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誰が為に  作者: 白亜タタラ
世界の常識と陰謀編
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胃袋を掴む

 カナタとアリスがアイテムボックスに仕舞っていたロープをみんなに配り、気絶して倒れている盗賊団のメンバーを拘束していく。

 中でも自分たちを捕らえていた盗賊連中を逆に縛る事が出来るのが嬉しいのか、獣人のご婦人たちはテキパキと仕事をこなしていた。流石に子供たちには任せられないのでそっちはアスカが一緒に待機している。縛っている途中でもしも目を覚まして獣人たちが襲われでもしたら大変なので、ノルンとフィルはいつでも動ける監視役についている。これで万が一にでも危険はない。

 確かに盗賊の数は多かったが、こちらも捕らえられていた獣人の手が加わっているためそう時間もかからずに全員を縛り終わった。


 「「「「ぐっ、ああ、うおっ!」」」」


 縛り上げた盗賊たちはノルンが力任せにロープを引いて運んでいく。アジトとはいえ洞窟の中なので当然地面は真っ平ではないし、小石なども所々にあるため小さく悲鳴を上げる者がいる。そんなダメージを追うのが嫌な者は渋々ながら自分の足で歩いているが、最初の内は意地でも動かないと座り込みを決めていた者も少なくなかった。


 目が覚めていない者もいたが、全員が起きるのを待っている時間も必要すらもないので容赦なく引き摺って進んでいく。


 「てめぇら、ふぐっ、俺たちにこんなことをして、ぐっ、ただで済むと思うなよ!」


 「そうだ、そうだ!こんな紐程度直ぐにぶった斬って嬲り殺してやっからなぁ!」


 中には強情に座ったままでいる者もいて、何やら憎悪の篭った目で叫んでいるが悲しいかな誰も気にしていない。獣人たちは外に出れる喜びで頭がいっぱいだし、カナタたちに関してはもうこの盗賊たちに対して興味を失っていた。実際カナタたちは盗賊をどうこうというより、捕まっている人たちを助けるために態々来たのだから、その対象を無事救い出した今何を言われたとしても別にどうでもよくなった。

 それにもしこの拘束から逃れられたとしても、その後で脅威になるだけの力があるとは到底思えないので気にするだけ無駄というものである。


 それから少しして洞窟を出たカナタたちは現在跪いていた。


 いきなりの事に戸惑いを隠せない獣人たちだったが最初にカナタが言っていた話を思い出した者から順にカナタたちに倣って膝をついていく。


 「うん。カナタ君から話は聞いているみたいだね。私がセルナント王国国王のアルゼンだ。まあ今は公の場でもないしそう畏まらなくてもいい。それに盗賊たちに捕まっていた君たちはかなり疲労している筈だ。今は自分たちの体を気遣うがよい。カナタ君、後は任せてもいいかな?」


 「はい。じゃあ10人毎に分かれてこっちに並んでくださーい!」


 カナタの説明に少しでも真実味を持たせるためにアルゼンに話をさせることは実は最初から決まっていたことだ。カナタたちが跪いたのもそういった印象を強めるための一種のパフォーマンスであった。


 その後は馬車で移動という流れだったのだが少し予定外というか、捕らえられていたのだから考慮していなかったのが拙かったというか。彼女たちは当然だがお風呂や水浴びなどを日常的に行っていなかった。そのため、流石に、すこーし、一緒に居るのが辛い程度には......言いたくは無いが、臭いが気になるのだ。


 「よーし、じゃあ皆さん少しの間そのまま動かないでくださいね。」


 「”バブリアールウォッシュ”」


 「「「キャッ!な、なになになに?」」」


 「「”ドライ”」」


 「「「あったかーい!なにこれ?」」」


 アリスの魔法で並んでいる順に次から次へと水をぶっかけては乾かすといった作業を繰り返す。アリスが使う魔法はただの水ではなく石鹸水仕様だ。しかもこれはアリスが迷宮に居たころに気が済むまでしっかり拘って作った魔法で、石鹸からできる泡の量や体に当たる水の動きを完璧に制御することでいかに綺麗にできるか、洗い心地はどの程度が最適か、さらには石鹸の香りにまでアリスの趣味趣向がこれでもかと反映された魔法である。


 そしてずぶ濡れになったところをカナタとヤクモが乾かして回った。


 「どうですか?多分今の1回でかなり綺麗になっていると思いますが、まだ不満がある人は言ってくださーい!一応香りについてもあと何種類かあるのでそちらも要相談になりますよー。」


 「あれ、本当だ。体が綺麗になってるー!」


 「「きもちいいー!」」


 「香りって......本当にいい匂いがする。魔法1回でこんなに凄いことが出来るなんて......」


 「私たち獣人は魔法は苦手な種族だしね。こんなに便利な魔法があるなんて知らなかったよ。確か生活魔法にクリーンの魔法があった筈だけれど使えるならこっちの方が良いねぇ。私ら女にとってはこの匂いは魅力的だよ。」


 「デリカシーのない男どもは狩りの時に鼻が利かないとか言いそうだけれどねぇ。」


 あちこちで魔法の事を話し合っている様子が見られる。小さな子どもたちも体がサッパリするのは気持が良かったらしく大はしゃぎである。ご婦人たちはアリスの趣味と合ったらしく石鹸につけた香りが話題の中心のようだ。


 「さて、意見もないようなので皆さん馬車に乗り込んでください!申し訳ないですが馬車はこの1台しかないので少し窮屈になるかと思いますし、中には国王様たちもいますので最低限度のマナーは守っていただければと思います。とはいえ、セルナントの国王様は懐が深いというか寛大な方なので皆さんの境遇を知っている今はよほどのことは言わないと思いますが、一応注意だけはしておきますね。」


 「休憩は適度に入れるつもり。行先は獣王国だからもう少し我慢してほしい。......何か聞きたいこととかある?」


 「あの、本当に私たちが1国の国王様と一緒の馬車に乗ってもいいのでしょうか?気が引けるというか、恐れ多いというか......」


 「大丈夫ですよ。それよりさっきも言ったように馬車は1台しかないので皆さんにはこれしか選択肢が無いのが現状です。俺達も獣王国に向かうのは観光の為というわけでもないので時間には限りがあります。なので皆さんに歩いてもらって、というのはできないんですよ。だから、ここから獣王国までの間は我慢してください。」


 「そ、そうですか...いえ、助けて頂いたのに我儘を言って申し訳ありません。」


 カナタたちのことは疑っていた獣人たちだがアルゼンから放たれる覇気はどう見てもただ者でない事が分かる。しかも、現在こうして洞窟から助け出されて体まで綺麗にしてもらえた。それらの事を総合して考えて少しずつ獣人たちもカナタたちへの警戒が薄れていっていた。


 王族が所有する高級馬車には空間魔法が付与されていて、見た目よりもかなりたくさんの人間や荷物を乗せることができる。今回はその仕様のおかげでこうして予想外に増えた獣人たちを乗せてもまだギリギリではあるがスペースに余裕がある。


 ここから獣王国まではまだ時間もかかる。肉体的には勿論だが盗賊に捕まって牢に入れられていたことによる精神的な疲労はかなり溜まっている筈だ。


 一緒に捕まっていた事で少なからず友情が芽生えている同族たちと共に、ゆっくりと流れていく外の景色を眺めながらの旅はそんな精神的疲労も癒してくれるだろう。


 「おいし~~~~!なにこれなにこれ!人族ってこんなに美味しいもの食べてるの?」


 洞窟から出て、馬車で数時間ほど移動したところで日が落ちて今日の移動はここまでとなった。洞窟に向かうために外れていた街道に戻って進んでいたが、野営のためにもう1度街道を外れた場所で準備を整える。


 そしてその日の晩御飯は獣人たちが大騒ぎだった。盗賊に捕まっている時には質素なご飯を1日1回という配分で与えられた。大人たちは少ない食事を少しでも腹が膨れるようにと子供たちに分けていたためにカナタたちが料理を始めていい香りが漂い始めると皆が尻尾を、それはもう左右に振りまくって待っていた。ただ、その輪の中に王族の兄弟が混ざっていたように見えたのは......内緒にしておこう。


 「ハッハッハッ!この料理の数々はカナタ君たち特製の品で私たちも今回の移動で初めて食べた。王族の私でもここまで美味い料理はそうはお目にかかれないよ。見たまえ、うちの腹ペコたちを。」


 「ほ、本当ですね。皆さん美味しそうに食べてます。じゃあこの美味しい料理はカナタさんたちと一緒に居るから食べられるわけですか。こんなにいろいろしていただいて、私たちはそのご恩を返せるのか心配になります。」


 「ハハッ。私も最近知ったのだが、カナタ君たちはそんな小さなことを気にするようなタマではないよ。それでも気が咎めるのなら君たちに無理のない範囲で返していけばいい。彼等の気も短くはないから長い目でみて関係を続けていけばいいさ。」


 「......ありがとうございます。少し考えてみようと思います。」


 カナタたちが自分たちに配慮してくれているのが分かるからこそ何も返せていない自分たちが今後どうしたらいいのか分からなくなる。今でも疑心はあるがそれでも最初の頃に比べればもはやそれは微々たるものだ。獣人たちのまとめ役に任命されたアリーシャは少しだけ胸の内にドロドロとしたものを感じるが美味しいご飯に手が止まることはなかったからまだ大丈夫だろう。


 「お兄ちゃん、お兄ちゃんこっちのは何?赤いよ?血なの?」


 「うん?それはオムライスだな。赤いのはトマトソースっていう......そうだな美味しいソースだよ。美味しくなかったかい?」


 「ううん、すっごくおいしいよ!私これ好き!ありがとうお兄ちゃん。」


 「お代わりもあるから食べたかったら言ってね。」


 「わーい。私ね私ね、本当に今幸せなの!美味しいものを食べられるし怖い大きな声もしない。みんなでじゅうおうこくのパパとママの所に行けるのもそう。だから、ありがとうねお兄ちゃん、お姉ちゃん。」


 「「「「......」」」」


 お礼を言われたカナタたちはあまりの可愛さに無言でルナールの頭を撫でる。こんな良い子が人間の欲のために捕まって怖い思いを強いられていたのだ。そう考えただけで盗賊たちから解放できたのは良かったと思える。


 ルナールはまだ幼いのにちゃんとお礼も言えるし、いい笑顔を振りまいて周りの雰囲気を明るくしてくれる。今回の一件は完全に偶然が重なって起った事だったが、終わってみればやはり助けに向かった判断は間違っていなかった。


 今回の報酬ともいえるルナールの笑顔を見ているとカナタたちの心にも少なからずは存在したイライラが浄化されていくようであった。


 向かう獣王国まではもう少し。今はこの幸せな一時を存分に満喫する一同であった。



読んでくださってありがとうございます。

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