戦闘訓練
第10階層、ボスの部屋。
先日、ハングベアーよりドロップしたクマの手より採れた肉を用いて、クマの手肉祭りを開催したカナタたち。美味しいものを食べて気分良く朝を迎えたカナタたちは、本日もこの階層に留まり、修練をすることにした。
今までも二人で組み手や、魔法練習、近接格闘などを行い二人で実力を高めて来た。
今日も朝食を済ませ、部屋の中央で今は向かい合って立っている。
「「身体強化!」」
二人はそれぞれ身体強化の魔法を自身に使い身体能力を高めた。
「「フッ!」」
「パシッ、ダン、ドゴゴゴゴ、ドガガガガァ」
カナタが右パンチを放てばアリスがそれを紙一重で躱しながら左キックを放つ。その攻撃に対して腕をクッションのように用いて威力を殺して受け止め、カナタも蹴りを放つ。お互いが躱せるものは躱し、それ以外の攻撃も攻撃で迎え撃つように対処する。最初は体を慣らすために、そしてお互いにかかっている身体強化の魔法の効果を確かめるように比較的ゆっくりとした攻撃から徐々に速度が上がっていく。
その攻撃速度と共に攻撃の威力も徐々に増していく。魔法職のアリスとは言えその攻撃は、魔法のバフによりカナタの攻撃と比べても遜色が然程ないくらいだ。
最近は、カナタはアリスから魔法を習い、漸く各属性の初級魔法と身体強化の魔法を使えるまでに成長していた。そしてアリスはカナタより近接格闘戦での体の動かし方や、この距離での戦闘に対する恐怖心、体構造からの攻撃時に現れる死角などをこうした組み手などから学んでいる。
因みに、カナタもアリスもステータスにおいて魔法のスキルが現れていない。実は、アリスが使っている魔法自体がネメシアの一般的な魔法職の使う魔法と術式構築の時点で異なっている。そのため、今まで世界のシステムが火魔法や水魔法などとして扱って良いものかが判断できずに適用されていないのだ。
そして、二人の戦闘スピードが今出せる最大の所まで達した。
「......レベル2!」
カナタが戦闘を続けながらアリスに声を発した。ここから二人の模擬戦闘はその激しさを増していく。
「火よ!水よ!それぞれ、球の姿をとれ!"ファイヤーボール"、"ウォーターボール"」
「っ!水よ、火よ、それぞれかき消せ!"ウォーターボール"、"ファイヤーボール"」
カナタもアリスも肉弾戦闘から魔法攻撃の使用を解禁し、動き回りながらそれぞれの攻撃に対処していく。とは言っても、魔法攻撃が解禁してからはアリスが攻め、彼方がそれらを対処して防ぐという形が増えてきた。
やはりどうしても魔法が絡むとアリスが優位に戦闘を行えるようになってしまう。しかし、剣士という戦士職のカナタが、バリバリの魔法職のアリスに魔法を用いて凌いでいるというこの状況自体がこのネメシアにおいては異常だった。
そもそも、戦士職の人間が攻撃魔法を使うことができるということが珍しい。これは、そもそもの認識として魔法とは資質が全てであり、才能のある者しか扱うことができないと考えられていることが大きい。
中にはカナタのように戦士職の者が身体強化の魔法を使える才ある者もいるが、そういった者はもう周囲から強者として認識されているのが現状である。
しかし、カナタはアリスの魔法真理から得た知識を元に教えを受けているので、そう言った偏った知識などに縛られておらず、魔法を習得することができたのだ。
ただ、魔法にも相性はしっかりと存在し、これが一般的に魔法使いが才能職と言われる所以である。
カナタはそんな中で初級魔法とはいえ、あらゆる属性と相性が良くて戦闘中にも使用できるほどになっている。
「光よ!”光玉”」
「くっ!............」
アリスの放った光玉はカナタへの攻撃のためではなく、その行動の基本たる視力を潰しにいったのだ。眩い光を絶妙に避けられないタイミングで放たれて、カナタはその眩しさのあまり、現在目が使えなくなってしまった。
しかし、アリスとの模擬戦ではそういった体の部位の使用不能状態は割とあるため、即座に潰された視力に頼るのを止め、目を閉じて周囲の気配を慎重に探っていく。
「”ライトニング”」
カナタは探り当てた気配に向かって人差し指を指し、その先端から白い光を放つ雷を放った。しかし、カナタは”ライトニング”を放つときに詠唱をしていなかった。
本来、魔法を放つためにはカナタのように詠唱は必要ないのだ。しかし、自身の魔法に対するイメージの補強や術式を構築するにあたってのMPの効率を上昇させたりといった作用があるため、専らカナタたちも魔法を使う時に詠唱をしているのだ。そして、その詠唱を独自にアレンジして短縮しているというのが今のアリスのレベルという事である。つまり、より早く、相手に気取られないように魔法を放つ場合は詠唱を行わない無詠唱で放つ方が効果は大きかったりと、その状況状況で詠唱を行うか、行わないかを使い分けるという戦い方が最も効率的ともいえるのだった。
しかし、現在ネメシアにおいて無詠唱で魔法を使用できる存在は、魔物などを除いた人という括りでは、カナタたちしか行えるものはいなかったりするのが現状である。そもそもネメシアにおける魔法の概念という人々の共通認識では、詠唱を行うことで魔素を自身の思い描いた魔法へと組み上げるものだと思われているため、無詠唱というものが端から抜け落ちている。極一部の者が魔法を使用していく中で研究し、理解を深めることで”詠唱短縮”というスキルを得られるというのが現実で確認され、それが人々が知る魔法の常識だった。
「”ライトニング”」
そんなこととは知る由もない二人は無詠唱で魔法を行使していく。
そうして、二人の魔法と強化された脚力による踏み込みなどで二人の戦闘していた周囲が今まで以上に荒廃としてきた頃、更にカナタはアリスに声をかける。
「レベル3に行くぞ!」
その宣言と共にカナタは”凪”と”華月”をその腰に差し、アリスは”杖”をその手に握った。
とうとうレベル3では、武器の使用も解禁になる。そして......
「抜刀術、”一閃”」
「......!」
カナタの抜刀術の剣速は、ハングベアーに放った時のものよりも尚早かった。今回の抜刀術はスキルのアシストもフルに使い、カナタが今出せる最大のスピードでの攻撃だ。
なぜハングベアーの時にはスキルを使わなかったのかといえば、それは相手の認識を利用したかったからだ。カナタたちの考えた戦闘シミュレーションは細かく分ければ相当な数を用意していた。その中で、初撃のスピードと戦闘中でのスピードに差をつけることで速度の速い方の攻撃を当てやすくするという作戦を考えていた。しかし、あの戦闘ではその後、次の抜刀術を使うことはなかったためそのまま終わった。しかし相手がアリスである今回は、遅くする必要がないので最初から最大速での攻撃としたのだ。
アリスは冷静にカナタの刀を見切って紙一重で躱す。流石のアリスも、カナタの抜刀術のスピードは目で見て躱せるものではない。つまり、アリスの眼はそれを捉えることができる状態に変化していた。
そう。レベル3ではアリスの神眼も解禁されたのだ。
それから数時間、カナタの刀がアリスの肌を切り裂き、アリスの魔法がカナタの四肢を吹き飛ばしながらも双方の回復能力により戦闘は続いていった。
「「はぁはぁはぁ。......」」
「はぁ~しゅうりょ~う。」
二人とも息も絶え絶えになって向かい合い、少し距離をとりながらもその動きを止めた。そして、カナタの終了宣言と共にその場に崩れ落ち、カナタは仰向けに倒れ、アリスは足を投げ出しながらその場に腰を下ろした。
「きっつい!もー腕上がらん。剣すら持てない!動きたくありません!地面が冷たくて気持ちいい~。」
「同感。今はもう何もしない!動けない。体中もうボロボロだよ。」
「ああ。二人ともレベルが上がるたびにこの模擬戦は激しさと過酷さを増していくな。ははっ。大分動いたし、今日はもうこのまま終わりにしてゆっくり過ごさないか?」
「コクコク」
カナタの問いかけに対し首を縦に振ることで答えたアリスの気配を感じ取り、カナタたちはその場からしばらく動かなかった。
そして、少しは回復したアリスが少し離れたところに居るカナタの元へゆっくりと向かい、隣に腰を下ろした。
「お~。お疲れアリス。アリスも横にならないかい?疲れたし、お昼寝にしよう。」
「コク」
アリスもカナタの隣で横になり、二人はともにゴロゴロしだす。
「ほれ。特別に一本小瓶をあげよう。」
「!!!」
カナタがその場で寝っ転がりながら創り出したのは、アリスのお気に入りの血の小瓶だった。普段は夕食後に一瓶と決めて、アリスのアイテムボックスの中にはそのストックが一週間分保管されている。
つまり今カナタが出したこれは本当に特別で、今日は二本飲むことができるというアリスには超が付くほどのご褒美であった。
「コクコクコクコク」
アリスは早速カナタから血の小瓶を貰い、飲み干す。アリスの表情は先ほどまでの疲れ切ったものから打って変わりとても満足げだ。そしてそれを隣で見ているカナタも疲れてはいるが、穏やかな表情でアリスが飲み干すのを見守った後そのまま重い瞼を閉ざしていくのだった。
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