第10階層到達
ハントラビット戦からもう既に半年以上が経っていた。第5階層でのボス戦はカナタたちの予想以上に接戦で、一つ一つの行動があの時と違った場合はまた違う結果となっていたかもしれないと思えるほどだった。カナタはウルスラから貰った”ギフトカード”により、アリスはその吸血鬼の真祖であるという血筋が二人を寿命という枷から解き放ち、時間に関しては無制限にある。なのでここで二人は、戦闘に於ける自身の技量を見つめ直すとともにさらなる成長のために階段を見つけて魔素を中和したらすぐに下の階層に降りていたのをここで一旦止め、それこそ階層の全魔物を殲滅するように行動を変更してそれから階層を進むようにした。
現在の二人の到達階層は第9階層である。
第6階層からここまでは周囲に木々が立ち並ぶ正に自然といった雰囲気の森林エリアだった。出現する魔物は、どこにでもいるゴブリンからアングリーボアといったブタやイノシシ、ウサギなどの動物が魔物化したものなど多様な種類の魔物が存在し、それを狩り続けてきた。
このエリアでも木々が沢山あり、その種類も豊富なため中には果物や木の実などの食べられる実をつけているものもあった。二人は先を急いでいるわけではないため、そういった木を見つけるとその日を収穫にあてて採集に精を出したりしていた。そういった果物を干してドライフルーツとしたり、木の実を煮詰めてジャムにしたりとこの野生空間と言える中でも二人はいろいろ楽しんでいる。また、甘みの多い果実はそのまま生で果汁を滴らせながら齧り付いたりと、アイテムボックスの時間停止能力も駆使して自然の中とは思えないほど快適な生活を送っているのだ。
そんな二人の最近のお気に入りはジュースである。ーーなんと年相応だと思ってはいけないーーカナタはオレンジに似た風味の果実やブドウに似た風味の果実など、食べられる、そしてジュースにして美味しいだろうと思ったものは全てを絞り試飲している。カナタは果汁百%のジュースを毎食美味しく、味をその日の気分に応じて変えながら楽しんでいた。そしてアリスもカナタと同じジュースも飲むのだが、最も好きなものは別にあった。それは果肉を絞り、果汁を砂糖と共に煮詰めたシロップのようなものをソーダで割ったものだ。カナタとアリスのアイテムボックスにはそれぞれのジュースが大量に保管されている。
そしてここが迷宮の中だからなのか、周囲に生える木々が魔素を少なからず吸収してその実をつけるため、その果実がとても瑞々しく、甘くて美味しいのだ。
当然、現地で手に入らないものはカナタがスキルで出したものだ。ならば最初からジュースそのものを出せばいいと思うかもしれないがやはり自分で調理した物の方が美味しく感じるし、この調理時間の雰囲気や二人で作っている時間もカナタたちは楽しんでいるのだ。
そしてこれまでと同様に次の階層に降りる日がやってきた。
何日も前に次の階層への階段は見つけていたのだが、この階層のすべての探索と魔物との戦闘のためにここに留まっていた。
そして昨日この階層でのやることを全て終えたので次の階層に降りることとなった。
「第10階層も見た目は森だな。でも、ここはボスがいるかもしれない階層だから安全重視で行こう。」
『私もカナタも確実にレベルは上がっているし、戦闘経験もかなり積んだ。ここまでの階層で出現した魔物たちは、5階層のハントラビットに比べれば、大分格が落ちるし、今の私たちならもう囲まれたとしても対処できるくらいの実力程度だった。つまり、気を付けるべきはボスってことになると思う。』
「とりあえず、ボス部屋を見つけても中には入らずにこの階層の探索をし続けていこう。」
こうしてカナタたちは第10階層の森へと入っていった。
「今はまだ昼前だし、少しこの辺をいつも通りブラブラしてみようか。」
ここまでの間にカナタの戦闘スタイルは二刀流になった。と言っても、使う刀が二本になっただけであり戦闘に使うのは一本である。しかし、カナタが武器を創り出すときにコンセプトを決めて創るのでこういった形になったのだ。
一本目は、5層でも使っていた”凪”である。この刀は抜刀術のために創った刀なので剣速と刀身の強度に重きを置いたものになっている。それ故薄い刀身なのに折れ難いという性能をしている。しかし普段使いするにはその性能はピーキでもあった。この刀は抜刀の一撃に力を注いでいるためその刃の部分はとても頑丈になってる。しかし、刃の所ではなくその横の面の部分は薄くなっているため脆いのだ。そもそも受け太刀する想定をしていなかったのでこのようなことになった。なので二本目の刀を創ったのだ。
二本目は、その名を”華月”という。刀身の長さを七十センチと長めに創り、能力は折れない、曲がらないことにつぎ込んだ。またその頑丈な刃は切れ味にも影響を与えており、攻撃力の面でも優れた仕様になった。
刀身は薄い赤色をしている。この刀に使用した素材は鋼と銅を混合したものだ。二種類の鉱物を魔法により練り合わせることで粘度と強度を生み出している。またカナタの漫画知識を反映させることで刀本来の鍛造技術も盛り込んだ一品になっている。
凪とは違い、普段使いに適したものというのがこの刀のメインコンセプトで、腰に二本差しているうちのこっちが戦闘ではメインの武器になっている。
カナタの服装は、Tシャツとズボン、そして靴という地球にいた頃と変わらないようなスタイルはあれから変化しておらず、しかし、その性能は防御、速度に+20の補正が付くようになった。
アリスの方は、新たに”白夜のコート”を手に入れたためにそれを羽織り、中はカナタ同様、地球にいた頃のスタイルでまとめている。
カナタが創りだす装備の性能も着実に向上しているため、動きやすく、過ごしやすいこの形に落ち着いたのだった。
また、カナタは刀を創ったことでその要領を掴み、それをアリスの杖にも反映して頑丈な杖も新たに創った。そしてこれにもアリスが、数日を掛けて魔方陣を刻むことで【魔法威力向上】、【魔素集束効率向上】の効果を付与した。
こうして二人は第10階層を進んで行く。そして二時間ほど歩いた時、この階層に降りて来て初めての敵と遭遇した。
しかし最初の敵はかなり厄介な相手だった。
『敵は、ペインビー。集団で敵を襲う魔物みたい。そのお尻にある針は毒はないけれど刺されたら風穴が開いちゃう威力がある。』
アリスがすかさずその眼で魔物の情報を見抜き、注意を促した。
ペインビーは全部で二十匹ほどおり、二人を取り囲むように周囲を飛んでいる。その体長は約三十センチほどでその風貌は対面すれば本能的に危機感を覚えるほどだ。しかしカナタたちは前の階層で虫、昆虫系には大分耐性がついていた。アリスも冷静に状況を・・・少し目が昏く影が差したように見えるが、比較的に冷静でいられるようになった。
大体十分位だろうか。カナタもアリスも無理に攻撃はせず襲い掛かる怒涛の針攻撃を右へ左へ、また上へ下へと躱していた。アリスは瞬間的に神眼スキルを使用し、攻撃の軌道を見切って躱していた。
カナタは動体視力や五感を使い順次躱している。そしてアリスと違うのはその回避方法である。アリスはその眼で捉えたものを把握し、ミリ単位の必要最低限の動きのみで躱すことで、無駄な体力を使わないようにすることまで考慮して躱している。
しかしカナタはそこまでのことはできないので、敵のその動きを線のように捉え、軌道を見切っている。そして、周囲のペインビーの位置関係も考慮した上でしっかりと躱しているのだ。しかし、アリスには及ばないとは言っても、目の前十センチほどの距離で躱しているカナタも十分に戦闘能力の向上を伺い知れた。
しかも、二人が捌いているペインビーはそれぞれ十匹ほどずつおり、なかなかの混戦状態でも今の状況を保っているのは二人の頑張りと成長を証明している。
こうしてさらに数十分の時間を要したが、二人とも無傷でペインビーを倒しきることができた。
そして二人はこの階層の魔物の強さを身をもって測り、それぞれパートナーを見て頷き合った。二人は自身の実力の上昇を確かめながらも更に先へと進んでいくのだった。
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