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21話 球技大会

よろしくお願いします。


今日はとうとう球技大会である。

あれだけのことを言われて大人しくしている僕でもない。悪いが、全力で碓氷 新太を倒しにかかる。碓氷くんと当たるにはトーナメントを勝ち上がらないといけない。それまでは手の内を晒したくないので、出来る限り、フォローに徹することにする。今は試合前の作戦会議タイム、リーダーの松本くんが作戦を伝える。隣には彼と同じ野球部の小西(こにし) 郁斗(いくと)がいる。多分この二人が僕達のチームの要だろうな。


「王様は作戦通り、(なぎさ)でいく」


「了解。相手にバレないように気をつけないとね」


「基本的に外野から当てるように心掛けよう。できるだけ人を内野に戻す!」


「おっけー!絶対勝とう!」


松本くんが審判に王様を伝えにいき、コイントスで先行後攻を決める。僕達は後攻みたいだ。6月だというのに、雲ひとつない青空の下で、ホイッスルの音と同時に試合が始まる。


相手チームの豪速球が女子生徒を襲う。そこにすかさずリーダーの松本くんが乱入しボールをキャッチする。ひゅーさすがイケメン。と、いうか敵もはじめから女子狙うとか紳士じゃないぞ!ぶーぶーとブーイングを飛ばしたいくらいだ。


「ふぅーあぶね。いくぞっおっら!」


攻防戦の火蓋が切って落とされた。一人また一人と外野に去っていく。戦力差がかなりあったのか、みるみるうちに生存人数の差が開いていく。この試合は王様を当てられない限り勝てるだろう。松本くんと小西くんの野球部タッグはやはりすごいな、ぼこすこと当てていく。一方、僕は目立たないところでコートのギリギリの所に飛んでくる玉を取ったりしていた。しかし、そこにアクシデント発生。王様の渚くんの靴紐がほどけて、彼の靴の下に潜り込む。最悪なことに、敵の目の前で転んでしまう。


「あっ!」


松本くんや小西くんは距離的にカバー出来そうにないし、僕からもかなり遠い。敵のボールが容赦なく放たれる。


「っ!」


体が反射的に動いて、幸か不幸か僕はその玉を取ってしまう。一瞬、ボールを手放して上手いこと当たったように見せようかと思ったが、ここで当たったふりをしたら明らかに、王様を身を呈して守ったように映るだろう。仕方ない。


「ナ、ナイスだー神谷!」


「間一髪だったよ!ありがとう!」


渚くんにお礼を言われる。もちろん守るよ、君は王様だからね。靴紐が取れたことに気づいた審判が試合を止める。


「てか、そんなに近くいたっけ?」


「あんな至近距離のボールよく取れたな」


「あ、あはっは、たまたまだよ!」


どう考えても目立ってしまった。碓氷くんたちが見てないことを祈るしかないな。結局のこの試合は松本くんが王様を当てて、とりあえず1回戦を突破することが出来た。


しかし、どうやら問題は僕らがトーナメントの決勝で当たるであろうチームだった。一人、異次元のスピードでボールを投げる奴がいる。なにあの子怖。何が怖いって顔がこわい。


「ねぇね、あの人って万丈(ばんじょう)くんじゃない?」


「え?万丈って誰?」


「知らないの?万丈(ばんじょう) (つよし)くん。中学の時にハンドボールでジュニアオリンピックの強化選手だった人。私も中学ハンド部だったから何度か試合みたけど次元が違ったわ」


「なんでそんなやつがうちの高校にいるんだよ」


「噂だと足を怪我してハンドボールは辞めたって聞いたよ」


「そうなんだ。足を怪我してるようには見えないけどね」


動きも俊敏でパワーもある。厄介だな。しかし他のチームメイトに目立った人はいないのでワンマンチームなのだろう。呆気なく王様が当てられて万丈くんのチームの勝利だ。ちなみにいま喋っていたのは僕ではなく僕の隣で試合を見てる男女だよ。僕じゃないからね。


まだ僕達の試合には早いので、Aコートの試合を覗いてみると、ちょうど碓氷くんたちの試合が始まろうとしていた。あと二回勝たないと戦うことはないが、敵情視察といこう。とてもギャラリーが多い。碓氷くんを見に来ている女子生徒が大半だろう。


「碓氷くんの試合はじまるよ!」


「碓氷くんってスポーツテストの結果クラスの一位なんでしょ!総合得点93点だって!」


「そうなの?イケメンでスポーツも出来るとかなんかずるいね〜」


おいおいおい。聞いてないぞ。それって実質、碓氷くんの得意なカードが四枚中二枚あることになるんじゃないか。確かにずるい!


試合開始のホイッスルがなる。いきなりガンガン攻めていくのかと思っていたが、どうやら違うようだ。できるだけ人を減らさないように、取ったボールは外野に回している。何かを待っているのか?


開始から三分ほど経ったとき、有馬くんが碓氷くんに近づいてなにか喋りかける。そこからチームの雰囲気がガラリと変わり、多少当たっても構わないという様な攻めの姿勢でボールを投げ始める。いや、ただ攻めに入ったんじゃない、これは明らかに一人を狙っているな。


「多分、王様バレてるね。これ」


「郁斗もそう思うか」


僕の少し横で試合をみていた小西くんと松本くんは気づいたようだ。多分、王様はバレている。さっきから体操服に西田と書かれている男子しか狙われてない。あ、当たった。レフリーが試合終了の笛をならす。やはり王様は西田くんだった。三分間の様子見の時間がはあったことを考慮すると、はじめから王様を知っていた訳ではなく見抜いたのか。見抜いたのはほぼ間違いなく有馬くん。入学して二ヶ月という状況の中、他クラスの生徒がクラスでどのような立ち位置にいて、運動神経がどれくらいのものかを知るのには限界がある。つまり、王様を見抜くには、単純な観察眼で、目線や表情を見て判断するしかない。そんなことがドッジボール中にできるのか?しかも、三分間という時間の中で。もし、もし、ほんとに出来るとしたら…。有馬 透。恐ろしいな。


ご覧いただきありがとうございます!

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