盗賊の兄弟
獣人たちが捕らえられていた牢があったのは洞窟の遥か奥に位置する行き止まりの場所だった。牢に入れられていた獣人たちは少なくはないのだが、まだまだ牢には捕らえた人間を収容する余裕があって今の倍くらいの数が入る。つまりそれほどの牢があるこの場所は多少の戦闘が行えるくらいには広いのだが、その大部分を牢が占めているので言っても満足に戦闘を行えるとは言い難い。
「シッ!」
「「!」」
「ぐるるぅ!」
「きゅ~う!」
カナタたちはこのエリアに次々雪崩込んでくる盗賊たちを片っ端から無力化していく。カナタは手刀や蹴りで、アリスとアスカは軽い当身と掌底でノルンとフィルは軽く前足を振るってはハエ叩きの要領で盗賊たちを薙ぎ払う。一撃で無力化し次の相手に向かう様は流れるようであり、舞闘ならぬ舞踏のようで制圧までにそう時間はかからなかった。入り口も狭く後ろには牢があって1人もそちらに通すことはないので順番に入ってきた者を倒す簡単なお仕事だった。
「す、すごいっ......!」
「なにをしたの?全然分からなかったぁ。」
「多数の盗賊を相手にケガも負わないなんて......」
「俺たち獣人のような身体能力をもたない人種があんな動きをするとは。」
カナタたちのせんと......一方的な蹂躙を見て後ろの方がさらに騒がしくなる。
「それで?数を揃えても無駄だと分かったかな?お2人さん。」
盗賊の後続が途絶えて一先ず戦闘は一方的な蹂躙で方がついた。一区切りついたところでカナタは誰もいない入り口に向かって声をかける。
「気配を消しているようだけど、その程度の隠形じゃあ私たちには無意味。時間の無駄。」
「......いや~おっかないねぇ~。兄貴、どうやらこいつらは本物のようだ。おそらくザックの兄貴もこいつらにやられたんじゃねぇ~かな?」
「確かに、小手調べに当たらせた手下どもはあっさり返り討ちになったし、この狭い空間で後ろに売り物どもを庇ってなお一方的だったからな。ザックをやったのがこいつらならここに来た理由も何となく見当がつく。」
「そっすね。ザックの兄貴は帳簿係もやっていたし、それ見てここまでってことっすか......でもこの場所を兄貴が吐くとは思えないんすけどねぇ~。」
入り口の影からニュッと姿を現したのは2人の男だった。ザック同様にこの2人はちゃんとした装備をしている。さらにその話からこいつらが兄弟的な繋がりがあることも見当をつけた。ただこの手の輩は目上の者を兄貴と呼ぶこともあるので絶対とは言えないが。
「まあいいじゃねぇか。こうして雁首を揃えてここに乗り込んできているみたいだし、殺っちまえばまたこの場所を知るやつはいなくなるってもんだ。まだまだ稼いでこれからもいい目を見ねぇとつまんねぇもんなぁ!?」
「そっすね。手下なんて時間が経てばまたいくらでも用意できる。俺たちがこいつらを殺っちまえばザックの兄貴を加えてまた元通りっす。」
「”高狼のねぐら”リーダのカシミネだ。俺たちの組織に首を突っ込んだ自分の選択を呪いながら逝きなッ!」
「カシミネとザックの弟のクリミガっす。俺は兄貴たちほどの腕は無いっすけど......とらせてもらうっす。」
カシミネは身長2メートルほどの大男だ。その肉体はまさに鋼と表してもいいほどに鍛え抜かれた筋肉の鎧をまとっている。こう言っては失礼かもしれないが、ゴブリンやオークなどの筋肉質な魔物にも引けを取らないほど、カシミネはその身長も相まってかなりの迫力がある。そして狂暴そうなその顔も髪一本もないスキンヘッドの頭もカシミネの迫力に拍車をかけていた。武器は巨大な剣。所謂バスターソードと言われるものを軽々と片手で持ちカナタたちにその切先を向けている。
クリミガはカシミネとは対照的に細くしなやかな体つきをした男だ。その口調もあり三下のモブのような印象をカナタに与えた。身長は170センチほどで一見するとヒョロ長に見えて強そうには見えないのだが、彼から放たれる圧力は常人のそれではない。顔つきも髪型もそしてプレッシャーはともかくクリミガの外見から感じるのは、どこにでもいる人間のようなという良くも悪くも特徴のない印象だ。
その両手には2本のナイフが握られている。戦い方はアスカに近いのかもしれない。
「えっと......もしかして戦う時にはお互い名乗りを上げるのが一般的なのか?」
「まあな。これから戦って、下手すりゃあそのままポックリ死んじまうかもしれねぇんだ。最後の相手の名前くらい胸に刻んで逝きてぇじゃねぇか。古い言い伝えでこの形がずっと取られているらしいぜ?」
「そんなことも知らない常識知らずっすか?戦闘を生業にする者がこの常識を知らないなんて初めての事っす。」
「それはなんというか......お恥ずかしい。と、じゃあこちらも」
「グル!」
「うん?ノルンがやるのかい?」
「コン!」
「え...フィルもなの?」
「あーこっちはノルンと」
「フィルが戦うことになった。よろしく。」
ノルンとフィルは胸を張りとても偉そうにしていた。その顔もなんだかカッコつけているようにも見える。こういう所もカナタたちの影響ですっかりお調子者の影が見え隠れするようになってしまった。
1歩前に出たノルンとフィルがそれぞれカシミネとクリミガに相対すると抑えていた魔圧を解き放つ。
「......ッ!これは、ただの従魔じゃあねえな。最初から本気でいくぜぇ!」
「あ~怖い、怖いっすねぇ~。そんなに魔圧を振り撒かなくても俺みたいなザコの対処なんて簡単だろうに~っと。」
イノシシのように鋭い踏み込みから一直線に向かって来るカシミネは、この狭い空間も相まってあっという間にノルンの元に辿り着き、一歩手前の位置でバスターソードを後ろに振りかぶった。
強力な踏み込みだしとてつもないスピードだったがノルンの目にはそのすべてが見えていた。そして武器を引くその行動は確実な隙であり、ノルンは躊躇なく攻撃に転じる。さっきまでの盗賊たちに振るっていたよりも鋭く、そして力強い前足の一撃はカシミネのがら空きの腹部に吸い込まれていく。
「ウラアアアアアア!」
だが、その鍛え抜かれた腕力と腰のひねりを加えて前方への推進力を生みだしながら始動したバスターソードはノルンの予想よりも早く振り抜かれた。
「ガアアァァアア!」
間一髪で危険を察知し、攻撃の手を戻して剣の下を潜り抜けて躱したノルンは後方に跳んで少し距離を取った。さっきまでの盗賊との戦闘から、目の前にいるカシミネも他とそう変わらないと彼の力量を侮っていたノルンは自身の考えを改める。1度の攻防の中でその力量の高さを認識したノルンは先ほどよりも全身の筋力を膨張させて行動する。
「「......!」」
ノルンとカシミネによる派手な攻防とは対照的にフィルとクリミガの戦いは静かに、そして激しくもひっそりと殺りあっていた。
「いや~当たらないっすねぇ~。シッ!......俺はこと戦闘においてはザコ中のザコっすけど、初手を防がれたのは久しぶりっすよ!?」
「キュャァァァァァン!」
フィルもクリミガの実力を侮っていた。クリミガの初手は完全な"不意打ち"だった。相対しているのに起った不意打ち。それは特別なスキルによるものではなく、クリミガの純粋な戦闘技術によって繰り出された攻撃であった。
呼吸、目線の誘導、更に体の動かし方から重心位置のフェイントまであらゆる技術から作り出したわずかな隙。いや、それは隙とも呼べないような、一瞬意識がクリミガから薄れたというレベルの隙をミスディレクションをも用いて自身の存在を一瞬消すと錯覚するレベルにまで引き上げてみせたのだ。
だがフィルもその能力は並ではないし、これまでの戦闘経験から安全マージンはしっかりと取っている。フィルは常時自分の少し前方に幻術て自分の虚像を作っている。そして自分の事は可能な限り感知されないように隠している。カナタたちはこの幻術の効果から外れているため違和感なく暮らしているが、それ以外の人間、それこそこういった不意打ちにはめっぽう強く相性が良かった。
その後はお互いに肉弾戦をして攻防を繰り返す。だがそれは激しい打ち合いではなく、相手の虚をいかについて仕留めるかという言うなれば詰将棋に近い頭脳と肉体技術を駆使した戦いを繰り広げていた。
そんな2箇所で起こる戦闘を見ながらカナタとアリスは満足げに自分たちの召喚獣たちを眺めるのであった。
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