ゴブリン殲滅戦
人によっては少し不快に感じるような表現がある為、お気をつけください。
ネメシアにおいてゴブリンは雑食であると言われている。食べられるのであれば何でも食べるし味など全く気にしたりしない。というより、ゴブリンには人間のように味覚がほとんど存在せず、食事という行為はただ生きていくためのルーチーンでしかない。
むしろゴブリンは食欲よりも性欲が群を抜いて高く、快楽の奴隷であると言われるほどに有名だ。
ゴブリンはどんな種族との交尾でも子孫を残すことができる。故に、ゴブリンの前に女性を晒せば、醜悪な顔をさらに歪めて喜び飛びついてくる。それが罠であるとしても通常時のようには考えることができず、もともと低い知性がさらに落ちる。
しかし、これが男性の場合は嬲る方にシフトする。ゴブリンは生物を嬲って遊ぶのも大好きなのだ。
敵が自分より強い相手の場合は如何なる手を用いても逃げ出そうとし、相手が弱いとわかると、相手を追い詰めるように行動して逃さないようにする。
そうして捕らえた玩具は石投げの的や、サンドバックとして使ったり、便器代わりにしたりと、とても捕まりたいとは思わないような仕打ちを死ぬまで強要される。
とはいえネメシア世界では、モンスターに捕まるとは最低限その程度のことが起こるとされ、捕まった者は自害することもしばしば起こるほどである。
(アリスの作戦上ここで見つかるわけにはいかないからな。待たせているアリスには申し訳ないが少しゆっくり行かせてもらおう。とはいえ、ゴブリンいなくね?見えないんですけれども。めっちゃコワー。)
ここまで暫くコソコソと歩いてきたが、アリスのような眼をもっていないカナタは何時、何処から、唐突にゴブリンが出てきてもおかしくはないためビクビクしながら進んでいた。
(う~ん。時々聞こえるゴブリンの声が怖いよー!しっかしゴブリンって警戒心ないのかね。ここまで見張りらしいものにも遭遇していないし。この数の集落になるまで敵らしい敵にあたっていないのかな?それとも数がいるから油断してるとか?......っと)
カナタは警戒しながらも自分の中でこの状況の考察をしながら進んでいた。
そうして遂に戦闘の始まりの時は来てしまった。
「アリスの初撃は火属性魔法ですか!殲滅速度は圧倒的に劣っているから此方も頑張っていきましょうかね!!」
カナタは隠密行動を解き、予め創っていた十本の超短剣のうち二本をアイテムボックスから取り出して集落の建物を目指して走り出した。
「そーうッラ!!」
駆け出したカナタはアリスが起こした騒動によって、建物から出てきて其方の様子を伺っていたゴブリンの背後から首に超短剣を深々と突き刺した。そして短剣を抜くことをせず、切れ味と駆けていた速度のままに突き刺した短剣を水平に捩じり首を切り裂いた。
そうして悲鳴すら上げさせずに倒し、右手に持っていた短剣を他のゴブリンに対して投げ放った。投げた短剣は狙った頭から少し外れたが左の眼球に突き刺さった。
「gyaaaaaxaxxaxaaxa!!」
突き刺さった短剣は、刃渡り五センチ程でとても短いが刺さった場所が眼球という柔らかい部位だったためそのまま突き進み脳まで達した。
しかし悲鳴を上げられたためカナタの存在もついに知られてしまった。
二匹を屠った後、空いた右手に短剣を持ち替え、左方面から迫っていた一番近いところにいるゴブリンに再度投擲した。
「さて。本格戦闘はこれが初めてだな。数はアレだけれど初戦がゴブリンなのは助かったな。」
カナタは次に右手に再度超短剣を、左手には二本の針を取り出し彼我の距離を詰めていく。左手の針は指の間に挟み拳から針が出てえいる状況だ。
ゴブリンの皮膚は人間と変わらず細い針でも突き刺すことができる。最初に襲われたときにカナタが当たり所がよかったとはいえ、素手で倒すことができるほどには人間と差がない。
「......フッ!」
近づいてくるカナタに周囲にいる七匹のゴブリンのうちの二匹が拳を放ってきた。
しかし、筋肉質の腕から放たれる攻撃は一発一発がカナタにとって致命の一撃ーー死なないけれどーーたり得た。
カナタはゴブリンの攻撃を身を翻して躱しながら、その流れの中で短剣で首を裂き、針をもう一方のゴブリンに対して投げ放つ。そしてその行動を合図にしたようにそれぞれは一斉に動き出し、ゴブリンは殴打や蹴りなどを繰り出し、カナタは短剣をまた両手持ちにして前後左右引っ切り無しに繰り出される攻撃を躱しながら、その都度相手にカウンターで切り傷を与えヒット&アウェーに徹して戦っていく。
(はぁ。人間、極限状態だとなんとかやれるもんだな。それにレベルが上がったのか若干だが、攻撃に対する初動が安定したように感じる。)
普通、”戦闘のせ”の字も知らない子供がネメシアに来てカナタのような感想を持つことはないだろう。しかし人種の原種であるカナタは自分の客観的分析及び、他者への観察、分析に長けていた。
故にこのように思考し、ゴブリンに対しても肉体構造的に攻撃密度の薄い場所への回避をすることで乗り切った。
「結構動いたけれどレベルアップはスタミナも対象で強化されているのかな?まだ動けるなら積極的にアリスの負担軽減になるようにもっと倒さないとな。」
戦闘中とは格段に落ちるが、カナタは戦闘が始まってから今まで一度も止まっていない。また移動も小走りで行い索敵している。
しかしカナタは咄嗟にゴブリンたちの作ったであろう糞尿の臭い漂う家の陰に身を隠した。
カナタがそれを感じたのは本能によるものか、はたまた、戦闘により高まった感覚によるものかはわからないがその気配を感じ取り即座に身を隠したのだった。
そうしてカナタが少し開けた場所で見たのは、数十匹のゴブリンの集団だった。
(ちょっと多いな。とはいえ片づけないわけにはいかないからな。......行こうか!!)
「”創造”......今創れる剣はこれが最大か!!」
創り出した剣は刃渡り二十センチほどの小刀だった。今あるMPで創れる最大のーー戦闘に支障が出ない範囲ーー剣を創った。
そして剣ができるのとほぼ同時に集団の中にいるゴブリンの一匹に切りかかる。
「ギャギャーグギ!」
狙っていたゴブリンは背後を見せていたため気づいていなかったが、近くにいた仲間が声を発し、カナタの攻撃に反応してしまった。しかしゴブリンの動く速度も人間とそうは変わらないため、躱しきれずに左肩から脇腹までを大きく切り裂くことができた。
また瞬時にアイテムボックスより超短剣を取り出し、声を発したゴブリンの腹に投げつける。
切っては投げ、躱しては切り裂き、たとえ殴られても反撃で顔に剣を振るって怒涛の勢いでゴブリンを屠っていく。また、倒せば倒すほど元々低レベルだったカナタはレベルが上昇した。そして、動きがよくなって被弾率が下がり殲滅速度が増していった。
さらに、カナタ自身の戦闘経験値も増していき、躱すときの距離の取り方や躱すときのモーションなど、少しづつではあるがうまく立ち回れるようにもなってきて、それも今の状況を作り出している要因であった。
(はぁはぁ。なんとか倒しきった!かなりボロボロにされたけれどそのうち治る。投げた剣を回収して次に向かわないと。)
カナタはダメージを無視しているが、肋骨を骨折していたり、顔面を殴られたことにより顔が腫れあがって血だらけだったりなど、結構すごい状況なのだが”苦痛耐性”スキルと”痛覚鈍化”スキルのおかげで何とかなっている。
そうしてカナタは、自分が攻め込んだ方面のゴブリンを見つけたら超短剣を投げて攻め、遭遇したら小刀を振るって攻め、自分が不利の状況では針を隙をつくるために使いながら戦闘を工夫しながらゴブリンの集落を攻め立てて行った。
しかし、集落の中にはここが現実であると訴えてくるような惨状が広がる場所も存在する。
「クッソが......っ」
集落の家の中には人の骨と思わしき骨が多数あったり、所々朽ちてしまってはいるが使われた痕跡のある人間の女性と判別できる躯が転がっていたりと、精神的にはかなり好ましくない惨状が広がっていたりした。
そうしたものを見るたび、カナタの中で黒い感情が大きくなっていき、しかしその動きはさらに冷静に洗練されていった。
カナタは怒りを原動力にするかのようにゴブリンたちを容赦なく殲滅して行くのだった。




