野宿とMPは計画的に
カナタ達のスキルが漸く少し日の目をみます。
カナタたちは基本的に身一つで呼び出された。そのため、布団や枕、その他の生活道具などは当然この世界に持って来てはいない。
しかし、カナタが取得したスキル"万物創造"により最初の食糧である一食目を創ったあとカナタは枕など必要最低限の生活道具を創り出していた。
この世界、ネメシアにおいて今自分たちが一体どこにいるのかという問題はあるが、取り敢えずカナタとアリスは無事に朝を迎えることができた。
ネメシアに来て二度目の夜明けな訳だが、一度目は気を失っていたため実感のある夜明けというのはこれが初めてだった。
『ムクリ』
「ああ。アリス。おはよう。俺の見張りの時も襲撃はなかったよ。」
『コク』
アリスは目が覚めるとカナタとの挨拶を済ませ、少し離れたところで生活魔法を使い朝の身支度を済ませた。
生活魔法は、ネメシアにおいてMPがあるものは誰でも使うことができる初歩魔法だ。カナタたちの元の世界において洗顔や歯磨きといったものをごく僅かなーー正確には一回で2MPほどのーー魔力でそれらを行なったのと同じ効果が得られるというものだった。
生活魔法は別に、水が出たり泡が出たりといったことはなく、全身が淡く光り輝くという演出はあるがわざわざカナタから離れる必要はない。しかし、吸血鬼の真祖とはいえアリスも女の子であり、これからずっと一緒にいるパートナーであるカナタに対して、いくら一瞬で終わるとはいえそういったところを目の前で見せるのは気恥ずかしかったのだ。
ちなみにカナタもアリスが寝静まってから生活魔法で身支度を整えていた。
「さて。支度も終わったし今日からは、この場所がどこなのか、そしてゴブリンには遭遇したが他にどんなモンスターがいるのかなどを調べるために周囲を索敵していこう。」
『くれぐれも油断はしないように。そして、倒せそうな敵ならレべルを上げるために積極的に倒していこう。』
昨日アリスが寝る前の時間に、カナタの世界のゲームの話が出たので寝物語に詳細を話して聞かせたのだ。そのことによりアリスもこの世界のシステムについて以前よりも理解が深まり、強くなることにより積極的になったのだった。
それは、ネメシアに来てから嫌というほどに見せつけられた弱者の凄惨さを知っているからであり、カナタのパートナーであるためには少なからずこの世界で不自由しないだけの力が必要だと考えたがためだ。
これらに対してネメシアでは自分のステータスが目視できるため、自身の努力の成果が目に見えるというのもアリスにとっては都合がよく、殺る気をだすキッカケになりえた。
「了解。じゃあどっちの方角から行く?と言っても、そもそも北がわからないから前後左右の指示で頼む。あと朝ごはんの希望も受付中です。」
『じゃあ左にしよう。ゴブリンが左から来たし巣があるかも。確認はしておきたい。あと、ホットドッグを希望。』
「ほいホットドッグ。警戒を切らさないようにしつつゆっくり行こう。なるべく身を隠しながら進む方向で。」
そう意見を話し合いながら、そしてホットドッグをカジリながらカナタたちはアリスの提案通りに向かって左の方向に進んでいく。因みに飲み物は緑茶だったりする。これもアリスのリクエストだ。
そうして数時間、森の中を警戒しながら進んでいくと漸くカナタたち以外の生物に遭遇した。しかしそれはモンスターではなく、野生のシカだった。
カナタたちはモンスターではないとわかると少し警戒を緩めたが、当然ただの人くらいのステータスしかないカナタたちが野生のシカの筋力に敵う筈がなく、さらにシカの走力に敵う筈もなく気を抜いていい相手ではない。しかし完全に不意打ちならば、ステータスシステムのあるネメシスにおいては何とかなる可能性があった。
『之は祖を縛る床なり。”サンダーバインド”』
「......疾っ」
「gryaaraaaaa」
アリスの雷属性による拘束魔法がシカに反応もさせずにその動きを封じ、魔法の完成とほぼ同時に飛び出したカナタが超短剣でシカを滅多刺しにしていった。
そうしてカナタの攻撃を受けて断末魔の悲鳴を上げたシカは成す術もなくドロップアイテムとなりカナタのアイテムボックスに消えていった。
この戦闘はカナタたちにはかなりの収穫があった。
「ドロップアイテムは"シカの角"だって。モンスターじゃなくてもドロップアイテムになることが分かったな。となると、アイテムになる範囲をゆくゆくは知っていかないといけないかな?」
『まあ、私たちに限っては道々の成り行きで調べていけばいいと思うわ。アイテムがどうしても必要ってほど困ってないし。それと、今回私がレベルアップしたことから戦闘に参加すれば経験値を貰える説が有力になったわね。』
「ああ。あと野生生物でも経験値を得られることもわかったな。狙って探していたモンスターではなかったが、結果だけ見ればこれはこれでいい相手だったな。それにアイテムドロップするってことは食料も手に入りそうだ。」
『食料が手に入っても今日は、嫌だけれど、私もほ・ん・と・うに嫌だけれど正体不明肉を検証よ。』
「それな!思い出したくはなかった。っと......アリス、神眼でこの辺見てくれないか。なんかの足跡が残ってる。」
シカと闘ってから一時間ほど。カナタは会話をしながらもしっかり周囲を警戒しながら移動をしており、足元に何かの足跡を発見した。
カナタの指示に対してアリスは、自身の眼の黒目の部分を金色に、白目の部分を薄い銀色に変化させることで答えた。
『これは当たりみたい。遭遇したゴブリンの足跡と特徴が一致するし。この辺りの魔素の流れ的にこのまま進んでいけば何かはあるみたい。』
「OK。ここからは更に気を引き締めて進もう。」
アリスの眼はスキルを発動するのにMPはかからない。なので極端な話、常時神眼スキルを発動させていてもいいのだ。しかし、まだアリスはこのスキルを得てから日が浅く、まだまだこの規格外のスキルを使いこなせていなかった。
例えば、スキルを使っている時は一般人で言うところの目の乾燥に苛まれるし、目から入ってくる情報量が膨大すぎて脳に負担がかかり、長時間スキルを使用すると今のアリスでは頭痛が始まってしまう。
故に、アリスは要所要所で神眼スキルを使っている。
そうして時々神眼スキルで周囲の警戒と足跡に次ぐ痕跡を探りながら、一時間ほどさらに捜索を続けそれを発見した。
「......うわぁ......これは......アリスどう?」
『......正確な数は把握しきれないけれど五、六百はいる。』
「ネメシアの普通がどうかはわからないけれど流石に多すぎませんかね?このゴブリンの数は二人じゃどうにもなりませんけど!!」
『いや......お互いに反対方向から各個撃破していけば......何とかなるか、も。二人共初撃の奇襲を最大火力で攻撃して、後は騒動に乗じて倒していく感じ。ただ見つかったら一旦退いて回数を分けて攻めよう。多少のダメージは私たちなら無視していけるし、それに戦っているうちにレベルも上がると思うから状況的には五分ってところだと思う。』
カナタたちが発見したのは、ゴブリンの集落だった。その数、規模ともに中規模といったところだがカナタたちにはそのことを知る術は勿論ない。
しかしアリスが提案したように、カナタたちの特性で痛い思いさえ我慢できるのなら、それこそゾンビアタックができるので、この二人に限っては理論上可能な作戦だった。
「ふぅ。よし!了解した。アリスが言うならそうしよう。じゃあ俺は反対側に回るからいい所まで辿り着いたのがわかったら先制攻撃を開始してくれ。それを合図に俺も始めるから。」
『わかった。私が見た限りだとゴブリンの上位種のソードマンやマジシャンとかいう名前のモンスターもチラホラいるし、この群れのボスにキングの名を持つ奴が一匹いる。どの個体も見れば特徴が分かりやすいからカナタも判断できると思う。とにかく最初は普通の個体を殲滅していく流れで行きましょう。』
「了解。......アリス、くれぐれも囲まれるな。君ならそれ以外は何とかなると信じているが、これだけ数がいると先を読み難くなるはずだ。だからくれぐれも注意だけはしていてくれ。」
『了解!カナタも後方は死角だから注意を払っておいて。あとお互い体力は有限だから、無駄使いしないように。労力は最小限に抑えましょう。』
「......よし。じゃあアリス逝ってくる。」
『うん。カナタ死闘しましょう。』
二人はどちらもこの戦いがかなり大変なものになることは理解していた。しかしお互いに、最後は注意点だけを述べあうことだけしかしなかった。
作戦の無理さ加減なんかわかりきっている。しかし二人にしてみれば所詮は無理というだけでしかなく、無理だからと止めはしない。二人には、やっていればいつかは無理では無くなるのだから。
そうして二人は声もなく嗤いあった後、行動を開始したのだった。




