20話 定期テスト
よろしくお願いします。
本日は定期テストの日である。
「全然勉強してなーい。やばーい」
「朝起きてやろうと思ったのに寝ちゃったわ」
「どこでるのー?教えて!」
テストの日だというのに騒がしい。しかしそんなことを口では言っていながらこの高校の生徒は勉強をしてくるのだ。やってないふりをして実は家ではガリガリと机に向かっているのだ。タチが悪い。
「神谷くんはやっぱりいい点数狙ってるの?」
隣から桐崎さんが話しかけてくる。こうして話すのもなかなかに久しぶりだ。風邪も長引くこともなくお見舞いに行った日の次の日から学校に来ていたが、碓氷くんに宣戦布告されてからは、少し話しかけにくかったのだ。
「まぁ、そこそこいい点を取れたらいいなって思ってるよ」
この学校は掲示板に点数を貼り出すことはない。自分の順位を見れるのは自分だけだ。なので僕も遠慮なく学力を発揮出来る。わかっているのにわざと間違える行為は、なんだか問題作成者に失礼な気がするので、あまりしたくないのだ。もちろん満点を狙っていく。
「神谷くんに教えて貰ったとこが出るといいな」
「んーそれについては分からないけど、桐崎さんなら大丈夫だよ」
桐崎さんはもともと要領がよく教えた所はすぐに理解してくれた。どうやら演習もしっかり行ったらしいし、かなりいい点数が期待出来る。
そして、テストが始まる。流石に僕もテストの期間は家でもみっちり勉強をした。全力を尽くす。教室にはシャーペンの音と紙をめくる音のみが響く。初日の一限目は数学。問題の傾向や難易度は予想してたレベルに近い。順調に問題を解き進めていくが、最後の一問に想定外の重たい問題が出てきた。特に難しい訳では無いが平方根と絶対値と累乗の組み合わさった問題で、絶対値のところでいくつもの場合分けが必要だ。どう考えても計算量が多すぎる。問題作成者は満点をとらせようとしていないな。僕はまだ時間に余裕があるからいいが、残り時間五分でこの問題も見た時の絶望感は凄いだろう。何とか解ききることができたが、この調子で出題されると考えたら予想以上に苦戦するかもしれない。そしてテストの一週間はあっという間に流れた。
次の週。テスト返却が行われる。
結果はテスト全体を通して五問ミスと悔しい結果になった。ここの学校は「は?そんなん誰が知ってるん?」みたいな問題や「は?絶対に時間以内に解けへんやん!」みたいな問題を出してくる学校だった。満点をとらせる気などさらさらないのだ。
問.23「炭酸飲料のペットボトルの底は圧力に耐えるために花びらの様な形状になっているが、その名称を答えよ」。
なんてわかるか。答えはペタロイド形状らしい。教科書に載っていること以外を問題にされるとは思っていなかった。教育委員会か文部科学省に抗議に行きたいくらいだ。だが、これも経験だ。次にもっと幅広い分野を網羅して絶対に満点を取る。落ち込んでいるように見えたのか、桐崎さんは声を掛けてきた。
「テスト…悪かったの?」
「ちょ、ちょっと悔しいなって思ってるだけだよ」
「ちなみに合計何点だったの?」
「それは、ちょっと、言えないなぁ」
不甲斐ない結果に終わってしまった。爪を顕にするなら満点で見せたい。
「そう」
「桐崎さんは数学どうだった?」
「神谷くんに教えて貰ったお陰で良かったよ、85点だったかな」
「おぉ。すごいね」
今回の数学のテストはやはり平均点は低く、62点だった。その中で85点は好成績だ。
「ありがとね、また分からないところあったら聞いてもいい?」
「もちろん、僕、教えれる範囲なら」
桐崎さんが優しく微笑む。うん。やっぱりこの子は笑顔が一番似合うな。これからも僕は隣で笑って欲しい。おっと、これは深い意味ではなくて、僕の隣の席で楽しそうに笑っていて欲しい、という意味なので勘違いしないでね。
「そう言えば、神谷くん今日の放課後はどうするの?」
「放課後?」
「球技大会のグループ分けってBグループだったよね?」
「え、うん。そうだけどなんかあるの」
「リーダーを決めるのと、作戦会議するって言ってたよ」
「えーと、それ僕、呼ばれてないんだけど…」
「神谷くんに話しかけれる人がいなかったんじゃない?」
「そ、そんな」
ひどい話だが。実際にそうなのだ。僕は桐崎さんや小夜とのコミュニケーションはマシになってきたが、他の方々とはてんでダメで入学して約二ヶ月経つのにこのクラスで友達と言えるのは桐崎さんのみである。碓氷くんは悪いが友達ではない。
「私もBグループだし。一緒に顔出さない?」
「いいのかな」
「いいでしょ。君もBグループなんだから」
チームは全員で18人。まぁ、僕がいようといまいとチームのみんなは気にしないだろうと予想し、放課後は教室に残ることにした。うん。思った通りみんな僕のことは気にもとめないな。予想が当たってて嬉しいな!虚しいな!
「さて!まずリーダーを決めないとね!リーダーと言ってもそんなに仕事あるわけじゃないから誰がなってもそんなに変わらないと思うよ。トーナメントのクジ引いたりするくらいだし。誰か立候補いる?」
仕切り始めたのは体育委員の佐々木さんだ。前回の説明によると体育委員は審判を行う関係でリーダーにはなれないらしい。
「えーどーする?」
「郁斗やったら〜。運動神経いいじゃん」
「いや、それいうなら大志がいいんじゃね?」
誰も敢えてリーダーをしたくないのか、若干の押し付け合いが始まってしまう。個人的にはこの雰囲気があまり好きではない。とか言って自分が立候補するわけではないが。美化委員くらいならば引き受けるが、チームリーダーともなるとしゃしゃり出てる感が拭えない。
「なら俺やってもいいよ」
「おぉー!まじ?じゃあリーダーは大志に決まりね!」
松本 大志は野球部所属で超スポーツ型のイケメンである。髪は野球部らしく短く、率先して前に出るタイプで、運動神経もいいという噂だ。
「あとは誰を王様にするかだね」
「運動神経はいいけど、目立たない人がいいよね」
「なら、渚とかいいんじゃね?」
渚 冬弥。小柄であまり目立つほうではないが、小学校からバスケットボールをしていた経験があり、小回りがきく。王様としては適任だろう。
「確かに!ピッタリだね」
「いいか、渚?」
「うん。いいよ!みんな支えてね」
「でも、ずっと渚くんを王様にする訳にもいけないから、何人か王様候補は決めてた方がいいね」
どんどんと作戦会議が進んでいくが、僕が発言をすることは会議終了のチャイムがなるまで、一度もなかった。みんながどのくらい運動できるかを知れただけでも、来てよかったと自分に言い聞かせよう。
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