ネメシアの通貨
カナタとアリスはお互いにレベルアップしたことで変化したステータスを確認していた。
「襲撃前から気にはなっていたけど職業欄が埋まったな。でも投剣士って......初めて聞いた。アリスの殲魔術士はカッコ良さげで羨ましい。」
『もう子供みたいなこと言わないの。予定通り私は魔法使いに、カナタは剣士になったんだから喜ばないと。』
「それはそうなんだけど......。と、そういえばこの職業に就くと何か変化があるのかな?それこそステータスに影響があるとか。」
カナタたちは勿論知らないことだが、職業、つまりJOBはネメシアにおいてステータスの成長の補正につながっていた。剣士職なら筋力や体力が伸びやすくなっている。また魔法職はMPが伸びやすくなっていた。
『わからないけれど付いた職業の消し方もわからないんだし様子見で行くしかないんじゃない?そして私はもう一つ気になるものがあるんだけど......。』
「わかってる。俺もつい今しがた気が付いたよ。」
カナタたちが気にしているモノ、それはステータス画面ではなく自分自身の持ち物が入っているアイテムボックスだった。
これもオマケとは言えこの世界で所持している者はカナタたちしかおらず、神界を通り転移するという経験をした者しか手にできない超レアな代物なのだ。
そしてこのアイテムボックスの中に身に覚えのないお金が入っていたのだった。
カナタたちはこれまで戦闘に次ぐ戦闘であったためアイテムボックスは、中身を確認するのではなく必要なものを収納し取り出すことだけに使っていた。
故に一段落が付き、中身をアイテムボックスのメニュー画面で確認して漸く気が付いたのだった。
「俺の方は二万ケルって書いてあるんだけどアリスの方はどう?」
『私も同じ位。でもケルっていうのがこの世界でのお金の単位なのかな?』
ネメシアでは通貨の単位はケルである。そして、お金の種類は一つだけで一枚の硬貨がそれだ。それは、薄い青色で光り輝きなかなかに価値がありそうな見た目をしている。
ネメシアではお金に関して偽造はできない。まずこの硬貨の素材がなんであるかがネメシア誕生から謎のままなのだ。そして、この綺麗な色合いでありながらも薄っすらと光を反射している硬貨を作り出すことができなかったのだ。
これは、国で扱う金銭も同じである。なのでネメシアではこの硬貨が単一のお金であると決められたのだった。
またこの硬貨は破損しないし劣化もしないという奇跡のような特徴を有している。切れ味鋭い刀で切られようが、摂氏数百度の熱で溶かされようが、変わらずその形を無傷のまま保っていられるのだ。
さて、ここまででもうお気づきだと思うがこの硬貨は神が世界創世の時に定めた代物である。この硬貨の唯一の入手方法は魔物を倒すことである。
個体によって入手できるケルにも差があるが長く生きた個体ほど入手できるケルは増える。これは体内に取り込んでいる魔素が関係している。
そもそもケルの元は魔素であり、魔素が魔物の体内でその血に反応し結晶となってケルという物質に変化していくのだ。そしてケルという硬貨が体内にできるのに生命活動が脅かされない、寧ろ魔物たちはそんなことになっているなどとは知らないという状況なのは、魔物が倒されるとアイテムになるというシステムが関係している。
実は、体内に貯め込まれた魔素と血液が反応するのは魔物が死んでアイテムに変化するタイミングなのだ。これらの情報は神のシステムさんがきっちり管理し、実行に移している。
そして、これまで続いてきたネメシアの歴史で硬貨が増えすぎないのも神のシステムさんがきっちりと仕事をしているが故であった。
家族を持たず亡くなった人が持っていたケルは強盗することもできずに消滅する。
またこの世界にもケルを預けておけるギルドと呼ばれるものが存在するが、そこでも所有者が亡くなるとそのケルは消滅する。
これは世界の真理であるため、現在に生きる人々は誰も疑問には思はない出来事であった。
しかしこれが適用されるのは個人の資産であり、国には反映されない。そういう細かいところで調整されてこの世界のシステムが成り立っていたのだった。勿論個人の資産も自分が死を感じた際に子供に譲ることで消滅は避けられる。
「たぶんそうだと思う。でもこれってめちゃくちゃ不便じゃない?この世界の物価とか知らないけど、百ケルとかでの買い物とかこの硬貨百枚も出さなきゃってことだろ?」
カナタはアイテムボックスから一枚の硬貨を取り出しまじまじと観察した後、至極尤なことを言い出した。
『......これ......纏められる。』
アリスはカナタの指摘を考えるため二枚の硬貨を取り出して見ていた。そして片手で同時に手にした時に二枚だった硬貨が一つに纏り一枚が消えた。
そしてアリスの手には見た目上何の変化もない一枚の硬貨が残った。
「......おお!本当だ何枚も一つに纏められる。アリスの持っているのも貸してくれ。......既に纏めてあるものも更に纏められるんだな。ってことはこの枚数とかを読み取れる何かがあるのかもな。」
『おもしろいこれ。私纏めるの好きかも。』
そうしてアリスは暫しの間、手持ちの硬貨を重ねるという地味な作業を延々としていた。そしてその楽しそうなアリスの顔をカナタは穏やかな表情で眺めていた。
(むふぅ!)
手持ちの硬貨をすべて重ね合わせ纏め上げたアリスはやり切った職人の顔をしていた。
「さて、お仕事お疲れアリス君。では次にドロップアイテムの確認に移りたいと思います。」
『はい。......少し取り乱しました。』
アリスは恥ずかしかったのか透き通るように白い頬を少し朱に染めていた。アリスは普段はその表情を喜怒哀楽でほとんど変化させないクールビューティな子だった。因みにこの時まだアリスは十歳である。しかしカナタはこの短時間でアリスの少しの機微にも気が付けるほどになっている。因みにこの時カナタはまだ十三歳である。
「まず、食用謎肉......沢山。次にゴブリンたちの体の一部......それぞれ沢山。そして、ゴブリンソードマンの剣×2、ゴブリンマジシャンの杖×1、ゴブリンのローブ×1......ゴブリンキングの腰蓑×1、以上。」
『うん。意外といろいろ手に入った。ローブと腰蓑はちょっと使わない気がするけれど。』
流石にこの状況下であってもあのゴブリンたちが身に着けていたものだと想像すると鳥肌が立ち、体が勝手に拒絶反応を示すのだ。
ちなみにこの二人はもう既にゴブリンのドロップである謎肉は完食経験済みであった。
謎肉は牛とも鳥とも豚とも判断がつかないそれぞれが絶妙に混ざり合ったような味だった。そしてそれは極めて不服だが不味くはなかったのだ。ただ美味しかったというわけでもなく要味付けの研究次第という結論に至っていた。
故にこれは数があっても困りはしなかった。寧ろ当面の食糧問題は解決したと言える。
ゴブリンの剣や杖に関してはとても有り難い報酬だった。
カナタの主武器は現在刀だが、いざという時のスペアはあって困るモノではない。また杖に関しては魔素の集束を微量だが助けてくれる効果があった。アリスは今後はこれを手に戦う予定である。
とまあ、ドロップ品に関しては当たり外れが大いにあったがカナタたち二人は容量無制限のアイテムボックスを持っているため全く困りはしなかった。
これがネメシスの住人達だったら、例えアイテムボックスを持っているとしてもその容量には限界量が存在するため、必要物以外はその場に捨てていくという選択をせざるを得ない。また、カナタたちは自身の体にアイテムボックスというスキルが宿っているため重量も全く感じない。しかし、他の者は多少なりとも邪魔にはなるし、安物のアイテムボックスではその体積、重量ともに増大していくのだ。
つまり、実はカナタたちは気づいていないがかなり恵まれた状況にいたのだ。ただ本人たちの経験した事柄を考えると一概にはそう言えたものではないのだが。
と、ドロップ品の話も一段落し、カナタたちの話は次にスキルの話へと移っていくのだった。
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