過酷な現実と一人の少女
初作品、初投稿で拙いながらも頑張っていくと共に、皆様に少しでも楽しんでもらえたら幸いです。
ただこの作品は私の楽しい要素100%盛りなので読み難かったらスミマセン。
世界は理不尽に満ちていると若者たちはよく嘆いているのを聞くが、今この時、この瞬間の僕ほど嘆きたい人間はいないのではないだろうか。
僕の周りで横たわる、ところどころ体の部位が欠け落ちたり、ミンチのように周囲に肉片が散らばっているがかろうじて確認ができる三人の死体。そして、その死体を真っ赤に染める大量の血液があたりを染めている。人間の体には水分が多分に含まれていると言うが、この惨状を見れば納得もできる。それほど赤色に、いや、正確には赤茶色に染まっていた。
もしこの状況を共感できるできる人がいるならそれは彼女しかいないだろう。
「~~~~っっぅぅうう」
とまあ僕が共感を求めている彼女は、現在ほとんど声も出さずに泣いているわけだが。
とはいえそれも仕方がないとは思うよ。だって僕が見る限りでまだ10歳前後の小さな女の子が、人間の惨殺死体、それも限りなくグロいやつを間近で見せられたりなんかしたら、そりゃあ泣くよね。てかむしろこの状況ではかなりすごいと言っていいと思う。
「っち、ついにこっちにも来たか」
少しの間こうして現実逃避して思考をそらしていたわけだが、ついにこの惨状を作り出した張本人が僕をターゲットにして向かってきてしまった。
「グギャャッ」
僕に向かってくるのは、身長百三十センチほどしかない緑の化け物だ。ゲームなどでよくいらっしゃる、雑魚キャラと定評のあるあのお方。ゴブリンさんである。
「いやいや全然弱そうじゃないんですけど。よく鍛え上げられた筋肉をお持ちで、見るからにと言うか迫ってきてるからより一層怖いんですけどー!」
僕に向かって、ただそれなりに大きな木を長いこと地面などに叩きつける事で形作ったような棍棒を振り上げてくるゴブリン。僕は、精一杯の抵抗をしようと振り上げている右手側に思いっきり飛び込み何とか一撃を避けることができた。
しかし、現代日本で一般的な中学生だった僕は一撃を凌ぐだけで精一杯だったため、棍棒を振り上げていたゴブリンの後ろにいたもう一匹のゴブリンの前蹴りを腹に食らってしまった。
初めての戦闘で視野が狭くなっていたが、僕の周りには棍棒を持ったやつに、僕を蹴ったやつと、合計二匹のゴブリンがいたらしい。
「ゴフッゴホッ・・・っ」
あまりの苦しさに涙が止まらないが自分がゴブリンに囲まれているのはわかった。
「はぁ、本当に理不尽だ。痛いのはやめてくれ」
そして聞いたのは、ものすごい風切り音と自分の顔の骨が砕ける音だった。
「うがぁーぁぁああああああ!!!」
「グギャ?」
僕は目を覚ますと同時に腹に感じていた痛みを確認するとともにほとんど反射的に動き出していた。
恐ろしい事に、僕が感じた腹の痛みは蹴られたからではなくて、僕を殺したと思ったゴブリンが僕の腹の肉を引きちぎり、喰っていたからだった。
完全に油断していたゴブリンに対して僕は起き上がった反動を利用し、そのままゴブリンの口の中に拳を突っ込み、喉に自分の手を内部から貫通させた。
更にすぐ近くで僕が仲間を殺すのを呆けて見ているゴブリンに対しても動きを止める事なく、今殺したゴブリンが持っていた棍棒を掴み、そして殴り掛かる。
いくら筋肉質でも、完全に油断してる上に渾身のフルスイングをモロに腹に食らったゴブリンは体をくの字にさせて蹲った。カナタは抵抗できなくなったゴブリンに対し何の容赦もなく棍棒を頭に振り下ろし続けた。
さっきの恐怖や痛みを考えたらこいつらを生かしておくことや情けをかけるなどということは頭にはなかった。さらにこの状況が脳にアドレナリンや各種分泌物を放出していたことも関係しているのかもしれない。
ついに二匹のゴブリンを倒した僕は少女のことを思い出した。すぐに視線を上げて少女を探した。そしてなんと少女はまだ生きていた。
とはいえ左の腕はあらぬ方向を向いているし、体のいたるところがもうボロボロの有り様だった。
僕はすぐさま少女の元へ棍棒を振り上げて向かった。ゴブリンたちも接近する僕に気づいたのかこちらに視線を向けた。
残るゴブリンは三匹。うち二匹がこっちに向かってくる。残る三匹のうち二匹が棍棒を手に持ち一匹が素手だ。こちらに来る二匹ともが棍棒を持っている。それほどの距離もなく、お互い敵に対して走って向かったためすぐさまお互いの攻撃有効範囲に入った。
先に動いたのはゴブリンたちで、もうすでに棍棒を振り下ろそうとしている。僕は先ほどのように飛び込んで避けるのではなく、思いっきりスライディングしながら片方のゴブリンの横をすり抜けると同時に足に棍棒を叩きつけた。さらにゴブリンの横を通ったことでもう一匹のゴブリンの攻撃をゴブリンを盾にすることで回避できた。
後ろを振り返ると、足を強打されたゴブリンはあまりの痛みからかその場にうずくまり、もう一匹のゴブリンも少し怯んでいた。
「このチャンスは逃さんー!!」
僕は上がる息を気にもとめずに叫びながら突っ込んでいった。先に狙うのは怯んでいるほうだ。ただひたすらに棍棒を振り上げ向かっていく。
その姿に一歩後ずさりしたゴブリンに棍棒を振り下ろす。戦闘における型も何もなく、ただがむしゃらに振り回しているといってもよいほどに、なりふり構わず棍棒をふるう。
四、五発棍棒が当たるころにはゴブリンは抵抗らしい抵抗もできないほどの姿になっていた。ここでとどめを刺すのは今ボコった方ではなく、先に足を攻撃して弱らせていたほうだ。
すぐさま歩み寄り頭に棍棒をふるっていく。もう一方も同様にとどめを刺して少女のほうへ向かう。
少女のほうもなんと、もう一匹のゴブリンを倒していた。少女はあたりを巧みに走り回り、石を拾って投石でコツコツダメージを与えて最後は大きめの石で頭を割ってゴブリンを殺していた。
「・・・・」
「・・・・」
少女の元に歩み寄るがどう声をかけてよいのかわからずに相手もそうだったのかお互いに黙ってしまった。
ボン
と少女と向かい合って気まずい雰囲気になっているところにそんな小さな破砕音が聞こえた。
音のした方を見てみると、さっきまでいたはずのゴブリンたち五匹が跡形もなく消え去っていた。この現象に関しては心当たりがなくもなかったのでほんの数秒呆けるだけで済んだ。しかし、さっきの初めての戦闘であまりにも疲れていたため、僕たちはどちらともなくその場に腰を下ろして休むのだった。
てか僕に関してはほぼ致命傷をもらったし、少女も腕は確実に骨折していたし、かなりの重症だったのだが、お互いにそれほど大きな傷はもう残っておらず二人とも肉体的、精神的にかなり疲れていたのか、いつの間にか瞼が下りてゆき、抗えぬ眠りにおちてしまっていたのだった。