新たなる世界へ向けて
カナタたちは女神から与えられたアイテムボックスの使い方や使用感覚などを各々が確認していた。
とは言っても、突然この場所に召喚されたので持っているものは少ない。というよりは身に着けていたアクセサリーしか持ち込めなかったのだった。
現にカナタにしても所持していたスマホや財布などはいつの間にかなくなっていた。
女神ウルスラ曰く、この空間に呼んだのはカナタたち本人であり、所持品は時空間移動に耐えられなかったのだろうとのこと。
スマホに関しては少し残念な気もするが、まあこれから行くところでは使えるのかもわからないので、もう既に割り切ると決めている。
とまあそんなこんなで数分間、確認作業をしていたわけだ。
確認作業で分かったことは、
・アイテムボックスに入れたものはカナタの世界でいうところのゲームのように各項目でまとめられている。
・同じアイテムは九十九個までまとめることができる。
・取り出すときは基本的に一つずつしか取り出せない。しかし、お金など袋などでまとめて収納していた場合はその袋を取り出すことになるのである程度まとめて取り出すことができる。
・これらの収納したアイテムなどはアイテムボックスをイメージすることで、ステータス画面と同じく所持者の目の前にリストがパソコンの画面のように表示される。
・ステータス画面もそうだったが、アイテムボックスのリストの画面も所有者以外には何も見えない。しかし女神ウルスラ曰くステータスはそれを確認するスキルやアイテムなどもあるらしい。
「さて、みんなの確認も大体済んだみたいだし、最後に本命の特典をあげちゃいます。」
(アイテムボックスだけでも結構有難いものなのに、次のが本命って、もろうのが怖くなるレベルなんですけど。てかもう怖いんですが...)
「私たちからのプレゼントはこれ!”ギフトカード”よ!!」
「『......ギフトカード?』」
「そう。私たちからのギフトを込めたカード。これはなんでも一つ望んだ効果を齎してくれるわ。ただし、あなたたちの願いを判断するのは管理システムだから稀に願ったものそのままじゃないこともあるけど。」
(はい、やばいやつキター!)
「要するに抽象的すぎる願いだとシステムの判断があなたたちが思っていたものとズレることがあると覚えておいて。あと、このカードはここでは効果を発揮できないからネメシアについてから使ってね。もちろん願うことを迷っているなら後でしっかり考えて決めてもいいしね。」
そういうと女神ウルスラはその掌に五枚のカードを出現させた。そしてそれはカナタたちの手にフヨフヨと飛んでくると各々の右手に触れ、それぞれが勝手にアイテムボックスに収納された。
カナタたちは何度目かの沈黙に陥っていた。ほかの四人はどう感じているのかわからないが、カナタは貰ったものの凄さに驚くとともに使い道に関しても、もうすでに考え始めていた。
みんなが黙り始めてから数分、おそらくタイミングを図ていたのだろう女神ウルスラが沈黙を破った。
「さて、渡すものも渡したし大体の説明もしたと思うわ。この場所に名残惜しい、また私にこうして会えなくなるのが辛いというのはわかるけどそろそろネメシアに行ってもらいましょうかね。」
確かにに美しさでは類を見ないほど美しく、会えなくなるのが寂しくないかと言われれば、寂しいのではあるが、本人にそれを言われるとやはり認めたくなくなるとカナタは思うのだった。
しかしそんなことを考えていて、ふと思いついたことがあった。
「そういえば、僕たちの故郷に関して滅ぶのはわかったのですが、それってまだ確定しただけで星はまだ残っているはずじゃないんですか?それを新たな星にしたっていうのはどういうことなのでしょう。」
カナタはふと思ったことを質問してみた。
「あっ」
「確かに」
「そういえばそうだ」
他の面々もカナタの質問に反応する。とはいえ白髪の少女だけは驚いた顔をしただけだったが。
「ああ、よく気付いたわね。」
その言葉に一瞬だがカナタたちに緊張が走った。それは特に女神ウルスラが威圧したわけでも何かの感情を表に出したわけでもない。今までと同じ声音、声量で普通に発した言葉だった。
しかし、ここにいる五人はそこらに吐いて捨てるほどいる人間ではなく、それぞれの種族の原種たちだ。特に意識をしていたわけではなかったが前後の言葉のつながりだけで脳が、そして体が勝手に警戒していたのだった。
しかし女神ウルスラは特にそれらの行動を気にするわけでもなく、
「あなたたちが存在していた地球や、世界はこの場所とは根本的に違うの。わかりやすく説明するなら、ここには酸素もないし、時間の概念もないし、光や闇といった要素もないのよ。」
カナタたちは言っていることの意味が理解できなかった。なぜならカナタたちは、当然この空間に来てから今まで呼吸をしている。さらに言えば、この空間に来て真っ先に思ったのは辺り一面白い空間であるといったことだった。
なのに酸素が無いと言われ、さらに光もないと言われた。こんなにも意味の分からいことはないだろう。
混乱極まるカナタたちに女神ウルスラは情報を追加する。
「この空間は私たちに言わせると、高位情報総合統合空間なのよ。それをあなたたちにもわかるように説明すると、そうね......この空間では私たち神はその名のもとに何でもできるの。
つまり、酸素がなくてもあなたたちを生存できるようにし、光、闇の濃淡がなくても辺りを確認して見ることができるようにしてある。」
告げられた内容はこの場所にきて一番の驚きをカナタたちに与えた。そしてそんなカナタたちを見て女神ウルスラはカナタたちが状況を受け入れるまでの少しの時間、次の言葉を待っていてくれた。
そうしてまた数分後、状況を把握し今まで十分理解するのが追い付かないほどの経験をしたと思っていたカナタたちはそれ以上にとんでもないことが起きているとようやく理解した。
そんな様子を見ていた女神ウルスラは先の質問の答えを述べる。
「で、この空間は時間の概念そのものが違うからあなたたちは今現在、あなたたちのいた五つの世界が滅んで私たちが創世した世界のある時間軸にいるのよ。」
ふと思いつきで聞いたことだったが、カナタたちはそのことの内容にやはり神の起こす行動は自分たちとは文字通り次元が違うのだと五人全員が何の迷いもなく認識した。
「ただ、あなたたちを送るにあたって、何もない世界に送って一から国興しや世界の開拓なんかをやらせるのはどうなのかと他の神から意見が出たの。だからあなたたちが行くのは創世後しばらくたった世界になるわ。」
「さっきも言ったように人も、モンスターも、魔法や、文明もある程度に発展して、丁度いいころだと思うわ。......それに見てる私たちもやっぱり面白い方がいいし。」
カナタたちは奇しくも五人全員が最後の言葉がとても引っかかった。しかしここまでの好待遇のことをしてくれる女神ウルスラたち神に対して何かを言うことはできなかった。
「ああそうそう、あなたたちが行く”ネメシア”だけどほかの世界とは違って五つの世界を統合して創った世界だからほかの世界とは少し異なったところがあるの。」
「まず、魔法文明の優れた世界にいたエルフちゃんなら行けばわかると思うけど、魔素の量が普通の世界よりかなり多いわ。もちろん人体に影響はないし、魔法に関してもちゃんと行使できるわ。ただ少しモンスターが強く成り易くなっているわ。あと誤差だけれど、魔法を使った後のMPの回復スピードが速くなっているくらいね。」
「でも、魔素が多いから土地や木々の自然なんかもエネルギーが行き渡っているから資源とかは豊富に採れたりするわね。」
「他にもあなたたちの世界の要素を少なからず吸収して世界ができているわ。魔法にしろ、モンスターにしろ科学にしろね。あとは、魔素溜まりからできるダンジョンなんかもあるわね。それに当たり前だけどほかの世界より面積......というか空間が大きいわ。だから一つ一つの国の国土なんかもそれに合わせて広くなっていたりして、あなたたちが興味があれば世界を回ってみたりするのも面白いと思うわよ。」
こうして女神ウルスラが提示したこの世界のことはカナタに少しのワクワクと、それでも自分の知らない四つの世界の要素に対する不安を感じさせた。
「じゃあそろそろ送るわね。」
そう言うと女神ウルスラは表情と声音を真剣なものに変え
「五人の若き原種たち、あなたたちのこれからが実りある未来であるとともに世界の礎とならんことをここ、神界より祈っています。」
その声を聴いたカナタたちは、眩い光に全身を包まれ、神界から”ネメシア”に送られるのだった。
やっぱり魔法や便利なスキルは憧れますよね。皆さんはギフトカードで願うなら何を望みますか?