沼エリア
いつもは周辺の様子をアリスが眼で確認し、安全が確保できてから二人一緒にテントに入って眠るという習慣で過ごしてきた。
しかし、第2階層から夜になるとどこからかスケルトンなどのアンデットが現れるようになった為、今日は様子見でそれぞれ交代で眠ることにした。
「じゃあアリス、真夜中くらいに交代するから起こしてくれ。」
『了解。おやすみ。』
「うん。おやすみ」
カナタたちはサクッと挨拶を交わし睡眠に入った。
アリスはカナタが創った一時間が測れる砂時計をひっくり返して時間の目安にする。
それというのも普通の時計はMPが大量に必要らしく今はまだ創れなかったため、MP消費が少なくて済む砂時計にしてお互いのアイテムボックスに仕舞っていたものだ。
どうやら金属や機械などの文明的に価値のある物ほど消費するMPが多くなる傾向があるようだ。
そうしてアリスが三回程砂時計をひっくり返した頃、「カタカタ」という物音が聞こえた。当然アリスが発した音ではない。
アリスの視線の先には上の階で見慣れた骨がゆっくりと歩いて向かってきていた。
アリスはもう驚きすらせず、光魔法を無詠唱で使用して光の球を創り出した。そして腕をゆっくりと此方に向かってくるスケルトンに向けて振った。それだけで光の玉はスケルトンに向かって飛んで行く。
光の球が直撃したスケルトンはなんの抵抗もできずにあっさりとドロップ品へと姿を変えたのだった。
アリスは寝ているカナタを起こさないように座ったままで、なるべく音を立てないように腕を振りスケルトンを倒した。そのおかげでカナタは襲撃からさらに一時間しっかりと眠ることができたのだった。
「おはよう。どう?変わったことあった?」
『上の階と同じでスケルトンが数体襲ってきた。強さも少しは上がってるかも。でも私の場合は弱点の属性の魔法を当てるだけで終わるからよくはわからない。ただこの階層はゾンビタイプのアンデットは出ないのかも。今のところ見てないよ。』
「なるほど。スケルトンが出たら確認しておくよ。俺の方は残念ながら簡単には倒せないから、違いが分かり易いだろうし。ゴブリンみたいに差がわからない位だったらそれはそれでいいしな。後、ゾンビが出ないならアンデットは楽できそうだ。このまま出ないでいてほしいよ。」
カナタたちは幾らゾンビたちに慣れたとはいえ、出ないでいてくれるに越したことはない。そちらにあの見た目に神経を割かないでいい分だけ負担は軽減されるのだ。
そうしてカナタとアリスは役目を交代した。
カナタの方はスケルトンを一撃で倒せるわけではないし、刀を当てた時には少なからず音も出てしまう。故にアリスが寝ている周辺では戦闘をせず、スケルトンを物理的に力技で移動させその後に倒していった。
スケルトンの速度は遅い為、その骸骨の頭部を手で無理矢理にでも押して運ぶことができたのだ。
夜が明けてアリスが目覚めてくるまでに何度かの襲撃があった。また、襲撃されなくても近くで発見できたスケルトンたちもカナタは片っ端から倒していった。
「おはようアリス。」
『おはよう。どれくらいきた?』
「うーん、七、八回位かな。具体的にはスケルトンが二十体くらいだった。でもこれで、この階層は夜に出るのはスケルトンだけの可能性がかなり高まった。」
『そうだね。その分この階層もカナタには大変かもしれないね。』
「まあその分、剣術の技能が高まると思えばやりがいもあるよ。」
ネメシアではスキルが神のシステムによって獲得できるようになっている。しかし、長いこと格闘技をしていれば腕っ節が強くなるし、毎日走り込んでいれば体力がついて長く走ることができる。そしてカナタのように剣を振り続け、試行錯誤を重ねていけばスキルによらない、技量という実力も上がるのは元いた地球と同じである。
こうしてカナタたちはいつもの日課になった朝起きてからの情報報告を済ませた。
「まったく。魔物が向かってくるのはまあいいとして、この足場の悪さはどうにかならないものかな。この階層は歩き回るだけでも骨が折れるし、ーー骨はスケルトンのやつだけ折れればいいのにーー次の階層に行くには時間がかかりそうだな。」
『私が魔法で沼を凍らせてもいいんだけれど、この階層ほとんど全てとなるとMPがもたないから一部だけになっちゃうし。それなら戦闘を行う時に足場を作ったほうが効率的だと思う。』
「うん。アリスの魔法はいざという時に頼みたいな。もうこの足場についても焦らず、時間をかけてのんびり行くことにしょう。」
『この階層も魔素が溢れているし、どちらにしろ時間がかかるんだから気にしないことだね。』
「.....ただこの階層、魔物も気持ちの悪い奴ばかりなんだよな......。蛾とか、蛙とか見た目がキツイ。生死に関わらない分余計に気になってしまう。」
『......私もこの階層は早く抜けたいというのが本音。コイツらのサイズが私たちの身長より大きいから恐怖をただただ煽られる。てか、気持ち悪い!』
「アリスが毒舌になるほどの嫌悪感ですか。まあしょうがないよな。それにこの階層、一般人なら即死クラスの状態異常満載だし。アリスがいなかったら俺はかなり酷い目に遭っていただろうな。」
この階層の沼は普通の土から作られた沼なのだが、それ以外の草花が発する胞子や、蛾の魔物の鱗粉など少しでも気を抜けば麻痺や毒、睡眠の状態異常に陥る。
カナタたちはそういったものの危険がない場所で夜を明かすが、探索するときは道々にそういったものがある為、アリスが魔法で無効化していた。
こうして、カナタたちの探索はなかなか進まなかったが長めの休憩や、まったく探索をせずに二人でゴロゴロしながら会話したりなど、この階層におけるストレスをあまり感じないようなスケジュールにして調節した。
そうこうしているうちに二月ほどが過ぎ、漸くカナタたちは下の階層への階段を見つけた。そしてそれまでの間もリポップしてくる魔物を倒し続けていたため周囲に漂う魔素も正常に戻っていた。
「漸くこの階層ともお別れだな。もう蛙も蛾も、虫関係には流石に慣れたな。次は何がくるやら。」
『もう何でも来い!だよ。この階層で精神力は鍛え抜かれたんだから。』
鼻息荒く宣言するアリスは昏い目をしながら微かに嗤っていた。
「アリスさん、怖いです。まあ実際、女子にはさらにキツイ階層だったからな。アリスも最初は火魔法で辺りごと焼き尽くすほどの錯乱をしていたし。」
『あれは、気持ち悪い外見の魔物が悪いです。それも驚かすようにいきなり目の前に現れるんだもん。驚いて少し加減を失敗するくらいよくあることです。』
「いや、よくあると俺は間接的にでも熱いから困るんだが......。まあ次の階層はそうならないことを期待だ。」
『もう流石に虫は平気だもん。安心して!』
「......今、盛大によくないフラグが立ったような気がするよ。」
と、二人で第3階層の振り返りを面白おかしく話し合いながら第4階層へ続く階段を下っていった。
そして第4階層に入り二人が見たのは第1階層と同じく森だった。
「これは1層と同じと考えていいのかな?」
『私の眼でも、生えている木の種類が違うとか位しかわからない。あとは出てくる魔物次第かな。ゴブリンだけって事は無いと思う。』
「確かにな。じゃあここも今まで通り探索して、安全なところで野営するって事で。」
『うん。ああそうだ!今日の夜は少し試したいことがあるから楽しみにしててね!』
「うん?まあアリスがそう言うなら楽しみにしとく。さて、じゃあこの階層の探索をしましょうか。」
『行きましょう!』
こうして新しい階層に降りてきた二人だが、特に慌てることもなく探索を開始した。
"原種"たる特性なのか、寿命という概念がないからなのか、二人は何かが起きても確認してから動く傾向がある。
例えばこの階層に来たときもそうだ。二人はその原因を見てから行動するようにしていた。さらに、戦闘においても相手の手の内を調べて安全に攻撃出来る隙を突くような戦い方になってきていた。もちろん圧倒的な力の差がある場合は瞬殺するのだが。そしてアリスの眼もその行動に走らせる一員であると言えた。
それらの行動は相手の戦闘パターンを見るので、それを自然と体が覚えて着実にカナタたちの戦闘に対する順応性を高めているのだった。
そうして、カナタたちは第4階層の森の中へ歩いていくのだった。
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