終地で踏み切れる者こそ福音を聞く
カナタたちは洞窟内での盗賊団との戦闘も終了し、再度囚われている獣人たちに向き直る。洞窟内に轟音が響くほど戦闘は激しかったのだが、ノルンもフィルも大したダメージを負ってはいないので特にカナタたちは気にすることなく後ろにいる獣人たちに意識を向けることが出来た。
背後で庇われていた獣人たちはノルンとフィルVSカシミネとクリミガの戦いに全員が注目していて、その前にカナタに言われていた今後の事について思考が回っておらず話し合いはしていなかった。そして振り向いたカナタたちの視線で急激にそのことについて思い出した獣人たちは無意識に息を飲んで肩を縮こまらせていた。
「さて、”この子”たちの戦闘は今見てもらったとは思うけど改めて言っておくと、ここに居た盗賊団のメンバーたちはそこに転がっているリーダー格の人も含めて全員捕らえたと思う。もしかしたら何かしらの用事で外に出ていて俺達と遭遇していない人はいるのかもしれないけれど、まあそこまで俺達は全員の捕縛にこだわってはいないから気にしない方向で。大事なのはこれであなた方を縛る人間はいなくなったという事。そこでさっきの質問をもう1回しよう。俺たちはあなた方を助けに来た。この洞窟の外にはさらに俺達よりも国に対して”発言力”が強い人も待機している。そして俺たちはこの後”獣王国”に向かう予定だから何ならそこまで一緒に行くこともできる。さて、ここまで聞いてあなた達はどうしたい!?」
「......」
カナタの話は嘘偽りは1つも無いがそのことを獣人たちが知る事はできない。この場から出る勇気と自分たちを捕まえたのと同じ人族の言葉を今度は信じて行動しなければ証明できないことなのだ。そのことを理解して獣人たちは誰も声を発さずに考え込む。もしかしたら考えはもう既に固まっているが声に出して言ってしまうことが怖くてまだあと一歩踏み込めていないのかもしれない。
この場には小さな子もたくさんいる。いきなり捕らえられてこんな目に遭ったのだから怖い事なんて少し考えれば誰にでもわかるだろう。小さな子供が助けてもらえると分かれば普通ならもっと飛びついてくるものではないのか!?声を上げて喜ぶのではないのか!?だが子供たちは親と思われる人の腕の中でこっちをじっと見ているだけに留まっていた。
この場にどれだけの期間居たのかはカナタたちにはわからないが、それでも偶然とはいえここに来て手を差し伸べる事が出来たことに対してホッとしている気持ちはある。それでも最後に自分たちの未来を決めるのは自分の意志でなければならないと思うためこれ以上の譲歩はしなかった。
だが、痛いほどに静かなこの洞窟の中で最初に声を上げたのは意外な人物だった。
「お兄ちゃんたち、と、一緒に、行くっ!さっきは、酷い事を言って、ごめんなさい。私をパパと、ママの所に、連れて行ってください!」
そう1番に声を上げたのは子供たちの中でも唯一カナタたちに反論をしていた小さな女の子だった。見れば彼女は大人たちに守られるように真ん中の方に居るが同じ種族の、親と思われる人は周りには居なかった。おそらくさっきの発言から彼女だけが捕まったのだと想像できる。
この牢の中では同じ獣人ではあるがタヌキや犬、猫やウサギといった獣人のタイプというか種族は別々で統一性はなかった。同じ種族で集まってはいるがそれでも大きな括りで獣人として一致団結して小さな子を守ろうとしている姿を見れば彼らが子供を守ろうとしている事位すぐに分かった。
獣人たちは人族とは違い種としての同族との”繋がり”というか、”仲間意識”が強いように思える。それでもやはりこの小さな女の子は両親の元に早く戻りたかったのだろう。最初にカナタたちを疑い、警戒していたのは最初の捕まった経験からもう2度と同じミスはしないようにと考えて、そして口に出したのは周りに居る同族たちにも警戒を強めてもらうために。見たところまだ5、6歳くらいにしか見えない女の子が勇気を振り絞って行動していたのだ。
そして今回はカナタたちの戦闘能力を見て、そして自分たちを捕まえた奴らを倒してくれたことも確認した上でもう1回自分に道を、両親の元に戻れる可能性を示してくれたのだから幼い少女の自意識では我慢する事ができなかった。
両目に一杯の涙を溜め...もう涙腺は決壊しながらも体を左右に揺らして泣いてしまっているからつっかえつっかえではあるが力いっぱいに叫んでいた。カナタたちにはその声の大きさが彼女の訴える意思だと感じて、そして流れ落ちる涙が彼女の受けた苦痛に比例していると勝手に心情を慮って少しでも安心させられるようにと大きく頷いた。
「勿論だ!外に馬車もあるからゆっくり休むと良い。まだここから獣王国までは距離があるからすぐにとは言えないけど君を両親の元に送り届けることは約束するよ!」
「まかせて!」
牢の鍵は既に開かれている。出てくる意志さえあればいつでも外に出る事はできるようになっていた。トラ柄の尻尾と耳を持った少女は勢いよく扉を開けて出てきた。少し勢いが付きすぎて前方に転びそうになったところをノルンの頭の上に置かれていた手を放してカナタが支えた。カナタとアリスが即座に肯定したことに少女も気持ちが先行してしまったのだろう。
1人が出てしまえばその後は決壊したダムから水が流れ出る様に次々に自分も自分もと牢から人が出てくる。まだ全員が完全に警戒を解いたわけではなく、むしろ子供たち以外の面々はまだ全員がカナタたちを疑いながらも今の状況で置き去りにされるよりは希望がある方に縋る気持ちで牢を出てきた感じだ。
「大丈夫か?そんなに慌てなくてもゆっくりでいいぞ。」
「今はこの辺りに敵はいない。緊張もしなくていい。」
「私はアスカです。このお2人は意外に優しいので安心していいですよ。」
だが疑惑の目線を浴びているカナタたちはそんなことなど気にした風でもなく少女の世話を焼きながら話をしていた。正直な話この状況下ですら自分の意志を見せられずに前に出る決意のない者にカナタたちは興味がない。脳死で「助けに来た」、「じゃあお願いします」という人は別だが、ちゃんと考えて勇気を振り絞って1歩前に踏み出した少女の気持ちが理解できない者などカナタたちパーティーの中には居ない。支えていた腕からちゃんと立たせてあげて声をかける。
中でも同じ獣人のアスカは少女の不安を少しでも減らせるようにと目線を少女に合わせながら話をしている。
「ルナール、です。よ、よろしく、です。」
「おう。カナタだ。よろしくな。」
「アリス。よろしく。」
ルナールの正面にはアスカがいて、立ち上がらせたカナタは後ろで肩に手を乗せて気遣っていた。アリスはそんなカナタの隣にいる。そして自己紹介をしたルナールにカナタたちも名乗るのだがグリグリと2人は頭を撫でながら返事をしている。
「え、え?お、お願いしますぅ。」
そんな状況についていけないルナールはあたふたと手を振りながら困った様子全開で視線を彷徨わせていた。
そうこうしている間に牢に残っている人は誰もいなくなっていた。そして集団の中から1人、狐の耳と尻尾を生やした女性が前に出てきた。
「えっと、狐人族のアリーシャです。牢から助けていただいてありがとうございます。一応話し合いの結果私がここにいる獣人たちのまとめ役のような立場に臨時でではありますがなりましたので彼らに伝えたいことなどがあれば私に言ってください。」
黄色い耳に黄色い尻尾。彼女も立派なものをお持ちのようでカナタたちの視線は一瞬そちらに奪われるが何とか理性で押さえつけた。
だがカナタたちの手はルナールの頭から離れることはなく、下に居るルナールは「ふぇ~」と声にならない声を上げていたがそれに突っ込む者は残念ながら誰もいなかった。
「りょーかい。」
アリーシャはちゃんと名乗ったのにも拘らず目の前にいる2人に簡単に流されてしまったことに少し腹が立って表情に出てしまうが何とか話を続けた。
「それで、とりあえずはここから出ませんか?あまり自分たちが捕まっていた所に長居はしたくはないのですが。」
「ああ、そうだよね。でももうちょっと待ってください。一応この辺は安全だと思うんだけれど少し気がかりが出来たから今確認中なんだ。完全に安全が確認できたらここを出るのでもう少しお待ちください。」
カナタも全員がここから出る決意を固めたことで少し話し方が砕け始めている。そもそもカナタの話し方は相手への敬意から出る言葉遣いではなくて、相手との距離感で口調を決めている。地球に居た頃もそうだったが、ネメシアに来てからはより一層その傾向が強い。そもそもこの実力至上主義の世界では話し方なんて気にするのは貴族たちなど上流階級の人間か自分を大きく見せたい低ランクの冒険者たちくらいだ。
故にここに居る獣人の全員を無事に獣王国まで送り届けると決めたからにはどうでもいいことにこだわるのをやめたのだ。それに獣人たちに与える印象という意味でも全員が牢から出たことで取り繕う必要もなくなったというのも影響している。
「カナタ大丈夫そう。念のために全方位を視てみたけど特に何も見つからない。さらに言うならこの辺に私たち以外の人影すら見当たらなかった。」
「OK。みなさん、大丈夫そうなのでそろそろここを出ますよー!準備してください。」
アリスが視線を感じたことで一応それとなく周囲の警戒をしていたのだが、声をかけられたことで隠す必要もなくなったのでアリスがスキルで全方位を探った。
さっきの視線については結局分からず終いだったが安全も確認できたので皆を促してこの洞窟から出るために動き出した。カナタたちを警戒はしているが漸くこの囚われていた空間から出る事が出来、話の通りなら故郷に帰る事すら出来ることに獣人たちの顔は自然と笑顔が零れているのだった。
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