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誰が為に  作者: 白亜タタラ
ダンジョン攻略編
25/108

ボス部屋

 第4階層も他の階層と同じで魔素が溢れており飽和状態であった。

 しかし、出現する魔物が他の階層と比べると格段に多かった。これは個体の数という意味でもあり、またその種類の多さという面でも言えた。


 もう既にこの階層に降りてきてから数週間が過ぎており、二人が倒した魔物の数も千体を超えていた。更にここでは、魔物は動物の特徴を有しているからか少し距離を取った場所でそれぞれが生態系を作っていた。

 ある地点では虎の魔物、ワータイガーを頂点とした数種類の魔物がいたり、他の場所ではカメレオン型の魔物が支配する小動物型の魔物達が生息していたりと、まるでアマゾンを詰め込んだような形になっていた。


 そして、つい先日漸くこの階層から下の階層に降りる階段を発見したのだ。

 この階段だが一階層からここまで全ての階層に存在するがどれもなかなか発見できなかった。その訳はその形と能力のせいだった。この階段だが発見するには直径二メートル程の穴を見つけなければならない。これが下へ続く階段なのだ。ーー見た目は完全に落とし穴ーー


 さらに、中へ一歩足を踏み入れると何も無い空間に足場が生み出され、下へ降りていくことができる階段になるのだ。

 これもやはりアリスの眼でも解析できない”未知のモノ”だった。


 「いやーこの階層は戦ったなー。ゴブリン達の集落の時とは違ってちゃんと連携してくる魔物もいたし、音もなく奇襲する個体もいた。実戦経験という面では充実していたな。」


 『それに、生活面でも向上した。もちろんもっと改良はしていくけどこれで快適に暮らしていける最低レベルにはなったと思う。』


 「一般人からしたら、こんな未知の場所にいきなり放り出された状態だったことを踏まえると、相当豪華な仕様になっているんだろうけどな。大体本人が干渉しなくても一夜中効果を発揮する魔法なんてアリス以外にどれだけ使える人がいるかわからないよ。もしかしたらいない可能性すらあるくらいの技術だし。」


 『私も魔法真理のスキルありきの能力だし、まだまだだよ。』


 そうして、いつもと変わらずゆったりとした雰囲気を纏いながら会話しつつも下の階層に向かっていった。


 「......第5階層は平地か。遮蔽物もほとんどなく、点々と木があるくらいだ。他の階層より広く感じるな。」

 

 『今までの階層の広さも感覚的にしか感じてないから、本当は今までの全部の階層で広さがやたらと違うこともあったかもだけど。』


 「でも、アリスの眼があるからそこまでの差があったとは思えないけどな。とりあえず、今まで通り探索してみればわかるか。さて。この階層はどんな感じかな。」


 『じゃあまだ朝も早いことだし早速行きましょうか。』


 今日も今日とて第5階層の探索を早速始めるカナタたち。しかし二人はすぐに足を止めた。


 「ん!......アリスこの気配は?」


 『......わからない。私の眼では他の階層とは違って魔素が溢れていないことしか見えない。でも、何かはある!』


 「俺とアリスが二人して感じたこの気配。この階層はいつも以上に気をつけて進もう。」




 しかし、カナタたちがいつも以上にゆっくりと気をつけて探索を続けたが特に異変らしい異変はなかった。


 『もうこの階層に降りて来てから二週間以上も経つけれど強力な魔物も、状態異常を振り撒く危険な生物も特に見つからない。』


 「でも、この嫌な気配は無くなっていない。ますます不気味だ。」


 『そういえば、この階層は他の階層より魔物が少ないと思わない?』


 「......!そういえばそうだ。この階層で倒したのはゴブリンばかりだった。それに言われてみれば遭遇率もかなり低かった気がする。何で気づかなかったんだ!」


 『うん?ゴブリンだけって、第一階層もそうだったじゃない。』


 「ああ。あれはゴブリンが大量にいて集落を作ったり、上位種が何体も居たからアレでいいんだ。でもこの階層はモンスターの、つまり、魔物の数が少なすぎるんだ。」


 『......魔物が少ない方が......!そうか、魔素が他の階層と違って私たちが飽和状態を解かなくてもいいほどに少ないのに、魔物が少ないのはおかしい!』


 「そうだ。これは俺の予想だが、この迷宮は永らく誰も攻略をしていなかったんだと思う。今思えば、ゴブリンの集落にいた人達にしてもあの状態になったのはいつなのかがわからないしな。」


 『でもあの腐敗状態じゃあそこまでの時間が経っているとは思えないけど!』


 「......人間が死んで、そこからゾンビ生物(・・・・・)になるまでどれだけの時間がかかるんだろうな。......それにそうなる程の怨念ってどれだけのものか、想像もつかないよ。」


 『待って!私が見たステータスには魔物の表記はなかった。......それに、それにそんなの悲しすぎるよ!!』


 「ああ。永い年月をかけて恨み辛みを溜め込んでゴブリン達に復讐しよと考えたのか、もうそんな自我もなく怨念を溜めるだけのナニカ(・・・)になってしまっていたのかはわからないが、アリスが確認したのはそうなる前の、神のシステムが変化を認識する前のまだ人間のものだったんだろう。」


 『そんなっ......』


 「たぶんあの大岩が通路を塞いでから人は入ってないんじゃないかな。それに、あの兄弟も怨敵が倒れて自分たちも安らかになれたんじゃないかな?」


 『そうかな?......そうであって欲しいな。』


 (というか、そうとでも思わなきゃやってられないだろ!)


 当然カナタにしてもこんな結末がその兄妹にとってのハッピーエンドだなんて思ってはいない。しかし自分たちを納得させる要素が無ければ時に人は前に進めなくなってしまうことを理解しているからこそアリスにこんな話を聞かせたのだった。


 「多分この迷宮の魔素が飽和状態になる程沢山あるのはその永い年月をかけて蓄積したんだと思う。」


 『じゃあ、この階層に魔素がないのはその魔素を消費している存在がいるってこと?』


 「たぶん。これはちょっとばかり念入りに作戦を立てていかないと痛い目に合いそうだ。」


 こうして二人はより一層慎重に階層探索を進めていった。


 そして何事も大事は起きなかったが索敵は進み、数週間が経過した頃遂にそれ(・・)を見つけた。


 見た目はただの扉だった。黒く、ただただ黒い扉は一見するととても人の手では開くようには見えない。その扉は五メートルの巨人でも通れるほど大きさだった。そしてその重さはとても動かすことができるとは思えなかった。

 そしてカナタたちはその外見なんかよりもその扉が、いやこの場所が放つ圧倒的なプレッシャー(威圧感)を感じ取っていた。


 「『......!』」


 カナタたちは無言でお互いに向き合い、それぞれを確認した。


 アリスの見たカナタは黒いTシャツの上から赤い長袖の少し厚めの服を着ていた。この服はカナタが創りだしたモノでTシャツは何の変哲もない服だが、赤い長袖の服はカナタの想像を現実のものとして特殊な編み方で造られた防御力に優れた代物となっていた。

 また、カナタが履いている黒いズボンも同様の編み方で造られたものである。


 カナタが見たアリスは、真っ白なローブを纏っていた。これもカナタが創ったもので防御力はカナタと同じだが、アリスはそのローブに魔素を編み込み魔法陣を組み込んでいた。しかし、流石に初めての試みであったしアリスでも自分のローブに魔法陣を組み込むので精一杯で、カナタの方の服には間に合わなかった。

 もちろん、カナタの服に魔法陣を組み込み終わるのを待ってから進む手もあったが二人はそれをしなかった。

 油断ではないが今の状態なら攻略しきれると思ったのだった。


 そしてアリスの服は上は淡いピンクのTシャツで、下は青いズボンを履いていたのだ。


 「『うん。』」

 

 そして二人は頷き合うと扉を開けた。

 その扉は見た目ほどの重さではなく、普通に開けることができた。しかし、その開く速度は非常にゆっくりで「ギギィッ」という乾いた金属音を響かせながら開いていく。


 二人が扉の先にまず見たものはとても広いーー東京ドーム二つ分程ーー部屋だった。見た目はこの階層と同じ平地で、所々に木が生えている以外には何もなかった。


 「『!!!』」


 しかし二人はその中の一点から目を離せないでいた。そこに居たのは、一匹の白いウサギだった。身の丈は一メートル半程で発達したその足は凶悪な武器であると一目で分かった。そして額には二十センチ程の一本のツノがあった。


 だが二人はその身体的特徴を把握はしたがそんな所を見てはいなかった。二人はウサギが纏う尋常ならざる殺気と覇気(プレッシャー)をまじまじと見て、そして感じていたのだ。

 

 どうやらウサギはこの扉の中に入らなければ襲っては来ないらしく、その場で何事もなかったかのように草を食んでいた。


 「はぁ。ウサギの魔物だ。注意点はこれまでの同種の魔物たちと同じだろうが纏う覇気が違いすぎる。何が起きても反応できるように気をつけて行こう。」


 『この広いフィールドは私たちには有利よ。作戦通り最初は様子見から。突ける隙は突いていこう。』


 「『よし!』」


 こうして二人は最後の確認をして気合いを入れ直したのだった。




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