24話 勝敗
よろしくお願いします!
遅くなってすみません!
あれだけ快晴だったはずなのに、午後になってから空に雲がかかり始めた。この雲が一体どこの誰の心情描写なのかは分からないが、僕ではないことは確かだ。なぜなら、僕は今すごく気分がいい。協力者の二人に作戦を説明し、手を貸してもらえることになったのだ。やればできる子なのだ。
「最後の王様は神谷にしようと思う」
最後の作戦会議チームリーダーの松本くんが言った。これも僕がお願いしたことの一つだ。
「おー、いいんじゃね?さっきの動きも凄かったし」
「頑張ってね!神谷くん!」
「う、うん。がんばるよ」
おぉ!さっきのプレーで少しは使える駒と認識されたのか優しく声をかけられる。
「万丈みたいな奴はいないが、チーム全体の総合力が高い。スポーツテストの総合一位の碓氷にも要注意だ」
松本くんは僕と一度アイコンタクトをして、審判に王様を伝えに行く。
「碓氷くんと戦うの嫌だな」
「でも、やるからには全力でしょ!同じクラスだとしても!」
「ってかもしかして、俺らはもう景品が貰えるのは確定してるのか!」
「そうだね!でも折角なら学食ゲットしたい」
「そりゃそうだ!うっしゃやるぞ!」
チーム全体がやる気に包まれている。決勝戦となるとみんな燃えるのだろう。その中に見慣れたミルクティー色のポニーテールを見つける。球技大会中は色々と忙しくって意識していなかったが桐崎さんも同じチームだったな。
「あ」
タイミング良く振り返った桐崎さんとぴったり目が合う。なんだか小っ恥ずかしくなり目線を逸らして気付いていないフリをするが、彼女はゆっくりと僕の方へ歩いてくる。
「頑張ってね」
すれ違いざまに僕にしか聞こえない微かな声でそう囁く。なんだか顔が熱くなるのは、みんなの熱気にやられたからだろうか。
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最終試合が始まる。スポーツテストという基準の元でチーム分したためか、戦力にそこまでの差は見られなかった。効率的に外野から当てて、内野に戻る。その中で隙を見て内野からも攻撃をする。単純で簡単に見えるが、レベルの高い試合が繰り広げられた。うちのクラスは学年全体で見ても運動神経がいい人が集まっているのかもしれない。しかし開始から三分ほど経ったら辺りで、その均衡が崩れ始めた。
「やっぱバレたか」
「だな、どうやって見破ってるのかは知らんが、なかなかにしんどいな」
小西くんが呟き、松本くんが同意する。そうなのだ。有馬くんが碓氷くんに助言をしてから、僕ばかり狙われている。僕のカバーに入ってくれたり、気を取られたりして、味方の人数が削られる。
「とりあえず粘るしかないな」
ソフトボール部所属の月島さんのボールが女子の集団を襲う。そこには小鳥遊さんの姿もある。松本くんが飛び出してボールをもぎ取る。ほんとにイケメンだね。ほら、女子がキャーだって。
「うっし」
碓氷くんは松本くんを警戒し数歩下がるが、その時、後ろにいた有馬くんとぶつかってしまう。松本くんはその隙を見逃さずに、効果音が付きそうな勢いでボールを投げる。碓氷くんはまだボールを取れる体勢になっていない。しかし、急にその間に入ってきた馬渕くんが身代わりのように滑り込みボールを受ける。
「!」
チームのみんなが目配せをする。馬渕くんの動きは碓氷くんが王様ってことを示すようなものだった。それにみんなは気づいたのだろう。そこからは僕と碓氷くんを狙った総力戦が始まった。ただ、このままいくと元からの人数差的に勝てる確率は高くないね。…よし。
「松本くん。ちょっと………」
「…ほんとにできるのか」
「信じて、欲しい」
「…わかった」
僕は松本くんに予め伝えていた作戦にプラスする形で、自分の考えたプランを伝えた。頼むよ松本くん。
「っおら!」
碓氷くんの豪速球に松本くんが先程と同じように滑り込む
「っく!」
が半歩遅く、チームの要である松本くんは僕を守る形でのアウトになる。更にそのボールは跳ね返って相手の陣地へ転がってしまう。残り人数は僕を含めて三人。桐崎さんと小鳥遊さんだ。対する相手は八人、そしてボールは向こう側からスタートだ。つまり圧倒的に不利な状況。
「ふぅ」
松本くんではないが、燃える展開じゃないか。僕は敢えて桐崎さんの前に立ち、手を広げて碓氷くんに笑みを浮かべる。完全に安い挑発だ。
「やってやろうじゃないか」
碓氷くんはその挑発に乗ってくる。そうこなくては面白くない。しかし碓氷 新太くん。君は知らない。スポーツテストの総合一位が、実は君ではないことを。
「っん!」
碓氷くんは大きく振りかぶって投げられたボールが僕に目掛けてまっすぐ飛んでくる。君の性格なら挑発に乗り絶対に真正面に投げてくると予想済みだ。どれだけ速いボールでも投げてくる位置さえわかっていれば怖くない。僕は彼のボールに難なくキャッチする。
「にゃろう」
碓氷くんの顔はどこか苛立ちに溢れている。しかし、その表情は不敵な笑みに変わり、負けじと堂々と構える。僕のボールなら取れると確信している様な目だ。さてさて、反撃開始だ。僕はボールに全体重を乗せて投げる。ボールを目で捉えた碓氷くんは驚きの表情を見せる。思っていたよりも断然早いスピードでボールが飛んできたからだろう。更にそのボールは人間が一番取りにくい足元に落とす。普通の人なら絶対に当たる。
「ちっ!」
しかし、碓氷 新太はギリギリのところで体勢を崩しながらでも躱した。
「うん、知ってる」
君なら、君の運動神経があれば、避ける。そう読んでいた。しかし、碓氷 新太くん。君は気づかない。僕に集中し、僕のボールなら絶対に取れると慢心していた。だから君のすぐ後ろにいる松本くんの存在に気づかない。ワンバウンドして最も松本くんが取りやすく、すぐにモーションに入れる所にボールを持っていく。
「っら!」
気づいた時にはもう遅い。体勢を崩した所にボールが容赦なく迫る。この為にあえて松本くんには外野に行ってもらった。死角から最大の矛で彼を倒す。
「ふっ…」
ボールが当たる瞬間、碓氷くんは笑ったように見えた。僕はレフリーを見る。試合終了のホイッスルを期待するが、ホイッスルはなる気配はなく、相手のチームから僕のところにボールが飛んできて腕に当たる。僕は尻もちをついてしまい、傍にボールが落ちる。
「よっしゃあぁぁ」
相手チームから歓喜の声が上がる。碓氷 新太は王様ではなかった。
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だが、悪いな、それも知ってる。
僕を起こそうと近づいてきた松本くんに小声で話しかける。
「………」
レフリーのホイッスルの音が空の下で響く。勝者の方に挙げれる旗は僕達の陣地を指していた。敵チームだけではなく味方ですら何が起きていたのかわかっていない様子だ。
「ふぅー危なかった」
松本くんは溜息をこぼす。彼が僕から受け取ったボールを有馬くんに当てたのだ。当てられた王様の有馬 透だけではなく、全員が勝利したと思い込み、油断していた。そんな人にボールを当てるのは造作もないことだ。
「悪いね、碓氷くん」
全てシナリオ通り。僕の勝ちだ。
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放課後の教室に僕は碓氷くんに呼び出されていた。教室に入るとまだ体操服姿の碓氷くんがいた。
「なんで、なんで!お前が王様じゃないんだ!透は、お前が王様だと言った!透が間違える訳ないんだ。今までの試合も100%王様を見抜いている!」
おいおい威勢がいいな〜
この子には一度分からせ方がいいかもしれない。僕のなかで何かスイッチが入った気がする。
「確かに、有馬くんは目も頭もいい」
彼は人の心理を知っている。そして非常に優れた観察眼で、目線や仕草を読み取ることができるんだろう。
「あぁ、そうだ!例えお前がどんな作戦を考えても、チームメイトの視線はコントロール出来ない。だから王様を見つけることができる」
「僕のチームメイトは、僕のことを王様と認識してたってことだよね」
「そうだ。みんな…ってお前まさか」
「うん、そのまさかだよ。僕は、チームメイトにほんとの王様を伝えてない。みんなは僕が王様だと思って守ってた、そりゃ僕が王様に見えても仕方がないね」
「そんなこと」
「有馬くんはほんとに凄い。これまでの試合を見てそう思った。彼を欺くには味方を欺くしか無かった。本当の王様を知ってるのは、リーダーの松本くんと、ほんとの王様の小鳥遊さんだけだ」
松本くんに協力を仰いだのはリーダーであり審判に王様を伝えに行く役目を担っていたから。それと…
「でも、ならどうやってほんとの王様を守った。味方はお前が王様だと思っていたんだろ」
「だから松本くんなのさ。クラスで君の次にスポーツテストの結果がよかった彼にだけほんとの王様を教えた」
そして僕もいる。本当の王様である小鳥遊さんを守ることは可能だった。
「じゃあどうして透が王様だと気づいた」
「有馬くんに出来たことが、僕にもできたってだけさ。王様を見つけることが出来た」
僕は単純な観察眼だけなら有馬くんに劣っているだろう。彼は敵の視線だけで王様を読み取っていた。しかし、僕にはそんなに器用なことは、少なくとも、今は出来ない。だから僕が注目したのは敵ではない。敵ではなくても王様を知っている人物がいる。そう、審判だ。審判は勝敗を判断する為に、王様をよく見ているのだ。その目線を追って王様を見つけることが出来た。それに気づかなかったら、僕は負けていたかも知れない。
「あいつ天才だぞ、そんなに簡単にできるわけ
「それがたまたま、もう一人、クラスにいただけだよ。君に見えていないだけでね」
一つ松本くんに謝らないといけない。僕は馬渕くんが碓氷くんを庇った時、既に有馬くんが王様だと知っていた。だから馬渕くんが庇ったのが碓氷くんではなく有馬くんだということにも気づいていた。それを先に松本くん言えば、もっとはやく試合が終わったかもね。でも、僕は碓氷くんを徹底的にやっつけたかったんだ。彼が思い描いていたプランを丸ごと全部ひっくりがえして見たかった。
「そ、そんな、バカな」
もしも、有馬 透くんが僕を当てたあとに油断しなかったら勝負はわからなかった。しかし彼は、僕が当たった瞬間に警戒をといた。
「レフリーをみて、隙を見せたのもわざとかい?」
有馬くんが廊下から教室に入ってきて、僕に尋ねた。どうやら途中から話を聞いていたみたいいだ。
「う、うん、そうだよ、有馬くん。僕が王様と確信してるなら、ぼ、僕が当たった時に、最大の油断を誘える、でしょ」
「こりゃ完敗みたいだね」
「くそ。単純な運動能力なら俺のが絶対に上なはずなのに」
「それも間違ってるよ。碓氷新太くん。ほんとに君はみえてないね。自分のことばかり考えているから周りが見えないのかもね」
そう言い残し僕は教室を出た。いいよね?僕勝ったし!あんだけ試合前に宣戦布告みたいなことされてるし!大丈夫だよね!
「さて」
作戦をちゃんと聞いてくれた松本くんと、無理にでも王様を引き受けてくれた小鳥遊さんにお礼をいいにいかないと。僕の鞄に入っているスポーツテストの結果には97/100と言う数字が刻まれているのであった。
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