奥の手のお披露目
最近評価をしてくださる方が増えていて、それに気づくと気持ち悪くニヤニヤしている自分が気持ち悪い白亜です。
普段あんまり前書きには書き込まないんですが、それでも本当に励みになっていて頑張れているという事を伝えたくてここに書いてます。
本当にありがとう、そしてこれからもよろしくお願いします。
盗賊団のメンバーを一通り片付けたら仲間を呼ぶ魔道具によって新たな敵が現れた。ザックは強者と戦えることが本当に嬉しいのか獰猛な笑顔を振りまいている。身長180センチを超える筋骨隆々の大男が振りまく笑みは、それはもう一般人からしたら恐怖でしかない。
だが、相対するアスカは気にした様子もなくザックの前で戦闘態勢をとる。未だその手には武器を持っていないがアスカの表情には余裕があるように見える。
「俺を相手に武器を待たねぇのか!?それとも獣人ってやつは己の肉体が武器みたいなもんなのかねぇ?まあ、どっちみちヤりゃーわかるぜ!」
言葉の途中でザックは一瞬脱力をし、次の瞬間には勢いよく地面を蹴ってアスカに向かっていく。一瞬脱力をしたことで体の無駄な力は抜け、美しい軌道を描きながらアスカにハンマーが迫った。
アスカの動体視力にはザックの攻撃モーションも見えていたので難なく躱せる攻撃ではあった。だが、ザックが初手で放ったのは、頭上からの弧を描いた振り下ろしであり、ギリギリで躱して反撃をしようと一瞬考えたアスカは、次の瞬間に即座にその考えを捨てる。ザックの振り下ろしたハンマーは轟音を響かせながら粉塵を巻き上げ、その威力はぶつかった地面に小さなクレーターを作る程だった。
「......馬鹿力。」
地形を考えて反撃をあきらめて大きめに躱したアスカは、バックステップで距離を取り、少し離れたところからザックの攻撃力を目の当たりにした。流石のアスカもあの衝撃と巻き上げられた粉塵、更にハンマーと地面がぶつかった時に生じた爆風を至近距離で受けていたら大きな隙を生んでいたことだろう。
一方、その震源地ともいうべきクレーターの中心にいるザックにはダメージは無いようだ。どうやらザックの戦い方は純粋に力任せを主体にした戦闘スタイルになっている。
「おうおうおう、うまく避けたな。だが、いつまでもつかなぁ!」
再度突進してくるザックに対して、今度はアスカも待ちではなく攻めに転じた。
お互いが身体強化の魔法を自身に掛けて肉体能力を盛っている。
そのため2人の戦闘スピードはかなり速い。ザックも太っているというわけではないが、明らかに重量級の見た目であり、肉の鎧に身を包んでいる割には身軽に戦っていた。ザックの攻撃はどれも一撃必殺の威力を有していて、アスカは一撃躱す毎に集中力と精神力を大きく消耗させられている。
ザックの攻撃の厄介なところは、威力が高すぎて躱したはずの攻撃が辺りを巻き込んで攻撃範囲を拡張してくるところで、アスカもその間合いの見極めに細心の注意を払っている。
「シッ!」
そしてアスカもやられっぱなしではない。振りの大きなザックは前後左右に上手く躱しているアスカを未だ捉えられないが、アスカはいつの間にかその手に握っていたナイフを使ってザックに細かな切り傷を与えていた。
アスカは別に酔狂で武器を持っていなかったわけではなく、ただ単純にその必要が無かったから使わなかっただけだ。さらに言うなら、アスカは自分の武器は見せない方が強いと思っているため、基本的に隠しながら戦い奇襲のような形で武器を使おうと心掛けている。
ザックの戦闘は大味に見えるがその戦闘技術に関してはかなり経験豊富のようだ。攻撃のパターンも何種類もあり、攻撃の合間の時間を削って連撃にしてきたり、遠心力を使って柄の部分まで武器として活用してきたりとアスカも初見ではナイフで何とかガードが間に合って命拾いした攻撃が何度もある。ひとえに獣人の動体視力の良さと肉体のスペックが優れていたことで戦闘を続けられているに過ぎない。それ程にザックは戦闘能力が高かった。
「チッ!ちょこまかと!」
だがザックは今の状況に少し焦りを感じ始めていた。戦うことは好きだが、負けてしまえば何も残らないのはちゃんと理解している。
アスカはここまでの戦闘で一切ダメージを受けていないのに対して、自分は浅いながらも何度も攻撃を当てられている。
しかも、戦いが長引くにつれて攻撃のパターンを読まれ始めたのか、重攻撃に重きを置いたザックの攻撃の中でも、特に攻撃力に特化した"打ち下ろし"を出した後は、アスカがその隙を確実に突いてくる。
手に握ったナイフを攻撃直後の隙目掛けて投擲してくるのだ。しかも投げた後も何事もなかったかのようにまたナイフがその手に握られていた時は「何のトリックだ!」と思ったほどであった。
まあ、種明かしをするなら、手に持ったナイフを投げる動作が終わった後に装備している別のナイフを取り出しているだけだ。
アスカの動きに無駄な動作がないためその手捌きはかなり早い。ザックが見逃してしまうのも無理はなかった。
要するに、カナタがアイテムボックスから愛刀を取り出すような、突如何もないところから現れているチートのようなことをしているわけではない。
だがアスカにしても顔には出していないがなかなかにギリギリの戦いが続いている。大人数だった盗賊団員たちとの戦闘では息一つ乱していなかったが、今は玉の汗を額に浮かべて肩で息をしている。そもそも攻撃範囲がハンマーの癖に思った以上に広く、大きく、速く動かなければ高威力攻撃の副産物として放たれる、地面を削った礫に被弾してしまうのでそれを対処しなければならない分だけ疲労は増していた。
おそらくこのまま時間を掛けてザックを削っていけば、そのうち自分が勝てるだろうとアスカは考えるが、念の為に切り札を1つ切る事にする。
「ふう。思っていた以上に破壊力とは戦闘を有利に進める要素なのですね。勉強になりました。なので念の為に此方も1つ奥の手を見せようかと思います!」
アスカは今まで通りに意識の虚を突いてナイフの投擲を行う。だが、話の最中だからと油断をしていないザックはあっさりと身を引いて半身になる事でナイフをあっさり躱した。
「今更こんなもので......何のつもりだ?」
「あなたはその強靭な肉体に自信があり過ぎなのです。少しくらいなら被弾もやむなしという戦闘方法は一長一短、いえ、リスクが高すぎますよ?戦闘力に差があればいいのかもしれませんが私のようなタイプが相手だと隙でしかないです。」
「あん?こんな小さな針1つ刺したくらいででいい気になるなよ!」
「いえいえ、”奥の手”と言ったではないですか。その針は特別製です。まあ、そろそろ効果が出ると思いますので楽しんでください。」
アスカの言葉が終わってからそう時間もおかずに針の効果は発揮され始めた。
「うっ、くそっ、なんだこれ身体が動かねぇ!」
アスカの針はカナタが創った物であり、その先端にはアリスが魔方陣を施した文字通り”特別製”だ。カナタが創造したのは軽くて見えにくいという事をコンセプトにした物だった。そして針にしてはかなり頑丈に出来ていてそう簡単に折れたりはしない。
アリスの付与した魔方陣は各種状態異常盛盛の激ヤバ仕様だ。今ザックを襲っているのは麻痺に毒、更に酩酊と混乱の効果だろう。それらがザックの思考と肉体の誤差を生じさせ、時間の経過とともに続々と肉体に負荷を与える状態異常が肉体に回っていく。
「はぁはぁ、寒い。いや、熱いのか?ここはどこだ?暗くて何も見えねぇ。ぁああああ眩しいぞ!はぁはぁ、あの針どうなってやがんだ。普通こんなに重い状態異常を引き起こすなんてありえねぇぞ!!」
何とか自分を奮い立たせるために声を張り上げるが足腰にはもう力が入らず、幻覚や盲目の効果で精神的にも追い込まれる。もう、こうなってしまえばザックにアスカをどうにかすることなど不可能で、アスカは静かにザックに近づくとしっかりと腰を落とし、会心のフルスイングで右こぶしをザックに叩き込んだ。
アスカの重い一撃は易々とザックの防御力を突き破って意識を奪い、その攻撃の威力は巨体のザックを数メートルも吹き飛ばすほどだった。ただ、意識を吹き飛ばされたことにより、針に付与された状態異常で過酷な状況だったザックは寧ろ安らかな顔をしているようにも見える。(断じて死んだわけではない)
アスカは今回使った針をきちんと回収してから一応周囲を見渡して敵のさらなる増援が無いことを確認する。流石にザックとの戦闘で疲労したアスカからすれば、この調子でウエーブ制のようにまた敵が増えるのは勘弁してほしかった。
因みにこの針は10本しかない。カナタはそう苦労もなく針を創れるのだが、アリスは魔方陣の付与をするのにそれなりに時間がかかってしまうのだ。まあ、その破格の効果からすればこれを量産できる時点でかなり反則的なので、10本でも十分に凶悪な武器である。ただ、使い捨ての武器というほど安いコストではないのでしっかり回収して再度使う事にしていた。毒を塗ったりしたわけではなく、魔法陣を直接付与しているので効果が薄まることも無いし、カナタがかなり頑丈に創っているので消耗も少ない。繰り返し使える正しく”奥の手”にふさわしい武器であった。
この針の効果に対抗するにはカナタたちのようにかなり高い状態異常の耐性を満遍なく揃えている必要がある。費用対効果はかなり高い悪夢になっていた。
その後は今回頑張ったアスカには戦闘の疲労の回復をしてもらい、その間にカナタたちが新たに追加された分の盗賊たちを縄で縛っていく。その際、武器を隠し持っていて逃げられると面倒なので一応所持品を漁って取り上げていく。
カナタたちは盗賊の貢献により少なからず懐が潤ったのだった。
だが、最後にザックの懐から出てきたものを見たカナタたち面々は、それまでとは打って変わってこれからの事を考えて深いため息をつくのだった。
読んでくださってありがとうございます。
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