信用と不安の天秤
ノルンの索敵能力はかなり高精度だ。幻獣種の"フェンリル"なのだから、その嗅覚や聴覚はかなり遠いところの情報も拾うことが出来る。その上今回は、駆けるスピードに制限をほとんどつけなかったことでノルンは足を活かして短時間で索敵を終わらせることが出来た。
「おかえりノルン。早速で悪いけど案内してくれるかい?」
ノルンはカナタの言葉にすぐに反応して案内を始める。今回は捕まっている人間がいる可能性が高いためアルゼンたちも馬車に乗って一緒に向かう。
ノルンが戻ってくるまでに1時間近くかかったこともあり、アジトの場所はそれなりに距離があるようなので、下手にアルゼンたちと別行動するのは得策では無いと考えた。アジトにどれだけの残党が残っているか分からないので万が一に備えてゆっくりと慎重に進むことにする。
「ガルッ!!」
大体30分ほど進んだ所でノルンが声を殺しながらも少し鳴いて合図を送った。ノルンが見つけたアジトが近いのだろうと察して全員が今まで以上に息を殺して進んでいく。
そこからさらに数分ほど進んだ所で、小さな洞窟が見えて来た。街道を外れているため人の手が入った形跡もなく、その分だけ自然が増えて見通しが悪くなっていた。
確かに盗賊が隠れるにはもってこいの場所だろう。
「今回も俺たちが制圧してきますので、国王様たちはここで隠れていてください。もし本当に囚われている人が見つかった場合は、打ち合わせ通りにこの場所まで迎えにくるので話を通してください。俺たちが話すより皆さんに任せた方が説得力も知名度的にも相手に伝わりやすいと思いますから。」
囚われている人に声をかけるなら見た目子供のカナタたちより、身元がしっかりしていて、なおかつ国王という最高権力者の方が安心できるだろうという、なんとも合理的な配慮だった。
「念のためにヤクモはここで国王様たちを護衛していてくれ。外に出ている奴らと運悪く鉢合わせたら最悪だからな。」
「了解した!儂が責任を持って守ろうぞ!」
こと守りに関してはカナタたちのメンバーの中でヤクモが1番の適任だ。人化しているとはいえ龍の皮膚はそう簡単には傷付かず、近距離戦闘も遠距離戦闘も両方をこなせるバランスの良さはこういった場面ではかなり心強い。
カナタは一通りここにいるメンバーの顔を見渡していく。カナタの確認の意味を込めた視線に気づいた面々も目が合うと1度頷いて返事とした。
「じゃあ、行こうか。」
気負いはない。ただただいつものように自然体で起こる事象に対応する。アリスもアスカも同様だ。ノルンを先頭に、カナタ、アリス、アスカと続き、最後尾はフィルが行く。
「アリス頼む!」
「その風は幻惑を纏いて対象を眠りに落とす。"スリープ"」
盗賊のアジトだとノルンが示した洞窟には2人の男がその入り口に座って談笑していた。おそらく門番であり見張り役なのだろうが、その実かなり無警戒だし話に夢中で周囲の状況を捉えてすらいない。そんな2人はアリスの魔法であっさり眠りに落ちた。
見張りを無力化したカナタたちはアイコンタクトをかわして洞窟内に足を踏み入れた。
外からだとそう大きくはない入り口に見えたのだが、中に入ってみると人が2人ほど並んで進めるくらいには余裕があった。洞窟の中は所々に光を発する石?が埋め込まれていて光源はあった。しかし、それでも石と石の間は暗いところもあるし、その石は壁の上の方に埋まっているため足元は自分が光を遮ってしまうためさらに見にくくなっていた。
だが、カナタたちは暗視スキルなどの視界を確保する術があるし、ノルンとフィルは元々夜目が利くため全く苦にならない。
見るからに自分たちで掘り進めて拡張した跡があり、少し歩きにくいところもあるが、なかなか広いというか、先が長い作りになっていた。途中で道が分かれていて初見では確実に迷うだろうと思えるくらいに分かれ道が沢山あった。今回の目的としては囚われている人の確保が最優先のため、鍵と対になる牢に狙いを定めて歩いていく。
ノルンが分かれ道を見つける度に匂いを辿って道を示してくれる。だが、匂いを辿れるということは囚われている人がいる可能性が高いという事。最善は牢に誰も囚われてなどいなくて、苦しんでいる人も実はいなかったとなって欲しかった。
しかしこうなったからには次善で早く救い出してあげたい。
ガタッ
「だ、誰ですか!?」
牢に繋がる最短の正解ルートのみを通って辿り着いたのは行き止まりの空間だった。盗賊団のアジトとしては捕らえた人間たちを入れておく牢がある部屋だ。
カナタたちは扉のつもりで置かれているであろう大きな岩を退かして中に入る。しかし、岩を退かすとなると多少は物音もしてしまい中にいた人から誰何されてしまった。
カナタたちにはこの明かりの全く無い暗闇の中でもちゃんと見えているが、捕まっている人間は流石に見えていないようだ。捕まっている者同士で肩を抱き合いながら的外れな方向を見渡している。
「"ライト"...あっ」
「「「「うぁあああああああああ」」」」
「「「ぎゃぁあああっ」」」
アリスが光魔法で光の玉を生み出して辺りを明るく照らした。この場所は光を灯す石が埋め込まれていなくて真っ暗だったので突然の光に暫しの間目がくらんでしまう者が続出してしまったが、助け出すことと引き換えに大目に見てもらいたい。
「えーっと、眩しくしてしまったのはすみません、謝ります。ただ、そんなに怯えなくても大丈夫ですよ?俺たちはあなた方を助けに来ました。この洞窟の外では他にも仲間がいて救出の準備はできています。」
「人族の言うことなど信じられません!現にこうして私たちを捕らえているのは人族の男たちです!それに、そこにいる私たちの同胞も”奴隷の首輪”をしているじゃないですか!同胞を奴隷として扱うような人間の言うことなんてなおさら聞くつもりはありません!」
盗賊団に捕らえられて牢に入れられていたのは全員獣人であり、女子供だけで男と呼べる人はいなかった。狐耳に犬耳、猫耳に兎耳などなど形は違えどみんなモフモフで、カナタはそちらに目線が吸い寄せられそうになるのを必死で堪えた。だが、アスカのことを持ち出されたのは拙くもあり好都合でもあった。
「皆さん!......私は確かに奴隷の立場にいますが、それは自ら望んだこと。少し前にとある貴族の屋敷で皆さんと同じように私は奴隷として捕らえられていました。そんな私を救ってくれたのがここにいるカナタさんたちです。私はその御恩を少しでも返そうと思って今の立場に望んでいるのです。人族に捕まって恐ろしく、人族全てが敵に見えるのかもしれませんがカナタさんたちは大丈夫です!」
アスカの訴えは捕まっている獣人からすれば衝撃的だった。自分たちは盗賊に捕まった訳だが、貴族に奴隷として捕まっていたとなると話は変わる。盗賊は自分たちを売るためにある程度加減をして死なないようにするが、貴族は奴隷を消耗品程度にしか考えていない。そんな認識があったことでアスカは牢の中の獣人たちから哀れみの目で見られる。
「そんなことを言ってそいつらとその貴族が裏で繋がっていたかもしれないでしょ!あなたは騙されているのよ。その男だって体よくあなたを飼っているだけなのよ!」
「そうだそうだ!人間種なんてみんな狡猾で狡賢いんだ。騙されないぞ!」
「お姉ちゃんは奴隷だからそう話すように言われてるんでしょ?私も騙されない!」
だが、アスカの訴えも全員に響いたわけではない。中には目にいっぱいの涙を溜めながら力一杯拒絶する女の子もいた。
パアァァァァァァアアアアン!
「はいはい、みんなしてこれだけ騒いでいたら盗賊に気づかれちゃうのも無理はないよな。」
カナタは手を打ち付けて皆んなの視線を集めた。カナタが言うようにこの部屋の外も少し騒がしくなってきた。これだけ捕まっている獣人たちが叫んでいれば当然とも言える。
「まあ、これはここを出てから伝えるつもりだったんだが、外にいるのはセナント王国の国王様および国の重鎮たちだ。そして、それすらも信じられない君たちに提示するのは俺たちのこれから向かう先は獣王国だということだ。なんなら獣王国の王様に君たちを預ける交渉もしよう。そしてこれ以上の譲歩はしない。確かに俺たちはここに囚われている人がいると知ったからこうして来た訳だが、なんの接点もない君たちがこれ以上我儘を言うなら助けない選択肢をとらせてもらうよ。」
「私たちは聖人君子じゃない。あなたたちを助けに来たのは見て見ぬ振りをするのが嫌だったから。でも、こうして助かる道を提示されても拒むのならそれはもう私たちの知るところではないわ。」
カナタたちは囚われている人がいるかもしれないと知ったからこうして足を運んだ。これは人助けが美徳だからとか国王たちに自分たちのことを良いように印象付けようだとか、ましてや人助けする俺かっこいいとか思ってした行動ではない。
ただ単にこれから先に進むにつれてふと、今回のことを思い出して後悔しない選択をしただけであり、もう道は示したのだからこの後で彼女たちが自分の意思で残ると言うのならばそれはそれで構わない。そういう思考こそが原種たる非常さを生んでいるのかもしれない。
「とりあえず、こいつらを倒し終わるまでに決めてくれ。何をどう選ぼうが君たちの選択に任せるよ。」
敵の本拠地で無用心にも騒いでいたことでアジトに残っていた盗賊たちが駆けつけてきた。この狭い洞窟内で盗賊団との戦いが再び始まるのだった。
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