ゴブリン殲滅戦Ⅱ
ゴブリン戦アリス視点です。
魔法とは、周囲の魔素を自分の魔力と呼応させて、形を自分が思い描いた姿に現出させることで発動するというプロセスを踏んで行うものである。
ネメシアにおいて、魔素は周囲に溢れており他世界に比べればかなり魔法は発動させやすい環境にある。しかし、それでも魔法使いと呼べるものーーただ魔法を使えるというだけではなく戦闘にも活用出来、一定の基準を満たすものーーは戦闘を行う者の中で約三割ほどしかいない。
生活魔法は詠唱さえ覚えてしまえばそれこそ子供でも使うことが出来る。現にネメシアの一般家庭で家事手伝いをすることが子供の仕事であるとしている家庭も少なくない程である。
だが戦闘用魔法となると呪文を覚えただけでは使うことはできない。
例えば火属性魔法では、魔素を燃焼する概念に置き換え、魔法の規模の指定、魔法を使う対象物との距離感など、指定しなければならない片柄が格段に増していく。さらに、上の階位の魔法ともなるとさらに難しさは加速度的に増していく。
この事が魔法使いの絶対数が少ない要因であるとともに、世間で"才能がないものは使えない"、"実力職だ"などと言われる所以であった。
しかしながら、アリスが行使する魔法はこのネメシアにおいて特殊に過ぎた。まず、魔法とは過去に偉業を成した魔法使いが使っていたものだったり、研究者が時を重ねて解き明かした詠唱がそのまま用いられ、言葉を用いーー詠唱を用いーーないという発想自体がこの世界の人間にはない。
また、アリスの場合はそこから自分の使いやすいように詠唱を弄り改変してしまっている。
もはやアリスは魔法においてはこの世界でTOPクラスの実力を持っていた。
(神眼発動!......うん。カナタも打ち合わせした位置に来た。そろそろ始めなきゃ。)
アリスはカナタの位置を把握し、戦闘を開始するために集中し、魔力を練り上げて高めていった。
(我求めるは漆黒の雷炎、燃え盛る炎は戦闘の福音を告げる、天衝く効用を炎に宿せ!”赤炎招雷”)
ドギャアアアアアァッァァァァアアアアンンンンンンンンンンンンンン!!!
アリスの放った魔法は朱朱と燃え盛る炎を雷の速度で射出するアリスオリジナルの魔法であった。
そしてアリスが開戦の狼煙に選んだ場所はゴブリンの家々が密集しており、アリスが見た中で一番火力が出そうなところを選んだ。もちろんゴブリン以外には影響が出ない場所を選んでいる。
アリスの初撃は最大の戦果を齎し、近くにいたゴブリンは一掃できた。とはいえそれは、この場所ではという話であり全体で見ればまだまだ敵は沢山いる。
(この地に産み落ちるのは酸の雨也!”アシッドレイン”)
炎が燃え盛っているのとは別の場所では酸の雨が降り、ゴブリンが作る程度の家ではすぐに溶かされ、その家の中に居たゴブリンたちは肉体がグズグズに溶かされるという、悪夢が現実に起きたようなエリアが発生した。
(人々を支える大地は一時反旗を翻す!”サウザンドスピア”)
大地から迫り出して来るのは、土で作られたランスのような形と鋭さを持つ無数の棘だった。初見のゴブリンたちは棘が突き出る場所にいた個体は呆気なく貫かれ、偶々初撃が当たらなかった個体も次の瞬間には新たに生えた棘に貫かれるというみんな一様に同じ末路を辿った。違ったのは刺される時間に誤差が若干あったことで、後の方に貫かれた個体ほどその恐怖を感じざるを得なかった。
「はぁ......はぁ......」
アリスは魔法を唱え、放ちながらも小走り程度のスピードで移動していた。故に、数多のゴブリンを蹂躙して得た経験値で、レベルアップをして増えたMPよりも先にまず体力的に疲労が溜まっていた。
このまま本格的な戦闘になるのは拙いと判断したアリスは、移動速度を落とし歩いて先を目指すことにした。
しかしこれだけ派手に暴れ、爆発音や断末魔の悲鳴轟く中でアリスが発見されない筈は無かった。
(ふぅ。カナタには囲まれるなって言われた。今私の後ろは、さっき放った魔法でそう簡単にはたどり着けないはず。......私が後ろに通さなければだけれど。)
そしてアリスを見つけ、アリスが目視したゴブリンは二十匹程度の集団だった。しかし進行方向が、今向かって来ているゴブリンたちの方なのでこれまでのような大規模な魔法は使えない。
(じゃあ......私を守るのは風の加護!”エアウォール”からの、風纏しは我が刃である!”風刃”)
風による防壁を自分の周りに作り出したアリスはさらに、同属性の風魔法を唱え、周囲に展開した風の防壁の外側で空気に溶けて消えていく風を代償に再利用して風の刃を作り出した。
これこそ正に攻防一対の技であった。
基本的にゴブリンの攻撃手段は打撃である。自身の拳であったり、稀に棍棒を持っていてそれを使ったりと根本的に接近戦を主体としている。
しかしアリスは魔法が主体である。つまり遠距離攻撃が自身の間合いであり、オールレンジで戦えるのが強みだ。
つまりゴブリンはアリスとの相性が最初からあまりよくはなかったのだ。ゴブリンが取れる手としては、戦場が集落とはいえ森の中にあるためその辺に落ちている石を拾って投擲するという位だった。
当然アリスもゴブリンの筋力は嫌という程知っているため、そういう素振りをした個体から風刃で二つに切り分けていた。
そうして数の優位を活かせないゴブリンは接近すら許してもらえず、ものの十分ほどで全滅したのだった。
今の集団との闘いではほとんど動かずに済み、魔法もそれほど高位のものではなかったためMPも温存できた。さらに数を倒せたのでレベルアップもしているという今まで以上にアリスは手が付けられない状態になってきた。
アリスは神眼を発動し周囲の敵の様子を伺い、その中で敵が集結している所を目指して前進していく。
目指している場所に向かう途中途中で、不意を突かれないようにアリスは何度か神眼を使っていた。その中でカナタと同様に不快な心情にさせられた。
アリスが視たのは苗床にされたが体がもたなかったと思われるお腹が裂け、そのまま放置された六歳の女の子の死体だった。
アリスはこの場所を神眼で視ていた為、女の子の年齢まで解ってしまった。そしてアリスの眼は、その隣の家で顔に涙の跡が汚れで浮き出て、視認できるほどになるまで遊ばれて殺された男の子も捉えていた。
男の子は七歳で、ステータスの名前が女の子と同性のため兄妹だと思われる。
アリスは自身よりも尚幼い兄妹を引き裂き、こんな惨い事をしでかすモンスターに対して怒りを通り越し心が冷めて無感情になっていく。そしてアリスが思うのは、兄妹へのせめてもの憂さ晴らし程度にはなれという思いとカナタと話した作戦をしっかりと遂行するということだけだった。
(我生み出すは己の怒りを貪る炎也!”腐獄炎”)
アリスの周りには真っ黒に燃え上がる四つの炎の玉がフヨフヨと浮いており、アリスの敵をいつでも焼けるように辺りを漂っている。
そして家と家の間の陰から出てきた三匹のゴブリンにアリスが気づくと周りに浮かんでいた炎の玉がゴブリンに向かって行く。そしてその威力は凄まじく、命中し、一瞬で骨まで燃やし尽くしながら更に朽ちてボロボロに崩れていった。
アリスの放った魔法は、触れた相手を超高温で燃やすと共に腐食させ朽ちさせる。
火属性と闇属性の混合魔法であった。当然アリスのオリジナル魔法である。
アリスは魔法真理のスキルで魔法の理論は、脳が直接記憶しているため理解している。要するに、ファイヤーボールなどの現存している魔法は構成を理解しMPが足りるなら行使できる。しかしその他の魔法の行使に関しては、理論を元にアリスが独学と発想でバリエーションを増やし威力を底上げしている。
これらの点から、紛れもなくアリスは魔法の才能がずば抜けて優秀であると言えた。
そうしてアリスは黒い炎の玉を共に引き連れながらゴブリンたちに死を振り撒いて進んでいくのだった。
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