ゴブリン殲滅戦Ⅳ
今回はアリスの視点での強敵との戦闘になります。
カナタがゴブリンマジシャンとゴブリンソードマンの二体とその取り巻きたちとの戦闘を繰り広げているのと同時刻、アリスもこの場所での一つの山場を迎えていた。
アリスはゴブリンたちを蹴散らした後、ゴブリンの集落の中心地点を目指して進んでいた。そして、遭遇するゴブリンは一体たりとも逃さず倒していたが、唐突に背後から攻撃が飛んできた。
流石にアリスも隅から隅まで探索して進んでいたわけではなく、目につくところを片っ端から襲撃していたため、当然倒しきれていないエリアも存在していた。
故に背後から攻撃が来ることも起こりえる状況になってきていたのだった。
『......』
アリスは背後から迫る攻撃、”ファイヤーボール”を一目見て、すぐさま冷静に右手を前に出しながら戦闘態勢を整えた。
そうして反対属性の魔法を構築するための魔法陣を右手に展開し、魔素をそのまま手に纏うアリスの”魔法ディスペルスキル”で向かってくるファイヤーボールを消滅させた。
魔法を放った相手はアリスの視線の先十メートル程の所にいた。それは穴が開いたり、所々薄汚れたローブに身を包んで杖を構えているゴブリンだった。しかし、魔法戦においてアリスは魔法ディスペルという言わば魔法職キラーといえるほどの個人スキルを持っているためそこまで脅威ではなかった。
しかし、アリスはその表情を強張らせ、いつでも行動できるように緊張感を漲らせていった。その理由は純粋に敵の数であった。
アリスの前に現れたのは五体のゴブリンマジシャンだった。いくらアリスが魔法使いに強いとはいえ、それは対単体においての話である。アリスのディスペルスキルは神のシステムによってついたスキルではなく、アリスの個人的な技能のことであり常時発動できるわけではない。
つまり、ゴブリンマジシャンたちがそれぞれ別々の属性の魔法を同タイミングで放った場合だとそれぞれに反対属性の魔素を用意しなければならず、対抗の魔法数が増えるほどにアリスの負担は増えていくのだった。
このことがアリスの緊張感が増したことの一つ目の要因だった。
......そう一つ目なのだ。アリスがこの中で最も警戒しているのは実は、このゴブリンマジシャンたちの中に一体だけいるゴブリンソードマンだった。
カナタが対応したゴブリンたちより更に数が増え、状況は悪化したと言っていい。
アリスにとってはそれぞれ単体ならそこまで脅威ではなかった。何故ならゴブリンソードマンも結局は近寄らせなければ魔法で何とでもできると思っているのだ。しかしこのメンツが揃ってしまうと前衛と後衛の連携が取れてしまいどちらも攻め難い状況になってしまっていた。
(うーん、厄介!MP管理厳しいけれど少し無理しないと切り抜けられないか......)
アリスには魔法以外ではダメージを与えられる手段をほとんど持っていない。故に決定打となる魔法をどのタイミングで放ち、どの順番で倒していくかが重要になっていた。
(とりあえず一番厄介なのはゴブリンソードマンの方。狙えるタイミングがあれば積極的に狙う。)
アリスはこのタイミングで自身の持つ魔法の中で一番火力が出るものを放って殲滅することは考えていなかった。
これはゴブリンマジシャンが複数体いることが原因だった。ゴブリンマジシャンたちはアリスのように魔法をディスペルすることはできない。しかし、複数体で魔法を放ちアリスの魔法とぶつけることで相殺することはできる。
そうなると、まだレベルの低いアリスはいくら魔法を工夫しても放つことができる魔法は高が知れている。さらに連携できるゴブリンマジシャンたちと違い、MPも無駄にできないため無駄に相殺されないように立ち回らなければならなかった。
そうしてアリスは戦闘プランを頭の中で構築して初手の魔法を決めた。そして動き出したアリスと奇しくも同タイミングでゴブリンマジシャンも動き出して魔法を放ってきた。
(体表覆うは光雷の輝き也!”纏雷”)
「「ジャギャギャ」」
「「ググッギャ」」
「ギャラギャギャ」
アリスは自身に雷を纏い、肉体を微電流で刺激することで自身の速度と反応速度を上昇させ、自身が触れるものには高電流を流して攻撃するという効果の魔法を発動した。
対するゴブリンマジシャン×5はそれぞれ、二体がゴブリンソードマンの筋力を上げる”ゴブリン魔法”を使い、もう二体がゴブリンソードマンの防御力を上げるゴブリン魔法を使った。残る一体はアリスに目視しにくいように透明な鎌鼬を放った。
鎌鼬の魔法は肉体に及ぼすダメージは斬撃効果であるが、当然魔法ではあるので魔素を鋭い刃状に固めたものである。そのためアリスには効かない。
しかしアリスは鎌鼬を掻き消すのではなく、しっかりと眼で見て回避していた。この選択は仲間に超強化されたゴブリンソードマンが突っ込んで来ていたのを捉えていたためだ。
ここで掻き消す選択をするとゴブリンソードマンとの距離が詰まり、掻き消すことに少なからず集中してしまうためアリス的には悪手に思えた。
アリスは横に跳ぶことで鎌鼬を躱すのと共にゴブリンソードマンの剣が当たり難いように動いた。しかし魔法による強化がアリスの想像以上で、剣が届き難い方に跳んだのに剣はアリスを追うように迫ってきた。魔法で肉体強化をアリスもしているが、素の状態での差がそもそも有ったのと、バフの数でも負けていることがこの状態を生んでいた。
(くっ......でも、甘い!!!)
迫る剣に対してアリスはその動きから視線を逸らさなかった。ゴブリンソードマンが突撃し、剣を振り上げた時には既に神眼スキルを発動していた。
そして、剣の軌跡を見切り紙一重で躱した。
(我が体駆けるは天里に轟く轟雷なり!”轟雷掌”)
ゴブリンソードマンが一体で距離を詰め、この場で浮いた状態になってくれたためアリスはギリギリで躱すことで意図的に彼我の距離を限界まで近づけ、自身の体を包んでいる雷を再利用して最速で雷魔法を放った。
しかも、ゴブリンソードマンの巨体がアリスを隠して魔法の射線を遮ってくれていた。
ほぼゼロ距離といってもいい魔法攻撃をゴブリンソードマンは躱すことができず、むしろ反応すらできずにモロに受けた。しかし、防御強化の魔法を二重で受けていたことで絶命にはまだ届かず剣を握る力を再度籠めた。
だが魔法を放った直後、アリスは神眼で今の立ち位置では魔法はFF、つまり仲間を巻き込まなければ当たらない状況であると瞬時に把握し、アイテムボックスからカナタに予め1本だけ創ってもらっていた超短剣を取り出した。
そしてゴブリンソードマンが力を籠めるより多少早く、剣を振り下ろした体勢で届く位置に下がっていた首にアリスは短剣を突き刺した。
一瞬の攻防の中で生死の差を分けたのは一手に込める意味合いの濃さであった。初手の魔法然り、立ち位置然り、全体を通して流れを作り、優位に立っていたのはずっとアリスの方だった。
しかしアリスも消耗し、なかなかに削られていた。二重のバフによる強化でかなりのスピードでの戦闘を強いられ、神眼スキルを用いての広範囲での戦闘盤面の把握を瞬時に行う事の負担はとても大きかっ
た。
(さて。もう一踏ん張り!)
アリスの凶刃によりゴブリンソードマンが倒れたことで魔法の射線が通り今度は魔法戦が始まった。
ゴブリンマジシャンたちは一斉に魔法を放ち、アリスを追い詰める。対するアリスは動き回りながら魔法を回避し、躱しきれないものはディスペルで打ち消しながら対処していた。
(我求めるのは幻影の斬撃!”朧月”)
アリスの魔法は目視できない透明な斬撃を右手に纏い、任意のタイミングで放つ事ができる魔法である。
この魔法は能力が強い分、刃の強度は大したことはない。なのでアリスは放つタイミングを慎重に図っていた。
ゴブリンマジシャンたちの放つ魔法は火球や水刃など多様だがその練度は拙かった。
アリスは回避が難しくなるが、それでもじわりじわりと彼我の距離を詰めていく。
そして横並びで魔法を放っている敵たちを射程に捉えると、最後に自身に迫ってくる魔法を至近距離で掻き消した。
そして消したタイミングで邪魔をするものがなくなり、”朧月”で作った刃を一体の首めがけて不可視の刃を放った。
それと同時に、至近距離までアリスが危険を冒してまで近づいた事で効果範囲の広い魔法はゴブリンマジシャンたちは使えなくなった。
逆にアリスにとっては敵の魔法が先読みしやすくなった事で躱しやすくなり、そこからはそこまでの時間はかからずにここでの戦闘を終わらせた。
アリスはこの戦闘でレベルは上がったが、MPの大量消費と神眼スキルの使用による疲労が色濃く、カナタと同様に少しの間その場に留まる判断をするのだった。
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