16話 希望
よろしくお願いします!
【桐崎 唯衣】
●『今日、学校どうしたの?体調不良?』
〇『うん。風邪っぽい』
●『そっか。お大事に』
このトーク画面を小鳥遊さんに見せて確認をとってもらう。これで一安心だね。
「事故とかではなくてよかったです。風邪ですか。可哀想に変わってあげたいくらいです」
「ほんとに好きだね。なんでそんなにファンなの?」
彼女は少し困ったような顔をした。
「…彼女は私の希望なんです」
「希望?」
「はい。彼女が中学時代バンドをしていたのは知ってますか?」
「うん」
「そうですか。少し自分語りをします。聞いてください」
「私は中学二年の夏休みにこの地域に引っ越してきました。途中からクラスに入ったこともあり、私は頑張って友達を作らなきゃっと思ってみんなに話しかけました」
「しかし、わたしはこんな性格なので。空回りばかりしちゃって、クラスの人にもたくさん迷惑かけました。気づいたら私はひとりぼっちでした」
「何度も自分を変えようと思って、色んなことに挑戦しました。しかし全部失敗に終わってしまって、変わるなんて無理なのかなって諦めかけてました」
「中学三年生になって間もない頃のある日、新入生歓迎会で、軽音部の紹介演奏をしていた桐崎さんに出会いました。ステージの上の彼女は自由に、自分の思うままに歌っていました。でも歌詞を聞いてみると彼女も私や他の人と同じように悩んで、苦しんでいるんだってわかって、それでも自分が自分でいることに誇りを持っているんだって思って」
「そこから私は彼女のファンになって。そして自分を愛せるようになりました。そして自分の思ってることは素直に曲げずに言うことにしました。きっと彼女の目には観客の一人にしか映ってないだろうけど、私は彼女の存在に救われたんです」
「ごめんなさい。こんな話しちゃって。授業始まっちゃうんで、もう行きますね」
僕はただ彼女の話を聞いているだけだった。みんなそれぞれ当たり前に悩んで、もがいて、それでも進もうとしている。同じ環境に生きてる同年代のものだからこそ伝えられたものがあるはずだ。彼女の桐崎さんへの気持ちを、いき過ぎだと思ったことを心の中で後悔した。
そして放課後、僕はお弁当を返してもらうために如月さんを駅で待っていた。気に入ってもらえただろうか。
「かーみやーくーん」
元気いっぱいに名前を呼びながら走ってくる5歳児がいた。間違えた。如月さんだった。
「お待たせ!」
「うんん。大丈夫。お弁当に口にあった?」
「なんなのあれ」
「合わなかった?」
「毎日食べたい。なに?お弁当ってこんなに美味しいものだったの?私、あんなに美味しいきんぴらごぼう食べたことない。ちょっと泣きそうになった」
「んな大袈裟な。でも、気に入ってくれたならよかった」
「これ売れるよ。絶対」
「わかったって、言ってくれたらいつでも作るよ。一人分も二人分も変わらないし」
「ほんとに!でもそれはちょっと申し訳ないから時々にする!」
「ん。わかった。そういえば、今日、桐崎さん風邪らしいよ」
「あーらしいね。RINEきてた」
「早く治るといいね」
「だねー。あ!そだ!いまから唯衣のお見舞い行くんだけど、一緒行こうよ!神谷くんの料理食べたら絶対すぐ元気なるって」
「え?い、いやいや、それはちょっと」
「作れないの?」
「つ、作れるけど、そういう問題じゃな
「じゃあ決まりだね!レッツゴー!」
ほんとにこの子は話を聞こうとしない。如月さんにゴリ押されて僕ば桐崎さんのお見舞いに行くことになった。
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