アンデット
カナタたちは昂った感情は一旦置いておく事にして、取り敢えず今は辿り着いたこのエリアのことを調べる為に行動を開始した。
上の階と違いここの景観は木々に覆われているのではなく、街並みであるためそこら中に家屋がある。こんな場所に一般人が住んでいるとはあまり思えないが、一筋の可能性に賭けてくまなく索敵したのだった。
もし人が居れば先ほど考えた嫌な可能性も消えてくれるという思いもありカナタたちは一生懸命に探したのだった。
「......チッ」
『.........』
しかし、現実とはそんなに甘くはなく無情だった。
カナタたちが淡く抱いたその希望は、今まで何度となく見てきたゴブリンたちとの再遭遇により消え去ってしまった。
いくらこの街に適応した人が住んでいるのだとしてもゴブリンが闊歩する街に一緒に暮らしていることなどあり得ないのだから。
だが、やりきれない怒りを内に溜めていた二人は八つ当たりの相手を見つたことでそれぞれバラバラに散ってゴブリンを殲滅して惨状を広げて行ったのだった。
そして家屋の中や通りの細道などに居た無防備なゴブリンたちはいきなりの奇襲に何もさせてもらうこともできずに屠られていった。
カナタたちは怒りのまま、気の向くままに暴れ回り数時間後に漸く集合してーーアリスが神眼スキルを使ってーーその矛を納めたのだった。
「このフロアもゴブリンしかいない。油断する気はないが取り敢えず、肩肘張って緊張しっぱなしって状況は回避できたな。」
『私の眼でもそこまでの危機感のある魔物は視えないなぁ。取り敢えず上の階同様に生活重視でいこう。』
「俺たちは時間の概念は然程気にしなくていいから楽しく生きていける様にするのは当然だな。ただ、ここは街中ということで野生の生物が見当たらないな。ずっと謎肉だと流石に飽きるし、MPは効率よく使わないとな。」
『......血液瓶もお忘れなく!』
「ああ。勿論わかっているよ。」
こうして、上の階のゴブリンたちに受けた精神ダメージは、下の階のゴブリンに晴らしたことでストレスも軽減でき、カナタたちはこれからの事を和やかに決めることができた。
さて、これからの事もあらかた決め終わり、夜も更けてきたので二人は空いていたーー寧ろ住んでいたゴブリンたちを倒してーー、一軒の家で寝る準備も整え終わり二人は休むことにした。
時刻は、周囲の明かりが全て消え闇が深まった、丑三つ時と言われる時間になっていた。
『......』
そして目を覚ましたアリスは用を足しに布団から出てトイレに向かった。
この家屋は少し古いがちゃんと生活できるだけの設備があったのだ。
(.........ッ?...!!!)
小さな物音にアリスは反射的にそちらを見てしまった。そしてその無機質にして真っ白な骨を見た。
そう、アリスは暗闇に二足で立ち、此方に歩み寄ってくる骨を見てしまったのだ。
アリスはあまりに予想外の出来事に即座に用を足し、カナタのもとに駆け戻った。
「ドタドタドタドタ」
「......うん?どうしたアリス?」
『見た!見たのよ。骨。骸骨だった!骸骨がこっちにくる!!!』
「......へっ?」
流石のカナタも真夜中に、アリスの走る音で起こされ、さらに寝起きの状態でいきなり言われた事柄にそう呆けた返事を返すことしかできなかった。
「......カタッ」
『ヒィー、来た来たキタッ!カナタ来たよ、こっち来ちゃったよ!!』
「マジかっ。......確かに魔物が存在している世界なんだ、アンデットがいてもおかしくはないか。」
カナタの世界ではファンタジーの世界観は小説やアニメなどで溢れていた。故にこの状況にしてもすぐさま理解し、アイテムボックスから刀を取り出してその骸骨の頭部を首から切り離した。
しかし、骸骨、つまりスケルトンと呼ばれる魔物は既に死んだ身であるため首を切られても首の離れた体だけでカナタにその拳を振るってきた。
しかしその拳は遅い。それはゴブリンたちと比べても劣るほどに遅かった。
カナタは冷静にその拳を見切って首を捻るだけで躱し、そのすれ違いざまに胴、腰、腕、足と切り裂いて行った。
体をもバラバラにされたスケルトンは漸く倒れ、その姿をドロップ品に変えたのだった。
『カナタ.....大丈夫?』
アリスもカナタの世界のことを、話の中で色々と聞いていたため状況を漸く理解し、アンデットの見た目などの特徴に慣れてきた。
「ああ。だけどこの階層は俺とは相性が悪いみたいだ。バラバラにしないと倒せないのは効率が悪い。」
『私は魔法でなんとかなると思うけど、確かにカナタは物理主体だからキツそうね。この階層ではそういった弱点を少しでも減らせる様にしていきたいわね。』
「確かにそうだな。俺の場合は剣で切れない相手だと詰んじゃうしな。アリスも魔法を無効化できる相手だと手が出せないもんな。これからはその辺を頭に入れておこう。」
それから数週間、昼間はゴブリンたちを倒し、夜はスケルトンやゾンビたちと戦っていた。
因みに、最初の数日はゾンビが発する腐敗臭やその腐り落ちた皮膚などの見た目にやられ、思う様な戦果を得られなかった。
しかし二人は数日間かけて漸くゾンビにも慣れたのだった。
そして、数週間の探索によりまたしても下の階への階段を発見していたのだった。
因みに、ネメシアの一年は三百六十日であり、一ヶ月は三十日だ。そして一週間は七日あり、火、水、風、雷、光、闇、無の七属性がそれぞれの曜日となっており、現在は四の月、第一水の日となっている。そして来週なら、第二水の日となる。
カナタたちは数日前に下の階層への階段を見つけたが、まだ下の階には降りていなかった。
上の階と同様に、この階層も魔素に満ち溢れ飽和状態になっていたため、魔物の出現速度が速くなっていた。だからカナタたちはこの状態が終わるまではこの階層に留まり、実力を上げようとしていたのだ。
アリスはアンデットたちに対抗するために光属性の魔法を新たに作り出して戦い、カナタは剣速を上げたり、一撃の重みを上げたりと試行錯誤を繰り返しながら戦いを繰り返していた。
現在では魔物との戦闘において、殲滅スピードは圧倒的にアリスが秀でていた。しかし、継続戦闘という面ではカナタがアリスより秀でるようになってきたのだ。
そして、カナタたちはそれからさらに数日後、飽和状態が解けたことで次の階層に向かうのだった。
大岩により上に後どれだけの階層が有るのかはわからないため、今いる場所を第3層と位置付けた。
「この階層は沼か。あんまり汚れたくはないな。」
『沼ってことは状態異常系の魔物が居るかも。......ゴブリンいるかな?』
「......居そうだな。まあこれも修行だと割り切るしかないさ。」
そうして少し気分が落ちてしまったが、取り敢えずこの階層のことを知らないことには拙いと、いつものように冷静に、そしてしっかりと周辺の探索を行った。
「うん。この階層は靴の意味がないな。もう、脛まで泥だらけだ。」
『足がドロドロで気持ち悪い。でもこれ、足場が悪くて戦闘の時咄嗟に動き難い。気をつけないと。』
「そうだな。後、足元の攻撃も気にしていこう。」
その後、数時間の探索を終え今日の行動は終了した。
「探索してわかったが、ここでもゴブリンさんはちゃんと居ました。そして野生生物は沼の中に三十センチ程の魚がいた。さらに、一メートル程の蛙の魔物もいた。蛙の方は移動スピードは大したことなかった。でも、舌による攻撃は発射から着弾までの速さが相当なものだった。俺だと見てからじゃあ回避が間に合わなさそうだ。」
『私も視た感じカナタの反射とほぼ同じくらいの速さだった。回避にかかる時間分躱しきれない。でも口を必ず開けるからそのモーションに入ったら回避行動を開始すれば躱し切ることができる。まあだからそこまでの敵ではない。後は、夜次第。』
「そうだな。上の階で受けたアンデットの突然の襲撃はもう懲り懲りだし警戒しておこう。」
こうしてカナタたちは警戒しながらも食事や湯浴みを終わらせ、第3階層初の夜を迎えるのだった。
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