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誰が為に  作者: 白亜タタラ
世界の常識と陰謀編
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アスカの成長

 5国会議が獣王国で行われるため、王国国王のアルゼン以下王国の重鎮たちと共にカナタたちは街道を進んでいた。しかし、途中でノルンが盗賊と思わしき集団が街道を通る馬車を待ち伏せしていることに気付いてカナタたちだけで接触することにした。ノルンのおかげでだいぶ距離がある位置から気づくことができたことで先手を打てた形である。それはつまり、国王たちを安全圏に置けた事でカナタたちは心置きなく状況を伺うことができるということである。


 カナタたちを罠に嵌めたと思い込んでニヤニヤしながら近づいてくる盗賊たち。後ろは案内を買って出た男が塞いでいる。


 「それ以上近づかないでください。こちらの要求に従わない場合は力尽くで対処します。」


 カナタたち陣営からはアスカが1歩前に出て盗賊たちに警告する。


 「くひぃっ。いいねぇ〜。近づくなだってよ!そんなに拒絶しなくてもいいじゃねぇか。」


 「そうそう。俺たちが遊んでやるからよ。仲良くしようぜ!」


 「きゃはは!力尽くで対処するだってよ!そんな細腕で何ができるってんだよ、なあ?」


 盗賊たちはアスカの忠告など聞く耳も持たず、気にもせずに近づいてくる。


 「そうですか。大人しくしていてくれれば加減しましたものを。」


 アスカは小さく呟くと近づいて来た盗賊たちに向かって猛スピードで距離を詰めた。当然カナタたちには強く地面を蹴り出して加速したことが見えていたが、距離を詰められた盗賊たちには、アスカが瞬間移動したかのように感じるほどの速さだった。


 「馬鹿なっ!ぐはっ!」


 「ごへっ!」


 「ぎゃふん!」


 いざアスカが動き出してみれば、それはもう戦いではなかった。アスカの踏み込みが見えない以上、盗賊たちにはいつ接近されたのかがわからない。しかも一般人よりはレベルが高い程度の実力しかない盗賊たちは、防御力もそう高くはないためアスカの掌底1発で打たれた腹を押さえて蹲る。これではただの、いや脆いサンドバックに過ぎない。

 1分が経つ頃には1人だけ盗賊たちから離れてカナタたちの後ろにいた、案内をしてくれた男を残して全員が同じ腹を抱えたまま蹲るポーズでのされていた。


 「後はあなただけですね。大人しくしていてくれれば痛くはしませんよ?」


 アスカは暗に抵抗は無駄だから大人しくしていれば酷い目に合わなくて済むと伝えた。

 事実数で勝っていた盗賊たちに手も足も出させずに完封したのだから実力は明白だろう。


 「クソが!少し知性があるだけの獣のくせに俺に指図してんじゃねぇ!ガキばっかだからいいカモだと思ったのに、とんでもねぇ化け物共じゃねーか!......と、油断したな?」


 「ッ......!」


 男は懐から長さ15センチほどで筒状のものを取り出すと空に向けて玉を放った。

 どうやらそれは魔道具のようで、魔力を込めると中に入っている玉を打ち出すという仕組みになっていた。カナタは少し大きな拳銃のようだと考えたが、どちらかと言えば大砲の方が構造的には近い。

 もっというなら、打ち上げ花火の筒を小さくしたものというのが、まさしく男が取り出した魔道具の見た目と使い方の双方から良く似ていた。


 そして、空へと打ち上がった玉は空中で弾け、猛烈な爆発音を周囲に響き渡らせた。アスカは犬をベースとする獣人なので、突如鳴り響いた爆発音に、そのよく聞こえる耳が大ダメージを受けた。聴覚にダメージを受けたことで三半規管にも影響を受け、1歩、2歩とたたらを踏み、足元が覚束ずによろめいてしまう。


 カナタたちも同じ音を聞いた訳だが、そもそも2人はアスカとは違い、夜空に打ち上がる花火などでこういったものには慣れていた。

 なので、カナタとアリスはうるさいなーと思う程度で済んでいたのだ。アスカと同様に聴覚が優れている"フェンリル"のノルンは咄嗟に耳に()を当てて防ぐことに成功して難を逃れていた。野生の感という奴が野生で暮らしてはいないノルンにも働いたのかもしれない。


 「ハッハァ!油断しているからだボケが!この魔道具はなぁ、連絡用なんだよ。万が一盗みが失敗しそうなときに鳴らせってな。今の爆発音を聞いて仲間たちが援軍に駆けつけるって寸法よ!」


 ピンチから一転、一瞬の隙をついて仲間を呼ぶことに成功した男は、アスカが暴れ始めて仲間が倒された時に消えていたニヤニヤ顔を再び顔に浮かべた。


 しかし、失敗の時を見据えて仲間を呼ぶ魔道具まで用意しているとはカナタにしても流石に予想外だった。


「あー、アスカ。そいつの言う通り数十人単位でこっちに向かって来る人間がいる。1人で大丈夫そう?」


 しかしこんな状況になり、さらに相当数の援軍が向かって来ている情報を告げながらでもアリスの声は全く落ち着きを失っていなかった。それどころか暢気に手助けはいるかと聞いている始末であった。


 「相手の事を見てからでないと正確なことは分からないのですが、私だけで大丈夫かと。万が一の時には頼らせていただきます。」


 当のアスカも人数の事を聞いても慌ててはいないようだ。そんなことよりも、未だ耳の奥でキーンとなっている自分の体の方が煩わしかった。


 そんな呑気に会話するアスカたちの様子を見て、むしろ仲間を呼んだ男の方が平常心を保たずに苛立ちを露わにし始める。だいたい、せっかく助言をくれてやったのに、自分を意に介していないかのようなやりとりに腹が立つ。


 「おうおう、救援の報を聞いて来てみれば、ガキばっかじゃねーか!おいアルガス、てめぇが居て何だこのざまは!あとでしごき部屋行きだから覚悟しておけ!」


 魔道具を使ってから数分で【新たな盗賊が現れた!】とテキストが付きそうな感じで援軍がぞろぞろと到着した。


 到着して早々にカナタたちを一目見た後にここまでの案内をした男、アルガスに怒声を浴びせていく男。


 盗賊たちの中でもかなりいい装備を身につけており、アルガスが狙ったカモに不審に思われないように身なりを整えているのに対して、こちらの男は戦闘に重視した装備で固めていた。


 その見た目や発言から、どうやら盗賊の中ではかなり立場が上に居る人物のようだ。もしかしたらこいつが盗賊団のボスか?と考えたが、


 「兄貴(・・)にも伝えとくから覚悟しておけ!」


 この一言でカナタはその兄貴と呼ばれた奴がボスだと考えを改めた。


 「新たに駆けつけた皆さんにも先程その方に伝えたことと同じことを伝えます。抵抗しなければ痛い思いをせずに済みます。大人しく捕まることをお勧めします。」


 アスカは敵の人数が多いために少し声を張りながらそう告げる。しかし、盗賊というものになる輩は元来、単細胞なのかと思わせるほどに皆、面白いように顔を真っ赤にして口々に汚い言葉をアスカに向けて叫びだした。


 「ほう。この人数を前にして平然とでかい事を言うじゃねーか!好きだぜ―そういう事を言う馬鹿は。とりあえずそこに伸びている奴らをヤッたのもお前さんのようだし、てめぇら全員で掛かれ!」


 男の掛け声で、アスカに煽られてギリギリで飛びつくのを我慢していた盗賊たちは一斉にアスカに強襲した。


 「死ねやー!」


 「言った言葉は戻らねーぜ!」


 「ひん剥いてやらぁ!」


 アスカに向かってナイフや剣といった、各種手持ちの武器を繰り出す盗賊たち。その人数故に襲ってくる手数も多いため、自然と対処しなければならない攻撃も膨大だ。右へ左へ、顔の高さに振られた剣を上体をそらす事で避けるスウェーなど、獣人の肉体スペックできっちりと見てから躱してはお返しに掌底を返して1人ずつ確実に戦闘不能にしていく。数十人いた盗賊たちは1人また1人と有無を言わさずに倒されていき、アスカの力を知った盗賊たちは徐々に攻撃の手が緩んでいく。


 「てめぇらに退くことは許してねぇぞ!さっさとそいつをブチのめせや!」


 非情にも、盗賊たちの中で一番強いと思われる男の言葉に逃げ道を断たれた盗賊たちは、青い顔をしながらも最初のころのような勢いを無理やり取り戻し、一気呵成にアリスに攻撃を仕掛ける。


 しかしこちらも無常かな、その攻撃はアスカに一度として当たることも無く全員がまたも同じ蹲るポーズで倒されたのだった。


 「いいねぇー。やっぱ実力はホンモン(・・・・)だったか!こりゃあ久々に楽しめそうだ。」


 男は舌なめずりをしながら愉快そうに顔を歪めて笑っている。自分の部下たちが目の前で倒されても自分の楽しめる、戦い(・・)と呼べるレベルの戦闘を行える能力を持った相手と殺り合えることの方が男には大事であった。


 「後はあなただけですが、......私の話は聞いていないようですね。」


 男は一体何キロあるのかと思わせるほどにゴツく、大きく、そして重そうなハンマーを握りしめた。これが男の武器なのだろうが、その見た目からハンマーを振り切った後は完全な隙が出来そうに見える。というより、レベルやステータスのあるこの世界で無ければ、こんな扱いの難しく、構えることすら困難な武器を選択する物好きはいないだろう。


 そもそもステータスを強化していなければ、持ち上げる事が出来る人間がいるのか?という問題があるのだが。


 「一応作法として名乗っとくぜ。俺はザックだ。愉しい戦いをしよーぜ!」


 「......アスカです。あなたが楽しめるかどうかは分かりませんが、捕縛させていただきます。」


 アスカは戦いの前に名乗りを上げる経験など無かったーーそもそも戦闘をするような人生ではなかったーーためすぐに反応できずにザックの名乗りを聞いて少し間を作ってから応えた。だが当のザックはそんなことを気にしてはいないようで満足そうに頷いた後、その手に持つハンマーの柄を強く握りしめる。


 両者向かい合う形でその瞬間(戦い)が今始まる。


 ただ、完全に空気と化しているカナタたちとアルガスもまだこの場に居る事は...触れないでおくのが華というものであった。



読んでくださってありがとうございます。

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