12話 テスト勉強
よろしくお願いします!
あれから一日経った放課後、僕は桐崎さんと勉強をしていた。数学の今回のテスト範囲は、必要十分条件となかなかに重たい範囲だ。確かにこの範囲は数学が得意な人でも得点を取るのが難しい。一部の分野だけを理解していれば解ける範囲ではなく、いくらでも応用が利くので数学の総合力が試されるのだ。
「確かに、この範囲は難しいよね」
「同じような問題が少ないから対策しようがないのよね」
「と、とりあえず、数字の範囲が出た場合は数直線を書くことがポイント。必要十分条件については、いかに例外を見つけることが出来るかが大切になってくるから、ほんとに経験が必要だね」
「経験ね。簡単に得点は取れないのか」
「ただこの範囲は平均点が低くなる傾向があるから、逆に有理化とか方程式とかの計算問題を落とさないようにするのがいいかもね」
「なるほどね」
「うん」
「そう言えば、すごい活躍だったらしいね」
「ん?」
「小夜の件」
「あ、あぁ、話したんだ、如月さん」
「リングを失くしたことは本当は秘密にしておきたかったみたいだけど、黙ってたらモヤモヤするからって」
「彼女らしいね」
「そうね」
お互いに顔を見る訳でもなく、問題集を解きながらする会話はどうしてか時間がゆっくり流れている気がしてすごく心地よかった。この機会にいくつか聞きたいことがあったのだ。上手く聞けるだろうか。
深呼吸を一つ。
「き、桐崎さんって中学から同じ人って、クラスにいるの?」
「え?急にどうしたの?」
「いや〜僕はいないからさー、いたらもう少し、友達作り上手くいったかなって思って」
「中学、友達いなかったんじゃないの」
「うっ」
中学時代は全く気にしていなかったが、いまそれを言われると心に刺さる。いやでもあれじゃん。たとえ友達じゃなくても、顔見知りとかだったら、新しい環境で不安を感じてるもの同士、仲良くなったりするんじゃないの?吊り橋効果的なあれでさ!
「んとね。伊織と美咲かな。男子は碓氷くんと八重樫くんが一緒だったよ」
黒髪ボブに黒縁メガネ。書道部所属。小鳥遊 伊織。
スポーティなショートカットでソフトボール部所属の月島 美咲。
金髪アップバンクイケメン帰宅部。碓氷 新太。
短髪ツーブロック身長180cm越えバレー部所属の八重樫 雅人。
「へぇやっぱ仲良いの?」
「同じクラスになったことあるのは、美咲だけかな〜。でもみんな喋れるよ。伊織に関してはなんだか苦手意識持たれてる気がするけどね」
違うぞ。桐崎さん。彼女はファン過ぎてまともに会話することも出来てないんだ。ここから無理に碓氷くんに繋げようとしても怪しまれる可能性が高い。ここは一度引くか。
「そうなんだ」
「私もひとつ聞いていい?」
「どうぞ」
「小夜から私のバンドのことについて聞いた?」
「え?バンド?」
「小夜、リングの説明の中でわたしとバンドしてたことについて神谷くんに話したって言ってくれたんだけど、すごく私に気を使った表情してたの。あの子は隠せてると思っているかもだけど、丸わかりだったわ。」
「…詳しく聞いてないよ。桐崎さんが歌いたくなるまで、バンドはしないと言ってたけど。その理由についての説明はしなかった」
「そう。やっぱり気にしてるんだ。あの子」
「何かあったの?」
「…聞きたい?」
「…いや、やめとく。今はまだ違う。桐崎さんから話したくなったら話せばいいと思う。話したくないのならずっと話さなくてもいいよ。」
「…そう。ありがとうね」
「うん。もうこの辺にしようか勉強。もうすぐ最終下校の時間だし」
「そうだね」
なんだかお互いの距離感をはかるような。そんな会話になってしまったが、今日は仕方ないと思う。特に何かを喋ることも無く、夕陽に照らされながら、2人並んで下校したのであった。
「あいつ。また…」
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その日の夜。携帯に電話が掛かってきた。僕の携帯に電話をかける人など数少ないので。表示されてる画面をロクに見ずに電話にでる。いまの時間ロスは早朝だ、ということは間違いなく姉だろう。
『もしもし』
『もしもし〜私〜』
やはり姉だった。
『なんの用?』
『一週間くらい帰れてないから、元気にしてるかなって』
『元気だよ』
子供じゃあるまいし一週間くらい家を離れたくらいで心配されても困る。嬉しいけどね。
『よかった。日曜日の夜に一度帰るね。学校で友達はできた?』
『毎回言うねそれ。余計なお世話だよ。日曜日、何が食べたい?』
『んー?前回がイタリアンだったからなぁ。和食がいいなぁ』
『和食って広いな』
『お魚使ってくれればなんでもいいよ』
『魚ね。了解。気をつけて帰ってきてね』
『はぁーい。じゃあね』
テロン。
和食か。自分の一人だとどうしても手抜き料理になってしまう。折角家に帰ってくるのだ。少し手の込んだものでも振舞ってあげよう。
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