22話 第二回戦
よろしくお願いします!
「なんだこれ。こんなの無理でしょ」
僕は誰にも聞こえない小さな声で呟く。
初戦を突破し、続く第二回戦。相手チームは二組だ。そこには小柄で、サイズが微妙に合っていない体操服を着た如月 小夜の姿も見受けられる。好みであのサイズにしたのか、それともこれから背が伸びるかもしれないという希望的観測に基づいて、見栄を張って購入したのかは知らんが、半袖だと袖や胸元の所が少し危うい。
「んらっ!おっしゃ!」
そう言えば特に言及していなかったが、如月 小夜の胸は、あの身長にしてはある方である。あくまで推測だが、『一貫性のある電荷の単位』から『平面座標上のある一点から直線に引いた垂線の長さ』くらいだろう。こいつ何言ってるの?ってなった人は検索してみて欲しい。直接的な表現は控えたいからね。
「外野いくぞー!よっ!」
ちなみに桐崎さんは『質量×加速度』くらいと予想される。おっと、話が大幅に脱線してしまった。二組と対戦してるって話だったな。
「おっら!おい!避けんなよ!」
碓氷くんの運動神経以上に有馬くんには驚かされた。有馬くんがどこまで正確に王様を当てられるかは分からないが、厄介なのには変わりがない。あのダッグにノープランで挑むのは、あんぽんたんのすることだ。そこで、僕はある作戦を考えたが、それには協力者が二人必要になる。その中に絶対に松本くんは入れたいのだ。
「あぶねっ!」
そこで問題になるのが、松本くんにどうやって協力を仰ぐかだ。急にろくに喋ったことのないクラスメイトから「作戦を考えたから協力して!」と言われても、訝しむに決まってる。そこでだ、僕は少しでも信用を得るために活躍しようと試みた。
「いった!女の子なんだから、手加減してよね!」
王様ドッジボールにおいて一番の活躍とは、当然だけど、王様を当てることだ。なので、僕は先程の有馬くんに習って王様を見つけることにした。普通に考えて不可能といってもいいが、何事も挑戦が大切だ。そして、今に至る。案の定、ボールが飛び交う中、相手チームの表情や目線を確認するのは至難の業だった。有馬くんって天才なのかもしれない。
「ちょっと!審判!この人、反則!線から出てる!」
聞き覚えのある声だと思ったら、小夜が審判に抗議していた。そんな細かいこと…
…そうか、なるほど。ありがとう、小夜。君に救われた気がするよ。僕は集中する。僅か一瞬でも目を離したら、見つけることが出来ない。集中。集中だ。コート上で交戦が続くなか、僕は全くボールを見ずに王様を探した。
「…みつけた」
つい、声に出してしまった。確信した訳ではないが、十中八九この人だろう。僕は松本くんの傍に行き、声をかける。ふぅー緊張するな。上手く喋れるかな。
「ま、ま、松本くん」
「なに?今、ちょっと忙しいんだけど」
そりゃドッジボールの最中だからな、見れば分かる。僕も忙しい。
「つ、伝えたいことが、あって」
「手短に頼む。よっと」
僕と彼の間にボールが飛んでくるが、スレスレの所で避ける。喋っていても難なく躱す松本くんの反射神経はピカイチだね。
「わ、分かった!えっと、多分、王様は栗田くんだと思う」
「それ、なんか理由あるの?」
松本くんは僕を不審そうな顔で見た。理由を説明したいが、上手く口では言えないし、今はそれよりもすべきことがある。
「せ、説明は後で、する、から。と、とりあえず、栗田くんを狙ってほしい。」
「…りょーかい」
不思議に思われながらも何とか納得してくれたようだ。
「よっと」
次に相手から投げられた若干甘めのボールを松本くんはキャッチする。僕達のチームスタイルは基本的に外野からの攻撃をメインとしている。ワンパターンにならないように中央ラインギリギリでキャッチした場合は直接敵を狙うがあるが、松本くんがボールを手にしたのは自陣の真ん中辺り。この位置なら外野に回すのがセオリー。相手チームもそれがわかってきたのか、外野に投げると予想し、後方のラインに寄り切らず、前目の位置に構える。
「んらっ!」
しかし、松本くんは予想と反して全力で敵を当てにいった。彼の放つ豪速球は栗田くんの膝に吸い寄せられて、試合を終了させた。確かに狙ってって言ったけど一発で当てる辺りイケメンは違うな。僕も僕で、予想が当たってよかったと一安心する。
「ほんとに王様じゃん。なんでわかったの?」
彼は少し驚いた様子で僕に話しかけてきた。
「えっと、か、彼が一番、外野を意識してたから。あ、あと、目立たないように、してるのが、その、ぎゃ、逆に目立ってたっていうか」
勿論、それだけが理由ではないのだが、長くなるので、これくらいで納得してくれたら嬉しいのだが。
「ふーん。すごいな!次の試合も見つけたら言ってくれ!」
彼は明るくニカッと笑った。ピカピカマークが飛ぶような笑顔だ。女の子もイチコロだろう。兎にも角にも、この試合でちょっとは信用を得れたんじゃないかな。
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