23話 ラスボスオーラ
よろしくお願いします!
三回戦。やはり上がってきたのは万丈くん率いる八組だ。勝負を制するには万丈くんをどうやって攻略するかにかかっていると思われる。こういうゴリゴリのパワー系は燃費が悪く、すぐにガス欠になったり、ノロマだったりするのが定番なはずなのだが、万丈くんは例外のようだ。きっとこの人のスポーツテストのパラメータは綺麗な五角形を描いているんだろうな。そう言えば僕のスポーツテストの結果がまだ返されないんだけど、あれ?僕もしかして、横井先生に忘れられてる?
「今回の王様は藤堂でいく。大丈夫か?」
「う、うん。頑張る」
「うっし。あとは〜作戦という程のものじゃないが、万丈の攻撃には最大限の注意を払うこと。今までの試合よりも外野に近いところで構えた方がいいかもな」
「おっけー。あんなの当たったらひとたまりもないから全力で避ける」
「わたし無理なんだけど。絶対痛いじゃん」
「まぁそう言っても仕方ないさ。よし、いくぞ!」
とりあえず、万丈くんからの攻撃から避けつつ、先に王様を見つけるしかない。たとえ彼を倒せなくても、勝利を掴むことができるのだ。とかなんとか、かっこいい感じで大見得を切ってしまったが、なんと王様は万丈くんだった。おいおいおい。予想外の展開が続いてるぞ〜大丈夫か〜?
ドッジボールにおいてオフェンサーは、最もボールが当たる可能性が高い。にも関わらず王様をやるのは、なかなかにリスキーだけど、確かに意表を突く効果はある。総合力が高い万丈くんだからできることかもしれないが。
「松本くん」
一応、松本くんに報告をするが、これに関しては信じて貰えないかもしれない。というか、僕もあまり信じられない。
「おぉ、見つけたか。誰なんだ?」
「万丈くんだと思う」
「まじかよ。でもまぁ、有り得なくはないな」
松本くんは苦笑する。
「なら結局、万丈を当てないといけないってことか。いいね、燃えるわ」
松本くんは万丈くんを倒せることをどこか楽しそうにしている様子だ。相手が強いとワクワクするって山吹色の戦闘民族なのかな?
「小西。……。」
チームのみんなにも松本くんから万丈が王様の可能性高いということをこっそり伝えてもらい、総力をあげて万丈くんを狙った。しかし、万丈くんのラスボスオーラは某冷蔵庫様の最終形態並だった。簡単にいうとめっちゃ強かった。内野と外野でパスを繋いで、相手の体力を減らしつつ隙を待つ作戦だったが上手くいかず、現状は6対11で非常に不利だ。
「やっべーな、なんか万丈の隙をつける方法はないのか」
松本くんはこんなの笑うしかないだろって感じの笑みで僕に話しかけてくる。え?僕だよね?僕に話しかけてるんだよね?うん。後ろには誰もいない。よし僕だ。僕にまで助言を求めるほどピンチって訳か。勝利へ繋がるかはわからないが、今までの試合のなかで一つだけ万丈くんの癖を見つけた。元ハンドボール部だからか、ボールの打点が低い。外野にいるチームメイトはみんな足を当てられて退場していった。さて…彼の隙をつく為の作戦…か。
「…一つ案があるけど、正直、一か八かって感じ」
「ほんとか!どうするんだ?」
「ぼ、僕が、注意を引くために、万丈に向かって走る。から、松本くんはそのあとについてきて。そ、そしたらきっと、上手くいく」
「お、おう。わかった!」
これだけの説明じゃイマイチ伝わらなかったかも知れないが、松本くんなら何とかしてくれるだろう。小西くんが投げたボールを万丈くんがキャッチする。今だ。
「いくよ」
僕は万丈くん目掛けて走り出す。彼は一瞬驚きの表情を見せたが、どう考えても絶好の的の僕に向かって全力でボールを投げる。ハンドボールのシュート時におけるボールの速度は約100km/h(キロメートル毎時)。ボールがハンドボールよりも大きいため凡そ90km/h(キロメートル毎時)って所だろう。90km/h(キロメートル毎時) = 25m/s(メートル毎秒)。万丈くんと僕とのあいだの距離は約5m。つまり単純計算、ボールが僕の所に到達するまで約0.2秒。
「っ!」
一秒を切る世界では反射神経がものをいう。信じてるぞ!僕の反射神経!ギリギリまで万丈くんの意識を引きつけてから、スレスレのところで左に流れながら避ける。彼は右利きなので、どうしてもボールの軌道は彼から見て左に行きがちだ。そして、彼のボールの打点が低いという癖を利用し、僕が0.1秒前に居た場所にワンバウンドさせる。バウンドしたボールは後ろから付いてきていた松本くんの胸元に綺麗に収まる。立場は逆転。
「っら!」
万丈くん。今度は君が0.2秒の世界を体験することになる。王様の首、いただいたぞ。
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それぞれのブロックの決勝をもって午前の試合は終了し、昼休みを挟んでから午後の最終戦が行われる。僕は松本くんと共に廊下を歩いていた。途中まで小西くんも一緒だったが、彼はトイレに寄るらしい。
「ふぅー。なんとか勝ち残れたか〜」
「き、危機一髪、だった、ね」
「よく最後の避けたな。走り出した時は何事かと思ったよ」
「…いっ、一か八かだったけど、か、勘が当たって、その、良かったよ」
「この調子で勝とうな!」
おぉ!キラキラスマイルだ!周りに星が見える。もし僕が女の子に生まれてたら、碓氷くんの様なタイプじゃなくて松本くんみたいな人と付き合いたいな。これは決して碓氷くんが苦手だからではない。多分。勘違いでなければ、この二回の試合でかなり松本くんとは距離が縮まった気がするが、果たして力を貸してもらえるかどうか…。
「あ、あの!さ、最後の試合の事なんだけどちょっと相談したいことが…」
「おーい!神谷!」
よく通る大きな声で名前を呼ばれて振り返ると、少し離れた所に担任の横井先生が立っていた。
「な、なんですか?」
「スポーツテストの結果が返ってきてるから、昼休み中にでも職員室に取りに来いよ〜」
「あ、はい」
「いま行ってきたら?丁度、職員室にも近いし」
「あ、そ、だね。そうする、あ、でもちょっと後で時間貰える?」
「おう。いいぞ、じゃまた教室でな」
「うん」
うちの学校のスポーツテストは少し特殊でA.B.C評価にプラスαで、総合点が数字で見える仕組みになっている。碓氷くんの場合93/100、松本くんは91/100って言っていた気がする。その数字で校内、クラスと、それぞれ順位付けされる。
定期テストも同じように教科ごとに明確な順位が自分自身にだけ見えるシステムになっていた。この学校の方針的に、自分が全体のどの辺の位置にいるのかを把握させておきたいのだろう。だからこのような方式をとっているのだ。
「ふむ」
僕は自分のスポーツテストの結果を見て思案する。病み上がりだったとはいえ、もう少し点数が伸びて欲しかったな。まぁ、このテストはあくまで基礎力を測るもので、実践となれば話は変わってくるはずだ。物思いにふけりながら廊下を歩いていると、前から僕が求めていた協力者第二号が現れた。未だ慣れないが勇気を振り絞って自分から話し掛ける。
「ち、ちょっといいかな!」
上手く交渉出来るか不安が残るが、この人も勝利に必要な鍵となる。僕は乏しいコミュ力を最大限に使ってその鍵を手に入れる!二人の協力者が揃えばまず負けることはない。
さぁ始めようか。碓氷 新太くん。
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