第2階層
カナタたちはこの空間において漸く出口に繋がる手掛かりを発見した。しかし、その発見したモノである階段は大岩によってその通路を遮られて通ることができなくなっていた。
この場所に来て、神眼スキルを得て直ぐにアリスはこの場所のことを調べていた。しかし、アリスに視えたものはとても広いという情報を俯瞰視点で見たというものだけだった。当初それは普通のことだと思っていたが、木に生える木の実や野生生物などの情報をステータス画面を視るように、調べたい情報が確認できたためその違和感に気づけたのだ。
そして検証を繰り返した結果、この地面や空はアリスの眼では判別できないという情報が得られたのだった。
そう、アリスの眼では空は何の情報も得られなかったのだ。しかし今回、上に階層があることを知った。このことがカナタたちに齎した情報はかなり大きく、これからのことを決めるには十分だった。
そしてこの大岩もアリスが視ることのできない物質だった。この何もわからないという情報は逆に情報たりえた。
そしてこれらの事を踏まえてカナタたちは周辺の索敵を続けていたのだった。
そうこうしてかれこれ十日が経過した頃、遂にこの空間の端まで到達することができた。
「......見た目はまだこの先が続いているように見えるけれど、実際はここに透明な壁があるな。攻撃してみたけれどこれも全く刃が立たないし、ここがこの地点の終わりってことでいいかな。アリスの方はどう?」
『......うん。私もこの先があるように見える。けれど神眼で視るとこの先は何もなくて、ただ何かに遮られているってことだけが分かる。つまりここが端っこでいいと思うよ。』
「結構な日数を歩いてきたけれど何もないっていうのが分かっただけだったな。無知の知なんて今更体験しなくてもこの世界に来てから痛感しっぱなしだってのに。とはいえ、これで後行ってない所もかなり絞り込めたし、もう少しでこの空間は調べ終わりそうだな。」
『長かったような短かったような?基本的にゆっくり歩いて、ご飯食べて、話していただけだった。』
「もしもしアリスさんや。これまで何度も襲ってきたゴブリンさん達のことを抜かしちゃいかんよ。」
カナタたちはこれまでの索敵でこの空間のあらゆる方向に進んできた。そして、もう既に行ってない所はだいぶ減っていた。そしてその間も行く先々でゴブリンと遭遇する度に倒してきたので総合するとかなりの数を倒してきた。ただ、最初の集落のように大規模な数が集団で纏って生活していたりはせず、上位種が存在すろこともあれからはなかった。
そしてカナタたちはこの索敵に関して別に急いで行ったりはしていないため、夜ご飯に凝ったものが食べたくなったからという理由でその日の索敵をかなり早く終了して仕込みを行ったり、今日は疲れたからと一時間ほど索敵をした後はその場でダラダラしたりと自由気ままな生活をしていた。
『......もうゴブリンのことは考えてない。もうそういうものだと割り切った。』
「......まあ、ほぼ毎日戦って倒しているのにどこからともなく現れるからなぁあいつら。でも流石に個体数が多すぎると思うんだよな。それこそ絶滅させる勢いで数を減らしている筈なのに、前日通って倒した場所に何事もなかったかのようにまた存在しているし、魔素が集合して再出現するにしても流石に早すぎる。こんな速度で現れるなら戦闘できない人たちは外を歩くことすらできないだろうし、どうなっているんだ?」
『確かに私の眼でも魔素が集まるのではなく、倒した瞬間に新たな魔物が構築され始めているのを視たときはおかしいとは思った。......多分この空間自体にかなりの魔素が満ちていてもう飽和状態になっている程なんだと思う。だから魔物を倒してもあまり時間をかけずにすぐに新たな肉体の構築が始まるんだと思う』
「つまり、飽和状態でこの空間に溶けている魔素を消費しきらないと直ぐにまたゴブリンが現れるってことか。相手がゴブリンだからまだ何とかなっているが上位種たちが現れていたらかなりの手間だぞ。この先が不安になるな。......やはり戦闘能力の上昇はこれからも必須の課題だな。」
『私もその意見に同感。一緒にこれからも頑張って強くなろう。』
カナタたちはこれまで倒してきたゴブリンたちの異常な個体数をそのように結論付けて、今後も自分たちの実力をつけていく決意を静かに固めた。
それから数時間の索敵を終えて、カナタたちは今日の晩御飯の準備をしていた。
今日の晩御飯は、先程の話に出たように力をつけるという事でBBQことバーベキューである。野菜はカナタが用意し、肉は例のごとく謎肉とこれまでの探索によって狩っていた鹿や兎などからドロップした肉である。
カナタもアリスもそんなに沢山食べる方ではないがそれでも体を動かしている分よく食べた。二人とも特に好き嫌いはなく肉も野菜も満遍なくモリモリと食べ食事を堪能した。
また、バーベキューのように二人でワイワイと騒ぎながら火を起こしたり、肉の焼き加減で揉めたりと騒がしくも楽しい時間を過ごしたのだった。
さて、実はつい先日からアリスには楽しみなことができた。それは日々のご飯を食べた後のこの時間に行うのだ。
『かなた!今日の分出して!!』
アリスには珍しい燥ぎようで、カナタにそれを催促する。
「......ほいっ。そんなに美味しいのか?それ」
『うん!初めはどんなものか分からなかったから怖かったけど今はこれのために一日を生きていると言ってもいいくらい。とても幸せです。カナタ様、明日もお願いします!』
「ハハッ。俺としては作成コストのMPもそんなに使わないし構わないけれど、アリスのハイテンションが見れるならこれはラッキーだな。」
『......あまり恥ずかしいことは言わなくていい。でも明日もお願いします。』
「試しに飲んでみた血がこんなにハマるとは予想外だよ。10CC位の小瓶でそんなに満足してくれるならお安い御用だよ。」
そう。アリスの楽しみとは食後の血液の補充だった。最初はカナタの印象にある吸血鬼の何気ない話をアリスに話しただけであった。しかし、アリスは今までに血液を飲んだことがないという話になり、アリスも吸血鬼という事で興味が出てきてしまったのだ。
そしてカナタがスキルで血液入りの小瓶を創り出し、それを恐る恐る飲んだことで今の状態になってしまったのだ。
そうしていつものアリスのお楽しみタイムも終え、アリスの火と水魔法の複合で創ったシャワーのような魔法で二人はこの日の汗を流してさっぱりし、眠りについた。
ネメシアではお風呂も存在している。しかし、これは使用するのに高額な使用料がかかり上流階級の者しか入ることができない。庶民は生活魔法で綺麗にできるので専らそちらで済ませる者が殆どだった。
しかし、カナタたちはやはり今までのように体を綺麗にしたいとこのような形になったのだ。因みにゆっくりしたい時などは浴槽をアリスが魔法で創り、お風呂に入ったりする。
翌日、気分もリフレッシュした二人は朝早くから探索を行い、そして昼過ぎに下へ下る階段を発見した。
「......これは......そういうことなのか?」
カナタは思わず小さく口から零れるように言葉を発した。これは近くにいたアリスにも聞こえないほど小さな呟きだった。
「『行こう!』」
二人はほぼ同時に次の階へ行くことを決心し頷きあった。そしてゆっくりと警戒しながらその下へと続く階段を下りて行った。
「『............!』」
二人は階段を下りきり下の階層へ着いた。そして二人の目の前に広がるのは、石で作られた家々が建ち並ぶ中世のような街並みだった。
上の階とのあまりの変化に二人は声を発することもできずにその場で立ち尽くしていた。
そして漸く復活したカナタは自身の考察を述べた。
「アリス。ここはダンジョン、或いは迷宮と言われるモノの中かもしれない。上に行く階段と下に行く階段があり、さらにこの変わりよう。これは俺の世界にあるお話に出てくるモノに似ているんだ。まだ確信はできないけれど頭の片隅にでも覚えておいて。」
『......そう。わかったわ。』
カナタの説明でアリスも状況を少しは理解し、静かに辺りの家々を見渡していくのだった。
「後、あんまり考えたくはないんだが、ゴブリンの集落に居た人たちなんだけど上の階層にどうやって入ったかが分からなくなった。」
『!』
アリスもカナタの説明で直ぐに理解した。
「上の階層に入る入口が此処ともう一つは大岩で塞がれている所だけだった。あの大岩が何時からあるのかはわからないけれど俺たちはあんな大きなものが落下した音は聞いていなかった。だとすると俺たちが来る前からあったと思うんだ。」
『じゃあ......あの子供たちは......』
「ああ。あの子たちは長い年月を経過してなお、ただ人の形を保っていただけだったのかもしれない。アリスの眼でそれ以上のことが視えなかったのなら、あの状態でずっと居たのかもしれないな。......寧ろこうなってくると俺らが見つけられてよかったとさえ思うよ......」
『.............』
アリスは遣りようのない感情を自身の中に抑え込みただ無言でその目から流れる涙を零していた。
そしてカナタも自分がその思考に達した時から拳を強く握っており、握り込んだ手の色が白く変わってしまうほどに怒りを自身のうちに堪えていたのだった。
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