度下では動けない。アリスが神眼スキルを用いて相手の攻撃を躱すのは、攻撃の予備動作を体の向きや、筋肉の動きなどから読み取り、更にその攻撃が通る位置を計算することで見切っているのだ。
つまり今回のように気配もなく、広範囲に対して影響のある技は視ることはできても回避は追い付かないのだった
(......カナタが居ない。光が見えた時にその術は魔法だと思って術式を書き換えて消そうと思ったけど、あれは術式は存在せず、魔法じゃなかった。私の能力ではスキルまではその対象外だし、そもそもスキルは神のシステムが自動判断で与え、そしてその発動はどのようにして起こっているのかなんてそれこそ神しか解らないだろうし。)
スキルや魔法などこの世界ネメシアの根幹たるシステムは、世界創造の時に神々が定めたものであるだけに解析ができていない事柄が多いというのが現状である。アリスの魔法真理など、特別なスキルでもない限りそれを知ることなど不可能である。
(感覚的に転移の魔法は使われていないだろし......転移を行うことができスキル?さっきの光にそういった効果があったとかなら拙い。此処がさっきまで居た所と同じように見えるけれど、確証はないしとりあえずは分かることから対処しようか。)
アリスもカナタ同様に転移の可能性を考慮したが、魔法による干渉はなかったと分かるため、それ以外のスキルなど、カナタより深く考えることができた。
しかし、カナタの時と同様に影が動き出したと認識したと同時に、とりあえず視えている事柄に対処を始めるために油断なく構えた。
アリスは神眼スキルを使いながら部屋を確認した時に既にその影の正体を視て知っていた。しかし影に対して攻撃が通るのか、何が効くのかなどのわからないことが多く、また、攻撃を行ってから自身と接触しているこの影がどの様な攻撃を行ってくるのか分からなかったから観察と思考の展開に時間をかけていたのだ。
=================================================
【ドッペルゲンガー】
【HP】(体力):5
【MP】(魔力):10
【STR】(筋力):5
【AGI】(速度):5
=================================================
(”ドッペルゲンガー”見た目、能力共に変化者と全く同じに化ける魔物、ね。私の姿をとっているから自分と戦わないといけないわけね。”光玉”)
「”光玉”」
アリスが光魔法で作った光の玉を自分の周囲に三つほど浮かべた。するとドッペルアリスも同様に光の玉を浮かべる。
アリスとドッペルアリスの違いといえばその目しかなく、ドッペルアリスは普通なら白目の所が黒く、黒目の所が白いという言わば反転した色合いの目をしていた。
「(”ライトニング”)」
両者はともに同じ魔法、同じタイミングで攻撃を行い、同じように自身に迫る魔法を掻き消す。
(なるほど。術式改変も私と同じように使えると。でも、神眼スキルは使えないわけね。やっぱり神から貰ったギフトカードで特別に得たこの力は文字通り特別ってことね。でもこれは長期戦になりそうかな~。カナタは大丈夫かしら。)
(このっ!)
アリスは普通に放つ魔法はドッペルアリスには意味がないと先のライトニングの魔法で確かめることが出来たので、杖による肉弾戦に戦い方を変えた。右から杖を薙ぐように払い、ドッペルアリスに躱されるとその杖の勢いのままに回転して後ろ蹴りを放つ。
カナタとの練習により魔法だけでなく、接近戦も問題無くこなせる様になったアリスの攻撃はさながら舞の様に流れに身を乗せた、言うなれば舞闘であった。
しかし、同じ能力を持つドッペルアリスも鏡写しのように同じ動きを左右対称で行うことですべて迎撃される。
そもそも神眼スキルにより回避能力がずば抜けて高いアリスは、攻撃と攻撃の間で次の動作に繋がるように体を動かして回避するために攻撃から防御に切り替わるときに動きが途切れない。しかしそれは無酸素運動を常時行う事と同義であり、長時間は続かない。
ドッペルゲンガーとは生物というよりは、鏡やゴーレムと近い存在であり呼吸や瞬き、疲労などは存在しない。しかし素の状態では自身で動くこともできず、影としてただそこにあるというなんとも特殊な魔物である。これによりアリスの眼でも最初は捉えることができず、気配も感じられなかったのだ。
しかし、変化を行うとその対象へと姿を変えることができるため動くことが可能になる。ただし、変化した対象と同じになるという事は、それが人間であるなら呼吸も必要であるし、疲労も感じるという欠点もある。
(ドッペルゲンガーは大したステータスを持っているわけでもないのに、そのスキルが厄介すぎる魔物なだけに一筋縄ではいかないか。)
杖による武器攻撃、打撃や蹴りなどの格闘攻撃、更に隙をついて放った魔法攻撃など数時間に及ぶ戦いにより徐々にダメージをお互いに与えあってきたが、漸くその戦いはアリスの勝利で幕を下ろした。ドッペルゲンガーのコピーはアリスの神眼スキルなど、コピーできないものも存在する。アリスの回復能力は吸血鬼の真祖への先祖返りという現象の副産物であり、ただアリスをコピーしたドッペルゲンガーではその回復能力までは得られなかった。そもそも、神が貴重な存在であると判断し、世界の崩壊から救うほどには貴重な存在であるアリスの原種であるという事柄まではコピーできなくて当然ともいえる。
アリスはドッペルゲンガーが回復しないという事を序盤のうちに理解し、コツコツとダメージを与えて自分が有利に戦えるように仕向けて行った。
そうして何とか倒すことができたのだ。
(はぁはぁ......はぁはぁ。回復能力がなかったことからカナタの方も攻略法はあると思うけれど、やっぱり心配だし合流したいな。MPも大分消費しちゃったけど早くカナタを探さないと。)
「「”飛閃”」」、「「連斬」」
カナタの方はアリスの所よりさらに激しい接近戦を繰り広げていた。お互い刀の間合いの中で斬撃と回避を行い、自分の見えている情報と直感を信じて死中に活を掴もうと切り合う。
カナタは最近身につけた、魔素を武器に纏わせて飛ばす技、飛閃をも使いながら戦う。
激しい剣戟による戦いはその体に数多の切り傷を与えるが、同じ技で返される攻撃にカナタも傷ついていく。
しかし、アリスと違うのはその攻撃の多重性で、カナタの場合は攻撃をするには一太刀振らなければならない。それは遠隔斬撃も然りで、時間が経過し疲労すればするほどに次の攻撃の精度は劣化していく。勿論ここまでの階層で修業を積んだカナタの身体能力は、レベルの上昇と数多くの戦闘経験によりかなりのものになっているがそれはコピーした相手にも言える事であり、その戦闘はなかなか決着がつかなかった。
疲労により、刀を振り続けたその腕は持ち上げるのすら苦労し、最初の時のキレはもうどこにも見られなかったがそれもまた相手も同様であり、客観的に見ればもう二人の斬撃は大振りの連続でなかなか当たることがない。
だがカナタの表情は笑っており、この両者刀による接近戦を楽しんでいた。自身の体はもう思った行動とは程遠い軌道を描いているが、刀と刀をぶつけ合うその戦闘はこの世界に来て思い描いた剣士の姿であり、また、客観的に自身の太刀筋を見れるこの経験はなかなかに有意義であった。勿論アリスの事も心配だが、敵が回復しないこの現状を見た時にアリスの負けはないと確信したため少し戦いを楽しもうと予定を少し変えたのだ。
だいたい、アリスは被弾を気にしなければ特大魔法を広範囲に放つ事で早期決着をつけることもできるとカナタは考えた。確かに相手がアリスの能力をコピーしているなら魔法を掻き消すことができるかもしれないが、その許容範囲は他ならぬアリスが一番よく知っているのだし自分が着弾までに解除しきれないほど膨大な術式を構築すればいいのだ。ただ、それを放った後はMP切れは確実であるし、自身もダメージを負うため最後の手段だとも思ったが。
こうしてアリスよりもさらに長時間戦っていたカナタだったが無事ーーダメージはあるがーー敵を倒すことができた。そしてドッペルゲンガーとの闘いにより限界近くまで追い込んだ体は疲労し、ヘロヘロだったが突如その体はまた眩い光に包まれ、次に目を開けるとそこは最初に居たボスの部屋であり、アリスもそこにちゃんと居たのだった。
よろしければ下の所にある☆で評価やブクマ、感想などを頂けると励みになりますし、とても嬉しいです|д゜)




