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「こんにちは。ホズ」
ナンナは少したれ目がちな碧眼を細めて、彼女よりも小さなホズに目線を合わせるように屈んで声をかけた。ゆるく癖のついた腰ほどの髪がふわりと舞う。
フッラ以外の者に好意的な視線を向けられたことがないホズはうろたえ、初めは挨拶もまともに返せなかった。それでもナンナは足しげくホズのもとへ通った。ホズも少しずつ彼女に打ち解けていった。
彼女はホズの心を癒していった。フッラはナンナに感謝した。ホズには必要だったのだ。ホズを偏見なしに見てくれる神が。他人からのやさしさが。
フッラには出来なかったことをナンナはすべてホズに与えた。
彼女とホズはいつしかお互いが大切な存在になっていた。ホズはナンナの慈愛に。彼女はホズの純粋さに。二人は惹かれあった。
それは友情でも、家族愛でもあった。
「私、結婚するの」
ホズにとってそれはいきなりの告白だった。
「……おめでとう。びっくりした」
「貴方に一番先に伝えたくて!」
「うれしいな。ぼくが一番?」
「えぇ」
ホズは少し寂しい気もしたが、嬉しさの方が勝っていた。ナンナが幸せになるのだ。目の前の彼女の幸福に満ち溢れている顔はホズを喜ばせた。
「前より会えなくなるかもしれないけれど、私たちの繋がりは消えないわ」
「うん。ぼくはナンナに感謝しているんだ。君に出会えたからぼくは今笑うことができるんだ。幸せになってね」
「私、貴方に会えて色んな大切なことを知ったわ。私も感謝しているの。普段こんなこと恥ずかしくていえなかったけどね」
二人は顔を見合わせて笑いあう。
穏やかな日はずっと続くのだと誰もが信じていた。
しかしフッラは嫌な予感がとまらなかった。ナンナの結婚相手はバルドルなのだ。