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誰が為に  作者: 白亜タタラ
世界の常識と陰謀編
106/108

対人戦闘

 盗賊団"高狼のねぐら"のリーダーであるカシミネとその弟のクリミガがノルンとフィルに相対する。ノルンとカシミネは機動力と破壊力を存分に活かしたド派手な戦いを繰り広げていた。


 ノルンの爪とカシミネのバスターソードが両者の間合いでぶつかり合いながら激しい衝突音と衝撃波を辺りに撒き散らす。カシミネは一撃必殺の構えで、ノルンに重たい攻撃を繰り出す。ノルンはその攻撃を紙一重で躱してカウンターとばかりに鋭い爪を振るう。

 カシミネもノルンのスピードにはついていけるため、そしてノルンの狙いは自身の攻撃に合わせたカウンターだとヤマを張っていたために、繰り出した剣に手応えがないと感じた瞬間から体を僅かに引いていた。


 そのおかげでスピードの上ではどう足掻いても勝てないカシミネも、何とかノルンの攻撃を躱して打ち合うことができた。


 しかし、それで終わらせるほどノルンの攻撃は甘くない。攻撃を躱されたとみるや前足を振るった勢いをそのままに、前方に1回転をして尻尾をカシミネに向けて叩きつけた。先の爪攻撃をギリギリで躱していたカシミネだが、それは文字通りギリギリの状態であり、後ろに体を引いた分だけバランスを崩していたカシミネにはノルンの追撃に対応できるだけの余裕はなかった。


 「クッ......!」


 ノルンの攻撃はたとえ尻尾といえどもそれなりの破壊力を秘めていた。普段はモフモフでカナタやアリスがノルンに凭れ掛かってのんびりしているときに、かけ布団ならぬかけ尻尾として素晴らしい触り心地を誇るのだが、こと戦闘となれば魔力を纏ってその体毛は超硬質化する。


 尻尾による攻撃で吹き飛ばされ、地面を数回転がったカシミネはそのまま洞窟の壁に激突して止まった。

 だが、運が良いことにカシミネのバスターソードによる攻撃にノルンがカウンターを合わせたことで始まった一連の攻防だった事もあり、尻尾と体の間にバスターソードを割り込ませることがなんとか間に合っていた。


 「カシミネとか名乗った男の方は"全身筋肉"さんの癖にかなり反応がいいな。いや、戦い方が上手いのか?」


 「自分で攻撃するときも防御する時もよく周りを見ている。今のだってノルンが反応したことに気づいて体を引いて備えていたし、ノルンの奇襲にも対応してみせた。それなのに万全じゃない状態の一撃でも超高火力の攻撃を繰り出しているんだから筋肉さんの筋肉は優秀。」


 「なるほどな。ちなみに彼のステータスは如何程で?」


 「うん?見ている戦闘からは想像もできないくらいにレベルは低いよ。37だってさ。ノルンたちと比較しても半分に満たないレベルでしかないけど案外いい戦いになっている。完璧に私たちの対人戦の経験不足が如実に出た結果と言える、かな。」


 「まあ、それはおいおい訓練していけばいいさ。ノルンにしても初撃を防がれた段階ですぐに決めるんじゃなしに作戦を変えて上手く見て(・・)学習しているみたいだしな。」


 カナタが言ったとおり、ノルンは初撃以降はカシミネが行っている戦闘の攻防における各パターンの学習に時間を割いている。当然1撃1撃がもろにヒットすれば確実に戦闘不能に出来る攻撃。だが、それ以上に戦闘経験を増すためにあらゆる攻撃パターンを繰り出すことでカシミネがとる反応を見て糧にしていたのだ。


 「とは言ってもノルンの方はもうすぐ終わりそうね。ガードしたとはいえ尻尾に当たったのが大きい。もうダメージの影響で万全の時のような反応はできていないからじきに抑え込める。」


 「ですね。私は皆さんと違って回復能力が無いのでいい教訓です。筋肉先生の尊い犠牲により私の成長につながりました。」


 「いやいや、殺さないから。何のためにノルンたちが火力面で手加減してると思ってんの!ちゃんと捕縛するんだよ!?......さ、さて、フィルの方はどうかな?」



 ノルン同様にフィルもクリミガをジワジワと押し始めていた。こちらは戦闘技術というよりスペック差がそのまま戦闘に現れていた。クリミガは兄とは違い筋肉はさほどではない。最初の攻撃で分かるようにクリミガはパワーで押すというより暗殺(・・)に特化している。両手から繰り出される、緩急と上下左右の多方面から囲むように攻め立てるナイフ捌きはまさに”変幻自在”と表していい華麗なものだった。右から左、左から右。右かと思わせて左、更には連撃といった相手の逃げ場を潰すように攻めてくるのがクリミガの戦い方だった。そしてその攻撃は何度もフィルを捉えていた(・・・・・)。いや、正確には幻術によって作り出した幻のフィルをである。


 暗殺術を得意とするクリミガは正面を切っての戦闘は不得手だ。その中でも高い奇襲成功率を誇る初撃は安全策を打っていたフィルに対処されてしまった。その後は何時幻覚に切り替わったのかさえも掴ませないフィルの技術にいいように動かされている。だが敵もさるもの、間一髪のところで薄皮一枚躱していた。フィルもノルン同様に多少は1撃に込める殺意を減らしているが、それでも未だに耐えているクリミガはなかなかの戦闘能力を有していると言えるだろう。


 だがここまででお気づきかも知れないが、ノルンとフィルは肉弾戦しかしていない。フィルは幻術は用いているとはいえ、術師タイプなのにも関わらず攻撃には一切魔法を用いていなかった。

 

 ノルンとフィルは今回の戦闘を踏まえて自身の欠点ないしは弱点を自覚できたことで、さらなる成長に繋げる立ち回りを模索していた。


 「いや~本当に厄介っすね!俺の攻撃が意味をなさない相手なんて初めてっすよ。兄貴の方も苦戦している上にまだ戦闘に参加していないのが3人もいやがるし......これはちょっと拙いっすね。」


 「キッュュゥゥイイイ!」


 フィルが今行っている攻撃は、その小さな体を打ち出すようにして突っ込む鋭く速い突進とクリミガの攻撃に合わせたカウンターであった。クリミガもナイフをうまく使って死角を突いての攻撃や投擲からの接近戦、さらには魔法を用いているのであろう攻撃もつい先ほどから使用し始めていた。


 クリミガは少し前からナイフに紫色の靄のようなものが絡まり、見ただけで呪われそうな、ヤバい雰囲気を纏ったナイフで切り掛かっている。


 「闇属性の魔法ね。見た目ほど禍々しくはないよ。一定確率で切り付けた対象に暗闇・睡眠・抵抗力の低下・速力の低下・盲目・毒の状態異常付与の何れかを与えるもので、フィルでも何度も(・・・)喰らえば流石に不利になりそう。」


 「そうは言うが、フィルはまだ1度もヒットを許してないけどな。フィルがうまく立ち回っているよ。それでも相手の攻撃は速くて鋭い上に上手くフィルの隙を作りだして攻撃をしてくるあたりなかなかの練度のように見える。しかもその1撃1撃が全て急所を的確に狙っているのが恐ろしいな。」


 「ナイフ捌きも絶妙ですよ。おそらく長い年月をかけて習得したんだと思いますが、相対しているのにああも虚をつく攻撃を行えるのは理解が出来ません。単純にステータスに差があってそれを行うのであれば分かるのですが、あの方は"技術"でそれを行っている。目線や呼吸、それに魔圧までもを駆使して相手をうまく誘っている......勉強になりますね。」


 カナタたちもノルンやフィルの戦いを見ながら戦闘の流れや動きを見て自分の物にしようとお互いに思ったことを口に出す。ただの盗賊退治であっても学びはあり、ただぼーっと眺めているというのは勿体ない。


 それに今までカナタたちはダンジョンの中で数多くの魔物とは戦ってきたが対人戦闘、つまり攻撃の読み合いや駆け引きを必要とする戦いは経験が圧倒的に不足している。それを補うという意味では今回の盗賊との遭遇はなかなかに有意義であった。勿論捕まっている獣人たちからしたら、そんなことより早く助けてくれと思うのだろうが。


 先に戦闘を終えたのはノルンの方だった。やはり受けたダメージが重く、剣を盾にして受けるダメージを散らしたとはいっても、体に残ったのはそれでも無視できないレベルのものであった。剣速に体捌きまでもが鈍ればその分ノルンが有利になってカシミネを攻め立てる時間が増えた。その後はもう一方的に追い詰められるしかなかった。


 そんな兄貴から数分後に弟のクリミガもフィルによって倒された。こちらは持っていた全てのナイフを消費させられ、さらに四肢を1本ずつ潰して行動不能にした。しかし、クリミガの最後の奥の手は口に仕込んだ針であった。

 動けなくなったと思い込んでまんまと油断したフィルに向かって最速の1撃を放った。起死回生、最後の悪足掻きは残念ながらフィルの尻尾に叩き落とされてあえなく終わった。クリミガには油断していたように見えたのかも知れないが、その実フィルは戦闘態勢を解いてはいなかったのだ。


 「お疲れノルン、フィル。動きも良いし、対人戦も良い経験になったな。っと、盗賊たちも全員捕まえ終わったしそろそろ戻ろうか。歩きながらでも話せるし初対人戦の感想もあとで教えてくれ。」


 「そう、ッ!?」


 (神眼発動!......気のせい?)


 突如勢いよく振り返ったアリスは即座に神眼スキルを発動した。視ていたのは今いる洞窟の壁を超えた遥か先、詳しくは分からないが視線(・・)を感じたような気がしたのだ。


 アリス自身も目を使ったスキルの所持者だけにそういった感覚には敏感なのか、カナタやノルンたちが気づかない気配を感じた気がした。


 アリスが突如スキルを使った事を察したカナタ、ノルン、フィルはすぐにアリスを囲み戦闘態勢を整える。つい数瞬前にはカシミネとクリミガを倒したことを褒めてもらおうと尻尾フリフリで近づいていた2匹も、そしてそんな2匹を撫でまわそうと考えていたカナタも凄い変わり身だった。一言も発さずにアリスの変化を察して体勢を整える。完璧と言っていい連携であった。


 最近共に行動するようになったアスカには、まだその域の行動はできなかった。それでもカナタたちに少し遅れてナイフを構え周囲を油断なく警戒できるほどに成長している。


 むしろアスカが鍛えた期間を考えれば上出来と言えよう。


 「ごめん。何かに見られていたような気がしたんだけど見つけられなかった。...気のせい、だったのかな?」


 「いや、アリスが感じたなら何か居たんだろう。少し気になるけど見つからないならしょうがないよ。気を取り直して、捕まっている獣人たちの意思(・・)を聞いてここを出よう。」


 カナタたちは結構派手な戦闘が繰り広げられていたにも関わらず、そう傷ついていない洞窟の行き止まりエリア、獣人たちが捕らえられている方に向き直って戦う前に与えていた2択の答えを聞くのだった。


◇◆◇◆


 「いや~アブナイアブナイ!洞窟の中に居て戦闘をしていたにも関わらず、私の視線に気づくなんてどうかしていますよね~。ギリギリで”インビジブル”が間に合ったから何とか誤魔化せましたが......暫くは近づくのはやめておきましょう。」


 カナタたちがいる洞窟から遥か後方、数キロは離れた木陰で呟かれた言葉は誰の耳に入ることも無くその声の主と共に消えていくのだった。



読んでくださってありがとうございます。

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