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誰が為に  作者: 白亜タタラ
ダンジョン攻略編
39/108

アリス

 第28032世界、地球


 その日は突風が吹き荒れ、それはもの凄い土砂降りという近年まれにみる悪天候を記録した。また、各地で雷が轟、人々は皆家の中に引きこもって一日を過ごしていた。

 アリスが生まれたのはそんな日であった。


 アリスの家は裕福でもなければ、貧しいというわけでもない普通と評するのが妥当な家に生まれた。


 しかし、アリスは生まれた時から声が発することができなかった。

 産声にしても、涙を流し大きな口を開けている姿を見るに、一見して大丈夫だとは分かったが、声だけは聞こえなかった。


 アリスの両親は声を発しないアリスを可哀想な目で見て、抱き上げてくれた。

 そしてそのまま二年程育てられたが、アリスに注がれる愛情は徐々に薄れていき、今ではご飯だけが用意されて両親は家に帰ってこないことが多くなった。


 そしてアリスが五歳の時、アリスは孤児院に入れられた。両親はもう既に、声を発しないアリスを薄気味悪く思うようになり、そして親子の繋がりを一方的に切ったのだ。

 アリスは両親に少しでもいい子である事を示す為、お手伝いも進んでしたし、基本的に笑顔を絶やさなかった。そして両親の顔色を常に伺いながら生きてきた。

 しかし、そんなところすら、両親は気持ち悪く感じていたのだ。


 勿論アリスは両親と別れたくない為、溢れる涙を構いもせずに、両親の服を両手で必死に掴み、自分の家から出ないように必死に足を踏ん張った。しかし、まだまだ子供のアリスの抵抗など虚しく剥ぎ取られて連れて行かれてしまった。


 孤児院に入れられたアリスは両親の事や捨てられた事実、これからの自分のことなどでぐちゃぐちゃになっている内心を必死に見せないようにしながら、そこでもいい子でいようと過ごしていた。周りの様子を伺い、積極的に行動していた。そんなアリスがその顔から笑顔を絶やすことはなかった。


 だが、ここでも声が出ない事を同年代の子供たちにからかわれ、声が出ない事をいいことに食事を盗られるようになった。

 孤児院の先生たちも最初は注意をしてくれていたが、次第にアリスに構ってくれなくなってしまった。


 先生とて、いつも笑顔でしかし反応の薄いアリスよりも元気に駆け回る子供と接していた方が有意義だったのだ。


 アリスが八歳になる頃にはもう自分のことは全て一人で行っていた。食事は孤児院内で用意されるが、片付けてはもらえないし、勉学の時間ではアリスは居ないもののように扱われた。

 休み時間の時は、男の子達にボール遊びと言われて中庭に強引につれていかれ、ただボールをぶつけられるのを必死で避けていた。

 女の子達は、年嵩の女の子たちがアリスの美しい容姿に嫉妬し始め、周りを巻き込んで次第に無視するようになった。


 (なんでみんな私を除け者にするんだろう......。喋ることが出来ないのがそんなに悪い事なのかな......?今日も男の子達にボールをぶつけられた所が痛いよ......。お父さん、お母さん......会いたいよぅ。)


 もう夜はアリスの声を発しない泣き姿が、毎晩繰り返し見られる程にアリスは辛い日々を送っていた。

 アリスは生まれてから今まで優しくされた記憶がなかった。両親にしても、孤児院の先生にしても、そして同年代の子供たちからも皆、決まってアリスに対する反応は冷たかった。

 そんなアリスは今までと同じ環境に置かれないために、そして少しでも平穏に暮らすために、ただ必死に周囲の顔色を伺って、できるだけ嫌われないように努力して生きてきた。


 そんなアリスも遂には顔に笑顔を作る(・・)ことが出来なくなっていた。嬉しいことも、楽しいことも起こらないアリスの人生はアリスから笑顔を失わせるほどの過酷なものであった。

 アリスの顔は今ではもう常に凍り付いた無表情で、できる限り無感情で生きていくようになってしまった。感情が動けばまた辛いことを、そして辛かった記憶がふと、思い浮かんでしまうからこのようにして耐える術を身に着けた。


 さて、辛いことがあると少し前までは両親を思い起こしていたアリスだが、実はもうアリスが望んでいた両親が迎えに来るという可能性は0%になっていた。

 

 遡ること五か月ほど前に、アリスの父親が流行りの詐欺に引っ掛かり、まあまあ多くの借金を背負ってしまったのだ。その借金を返すためにちゃんと働けばいいものを、アリスを捨てるような選択肢を選ぶような男はギャンブルで一発ドカンと稼いで借金を返済しようと考えた。

 しかし、そんなに都合よく上手くはいかずに借金額をただ増やすだけの結果に終わった。その後は酒に溺れて現実逃避をしたり、女を侍らせたりと好き勝手に暮らしていたが、徐々に借金取りたちも強硬手段でお金を集める方向にプランを変え、アリスの父親を捕まえる。

 その後、アリスの父親は世間から姿を消し、その後を知る者はいないとされた。


 アリスの母親の方は、勝手に借金を作り、剰え増やして来るような男に愛想を尽かして出て行った。しかし実家に戻るも、一度家を出た身の母親は新しい雰囲気となり、今まで自分が居たころとは違う暮らしぶりに馴染むことができず、さらに兄妹の家族たちは戻ってきた新たな住人である母親に対して良い感情を抱いてはくれずに、それこそアリスと同じように、いや、大人である分より辛い目に遭わされていった。

 例えば、家事は全て自分が行わなければならず、冬場も使っていいのは水のみであり、お湯を使おうものなら数日は嫌味を言われる。自身の買い物も満足なお金を与えられていないために行えないし、小さなミスがあれば、挙って小言の嵐が吹く。こちらも自分で働きに出ればいいものをその選択肢は取らずに主婦をしていた。


 そんな現実にアリスの母親は心底疲れ、家をもう一度出て新たに生活をしていくにも、今までは夫に全てを任せてきたため自身に大した貯蓄もなく、そういった選択肢をとれないままに月日は経過し、遂に病気を患ってしまう。

 その後は、日に日に窶れ、満足な生活も遅れない体になった時にはもう既にただ生きているという、所謂植物状態になり果てた。

 その後まもなくしてアリスの母親は息を引き取って、亡くなっている。


 アリスは母親とは違う選択肢を選んだ。もうアリスもずっとこのままの生活押していくなんていう事は耐えられないところまで来ていた。

 アリスの生まれた地球では国から孤児院に対して補助金が出ている。そして、この世界特有の事なのだが、孤児院に住まう子供たちにもお金を支給することが法律で義務づけられている。子供たちが将来自立した時の先立つものとして、そして、幼い時から厳しい世界に居る子供たちに対してお金の存在を少しでも理解し、お金の大切さを早いうちから知ってもらうことが目的でこのような法律ができた。

 しかしこれは表向きの理由であり、裏の理由としては、生きていくにあたり少しでもお金を有していないと孤児院に居てもいつ生活ができなくなるか分からないから、その助けとして配られるようになっているのだ。アリスの生まれた世界は貧富の差が著しく大きい。持っている人間は吐いて捨てるほどに金を盛っているし、持っていないものはその日の食事もまともには取れないほどだ。そして孤児院の経営なんて何処も火の車である。


 この国の政策により、月に一度数百円程度のお金が貰えていた。これに関しては、他者が勝手に使ったり、奪ったりすることも厳しく罰せられる法律があり、アリスは何かあった時のためにずっと貯めてきた。

 そして、一週間ほど前から自分用の食事を少しずつ残して、とっておいた。この孤児院では子供たちは二人部屋で過ごしているが、アリスは同室の子がいないため、食料を隠しておいてもバレなかった。アリスの食事を奪う男の子たちからは今までにないほど必死に食事を死守した。


 そうしてアリスは、自分が孤児院に来る時から使っているカバンにお金とこの日までに貯めた食料を詰めて逃げ出した(・・・・・)


 とはいえアリスの持つお金など高が知れているし、食料など二日ももたないほどしか持ち出せなかった。アリスの無謀な逃走はしかし、アリスが行き倒れる前に女神によってネメシアへと召喚されたのだった。いや、この世界からネメシアへと救出(・・)された、という方が二重の意味で正確な表現であるのかもしれない。


 その後も、仲間との別れなど辛い思いはしたが、現在ではカナタと共に暮らして毎日が充実し、楽しくて自然と笑顔が零れるほどにアリスのいる世界が、そして環境が良いものに変わったのだった。



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