19話 デジャブ
よろしくお願いします!
デジャブと言う言葉を知っているだろうか。実際には経験したことがないのに、既にどこかで体験したように感じる現状のことをいう、フランス語由来の言葉である。そして僕は今、デジャブを感じている。正確に言うと実際に経験したことがあることだが…。
僕は人気のない廊下の突き当たりで碓氷 新太と対面していた。うん。前にも見た景色だ。
「なぁいい加減にしてくれないか」
「な、なん、なんの話かな?」
「桐崎のことだ」
「き、き、桐崎さん?」
「あぁ。俺にあーだこーだ言う権利はないと思ってから黙っていたが、もう我慢出来ん」
「ほ、ほう」
「…先週の金曜日二人で下校してたのをみた。そして、昨日は桐崎のアパートから出てくるときた」
見られていた。二人で下校したのは最終下校ギリギリだったし大丈夫だと思っていたが、まだ人が残っていたのか。昨日に関しては全く気にしていなかったが、碓氷くんも桐崎さんと同じ中学だと言っていた。同じく地域に住んでいるならば近くを通ってもおかしくない。
「そ、それはちゃんと訳があって」
「あるだろうな。だがそんな理屈は知らん。理屈で動いていたら俺は神谷に突っ掛かりはしない」
確かにそうだ。小夜も言っていたが桐崎さんが誰と関わろうと桐崎さんの自由だ。それについて他人がどうこう言えるものでは無い。
「だかな、好きな女が他の男と仲良くしてるのどうしても気に入らないんだよ」
あれ?今まで好きって公言してないよね?いいの?僕に言っちゃって。
「で、でも」
「俺は近々桐崎に告白する」
「え」
えええなんか宣言されたんですけど。僕の話は全て無視。全く聞こうとしない。そんな宣言されて僕にどうしろと言うんだ。
「その上で俺は神谷のことをもっと知らなければいけないと思った。敵として、そして最悪の場合も想定して、桐崎に見合うかどうかもみたい」
「はぁ」
碓氷くんが言っている最悪のケースとは僕と桐崎さんが付き合うことなのだろうがそれはないとみていい。
「しかし、どうしても神谷とは仲良くできそうにない」
「う、うん」
「だから俺と勝負しろ」
「え、え?」
「俺の知っている人が言っていた、拳を混じえたらだいたいその人のことが分かると、だから勝負しろ」
「え、け、喧嘩って、こと?」
「勝負の内容は決めていない。俺が勝手に決めてらフェアじゃないからな」
「はぁ」
勝手に勝負することが決定されてるんですが、大丈夫?え?僕に拒否権はない感じ?
「ここに四枚の紙がある。一から四までの番号と、それぞれ、勉強、スポーツ、俺の得意なこと、そして神谷の得意なことと書いてある」
「ほ、ほう」
わざわざその紙用意したのかよ。戦う気満々じゃないか。つまり仲良く友達にはなれないから勝負を通して僕の人間性をみたいという訳か。なんだよ勝負って。
「そして番号は神谷が選べ。そしたらアンフェアじゃなくなる。内容に不満あるか?」
「いや、な、ないけど、ほ、ほんとにそれ、僕やらないとダメかな」
「…いきなりこんな話持ちかけて悪いとは思っている、別にお前自身のことを嫌っている訳ではないんだ。でもどうしても桐崎といることが気に入らない」
「はぁ」
「さぁ何番だ」
もう勝負を受けるしかないな。男として売られた喧嘩は買うものだ。
「じゃあ三番で」
個人的に引きたくないのは碓氷くんの得意分野の紙だ。いくらハイスペック目指してたといっても、相手の土俵で戦うのは不利だと思われる。僕が一番引きたいのは勉強である。彼がどんな風に判断するか分からないが、勝負への取り組み方や点数、それまでの対策が見られるのだろう。悪いが高校の定期テストの範囲なら僕はほぼ確実に学年で一番を取る自信がある。碓氷くんは四枚の中から一枚とりだして開く。そこには僕の期待から外れた、③スポーツと書いてあった。碓氷くんの口がニヤリと歪む。
「スポーツだ。いいな?」
「う、うん。ど、どんな勝負内容な、の?」
単純な運動能力を見てもきっと彼がみたい人間性は見れないはずだ。どうするつもりだろう。
「それは今日のHRで説明する」
「HR?」
今日のHRは球技大会の説明をすると言っていたな。なるほど。ルールや種目はわからないがそこで判断するんだろう。これは学校が決めたものなのでフェアに戦えるって訳か。
「あぁ。別に勝敗によってなにかあるわけじゃないから気楽にしてくれ。ただ俺はその姿勢も判断材料にする。もし桐崎に相応しくないと思ったら全力で邪魔をするから覚悟しとけ」
「わ、わかった」
そういうと碓氷くんは振り返って教室に帰ってしまった。これもデジャブだ。そしてHRの時間。碓氷くんは教壇に立って球技大会の説明をしていた。そう言えば体育委員だったな。
「今年の球技大会は例年通り王様ドッジボールです」
「えーまじ?高校生にもなってドッジボールって」
「いやそれなぁ」
「みなさん静粛に〜。色々思う所はあると思いますが、折角の行事なので積極的に取り組みましょう!」
もう一人の体育委員の佐々木さんが元気よくみんなに声を掛けた。佐々木さんは如何にも活発なスポーツ少女という印象で。髪はポニーテールにして肌も女の子にしては焼けている。確かにテニス部に入っていた気がする。
「というのは建前で、優勝チーム、準優勝チームには豪華景品が出るので全力取りにいきましょう」
碓氷くんがニマニマと笑って付け加えた。
「え!景品!なになに?」
「えーと優勝チームには学食一ヶ月食べ放題券、準優勝チームには購買の飲み物の飲み放題券が授与されます」
「えーやば!それは取るしかないでしょ!」
「え!それいくらでも食べていいの?」
「三十枚の無料チケットが配布されるので、使い方は自由です。」
「やべー燃えてきた」
「優勝するしかないでしょ!」
高校生にとって一ヶ月間の食費が浮くのは相当魅力的だろう。生徒をやる気にさせるにはもってこいの景品だ。
「対戦形式ですが、まず、ひとつのクラスをAグループ、Bグループに分けます。そして各クラスのAグループはAブロックでトーナメント、BグループはBブロックでトーナメントを行います。そのトーナメントを勝ち上がった両ブロックの一位同士が優勝を掛けて戦います」
「全部のクラス、二つのグループに分かれてのそれぞれでトーナメントってこと?」
「一つのブロックに八グループいるから三回勝てば優勝か準優勝は確定するって訳か」
「ねぇねぇどーやってグループ分けするのー?」
なるほどね。同じクラスだからどうやって勝敗を決めるのかと思ってたけど、僕と碓氷くんを違うグループにしたら優勝争いで戦えるわけね。それまでに負けてしまったらそれまでってことか。ただ上手いこと僕と碓氷くんを振り分けられるのかな。
「グループ分けは今から先生に返してもらう入学後に行ったスポーツテストの結果に基づいて行います」
スポーツテスト。僕はその前日から風邪をひいてしまって後日に行ったんだった。入学してすぐに休んでしまったのも僕が未だ友達が全然いない原因だ。いや関係ないか、ただ僕がコミュニケーション取れないだけか。
「その紙には総合得点順に、校内順位とクラス順位が書いてあると思います。その順位が奇数の人はAグループ、偶数の人がBグループの欄に名前を書いてください。それから何か不備があったら調整します」
黒板にはそれぞれAグループ、Bグループと名前のついた大きな四角が二つ書かれており返された人から名前を書いていく。
碓氷くんが紙を受け取りAグループの欄に名前を書く。なら僕が偶数番ならいいのか。僕の番がきて受け取りに行くが。
「わるいな。神谷は当日休んで後日に測定したからまだ結果用紙が届いてないんだ。来週には届くって言ってたから、また取りに来てくれ」
「はぁ、わかりました」
「先生、神谷くんって順位に入ってますか?」
「多分入ってないと思うぞ。後日計測者はクラス順位から除かれてるはずだ」
「そうですか。なら神谷くんは人数調整のために36位ってことでBグループでいいんじゃない?」
「え、う、うん。そうだね」
碓氷にそう言われて、僕はBグループの所に名前を書く。もし同じグループになってもこんな感じで上手いこと別々のグループにされていたに違いない。そんな流れでグループが決まった。男女混合の順位ではないため、男女比も完璧だ。
「来週にはテストもあり、もうあまり時間がないので、当日までにリーダーと作戦を考えておいて下さい。以上で説明を終わります」
クラスは一気に作戦について話し合いはじめて騒がしくなる。話し終えた彼は僕の方を見てニヤリと笑った。はぁ。さて、どうしたもんか。
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