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17話 お見舞い

よろしくお願いします


桐崎さんは一人暮らしのようだ。ショッピングモールで薬や食事の材料を買って、彼女が住んでいるアパートに向かう。成り行きでここまで来てしまったがほんとによかったんだろうか。


彼女の住んでいるアパートはとてもオシャレな所だった。白を基調とした洋風なデザイン。汚れやすいだろうに壁に汚れなどはない。門からエントランスまでの庭は誰かが手入れしているようで、道を中心に左右でシンメトリーになっていた。ここも西洋を意識しているのか。ここまで整っていると逆に生活感がなくて違和感があるくらいだ。


「桐崎さんに行くって連絡したの?」


「んーしたよ。返信はきてないけどね」


「それ寝てて見てないパターンじゃない?」


「確かに既読はついてないけど、まぁいいじゃん!神谷くんならきっと怒らないよ。多分!」


多分、ね。まぁ玄関で拒否されたら帰ればいいだけだし、大丈夫だろう。302号と書いてある扉の前で立ちどまり、インターホンをならす。反応はない。しかし留守ということはないだろう。やっぱり寝ているのか。もう一度ならそうとしたところでインターホンから声が聞こえる。


「はい」


「わたし。お見舞い行くって連絡したんだけど見てない?」


「んん、ごめん、寝てた。今開ける」


如月さんだとわかって安心したのか、どこか気の抜けた声になる。


扉の向こうから鍵を開ける音が聞こえ、開かれる。桐崎さんは髪は起きたてだからいつもよりもふわふわしていて、シャツ型の半袖のパジャマを着ている。下はショートパンツで綺麗な白い足が顕になる。桐崎さんは僕の存在に気づいたらしく顔を赤くし扉を勢いよく閉める。


「ありゃ言えばよかったね。ん?電話?唯衣からだ」


如月さんはスマホを取り出しスピーカーにして電話に出る。


『なんで神谷くんがいるのよ』


「ケータイみてよー。ちゃんと送ってるよ?神谷くんも行くって」


『う。ほんとだ。でも返信してないのに急に来るって、こっちも困るんだけど』


「なら僕帰るよ。急に邪魔したこっちが悪いし。薬だけ置いていくから、飲んでゆっくり休んでね」


『…まって。三分ちょうだい』


そういって電話を切ってしまった。…三分後、扉の向こうから現れた桐崎さんはパジャマの上からジップアップのパーカーを着ており、髪も低めのサイドテールにしていた。流石に家での格好は、見せられないらしい。


「どうぞ。」


「ん。ありがとう」


「お邪魔します。」


桐崎さんのお家はとても綺麗だった。全体的に淡い色で統一されていて、家具もシンプルでありながらも、ひとつひとつデザインに工夫が見られる。女子高生が一人で住んでいるとは思えない、モデルハウスのような雰囲気だ。普段から料理をするのか、キッチンは使った跡がある。


リビングのソファに案内されたが、なんだかそわそわする。女の人の家に入ったのは初めてで、なんだか目のやり場に困る。あまりじろじろみるものではない気がする。


「はい、これ。お茶くらいしか出せないけど」


「えーいいよいいよ。そんなに気を使わなくて!しんどいんでしょ休んでて!」


「いやでも」


「いいから!神谷くん!私は唯衣ベットに連れていくから、ご飯の用意しといて!唯衣、台所使っていいよね?」


「それはいいけど。ちょっと」


如月さんはぐいぐいと無理矢理桐崎さんを寝室に連れていく。さて僕は僕の仕事をしよう。今回のメニューは卵とじうどんである。お鍋に水を貼り沸騰させて、買ってきた冷凍うどんを解凍してから入れる。茹で上がったら一度麺を取り出す。次にお鍋に麺つゆ、白だし、水溶き片栗粉、溶き卵をいれる。掻き回したまごが浮いてきたら先程のうどんにかけて、隠し味に体を温める効果のある生姜をいれる。最後に刻みネギをのせたら完成である。申し訳ないが調味料は拝借させてもらった。


「お?できた?」


完成したタイミングで丁度如月さんが寝室から出てきた。


「うん。簡単な卵とじうどんだけど」


「せっかく寝かしつけたとこなのに〜。唯衣!出来たってよ〜」


無理に寝かされてすぐに起こされるってかなり理不尽だね。如月さんは超がつくマイペース人間なので、ずっと傍にいると疲れるな。


「如月さんも食べる?」


もしかしたら食べたいと言うかと思って二人分のつもり作った。もしいらなかったら僕が食べればいいしね。


「えぇ!いいの?食べる食べる!」


起きてきた桐崎さんと如月さんは肩を並べて座る。


「熱いから気をつけてね」


「神谷くんありがとう。いただきます」


「いただきます!」


二人は一度ふぅーふぅーと冷ましてからうどんを啜る。一応味見はしてあるので大丈夫だとは思うが、口に合うだろうか。


「美味しい」


「美味しいよね!やっぱ神谷くん料理上手いよ」


他の分野と違って料理は誰かに習ったわけではなく、ただ毎日、自分と姉の分の食事を作っていただけなので実はそこまで自信がある訳ではないのだ。あまり評価してもらう場がない中で、家族以外の人に褒めてもらえると嬉しいな。


「そりゃよかった」


僕の役目が終わったとはいえ、流石に食べ終わるまではいた方がいいだろう。しかし食事をしてる人を見ながら待つのも少し気まづい。何を探すわけでもないが、すっとリビングを見渡すと本棚が目に入った。


「桐崎さんも本読むの?」


「ん?あぁそういえば君、本好きだったね。物語は好きだから読むってくらいだよ。…もちろん、神谷くんと違って日本語でね?」


「そんな話もしたね。少し本棚見てい?」


「どうぞ」


「ありがと」


そこまで大きな本棚ではないが、几帳面に整頓されていて見てて気持ちがいい。有名なものから僕の知らないものまで、タイトル的に物語らしき本が並べてあった。少し哲学書もあるな。だがそれよりも目がいったのは本棚の隣の棚だ。ガラスの扉がついている棚にはJPOPからクラシックまで様々な種類のCDが並べられていた。あまり気にしていなかったが、ソファの対面にあるテレビの左右には部屋の雰囲気とは少し異なった大きなスピーカーが置いてある。きっとデザインよりも性能を重視して買ったのだろう。やっぱり音楽が好きなのか。


しかしその棚はしばらくの間、開かれた形跡はなく少しホコリがかかっているように見える。バンドだけではなく音楽もやめてしまったのだろうか。好きな音楽をやめてしまうくらいの出来事が彼女にあったのだろうか。そう思うと何故か自分のこと以上に胸が締め付けられるのであった。


ご覧頂きありがとうございます!

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