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「君はいつだって、突然だ。あの日だってそうだ」
ホズは文句を言うが、顔はほころんでいた。出会った日を思い出していたのだ。
ホズにとってロキとの出会いは鮮明に覚えている記憶の一つである。まるで昨日のことのように思い出せるのだ。
「ろくに交友もないぼくに向かって、『目、ほんとに見えてないの?』ってさ」
「……ああ、だって君さ、普通に歩いたり、障害物を避けたりするからさ」
ホズの言葉を聞き、ロキも昔を思い出す。
その日、ロキが外を歩いているとホズが前方から歩いてきた。外で見かけることが少なく、物珍しさから足を止めた。すると、上手にこちらを避けてすれ違おうとするのだ。
驚き、咄嗟に足を出した。
「だからって足をひっかけるかな、普通」
ホズは不満気に言った。ロキの足に引っ掛かり、盛大に転んだためだ。
一方、ロキは悪気などなさそうに、笑い飛ばす。
「その後、突き飛ばしてきたんだからお互い様だろ? 見た目と違ってバカ力だよね、痣ができた」
「いきなり、ぼくに魔法を使ってきたこともあった」
ホズがそう言って、眉を寄せた。
ロキは首を傾げている。すぐには思い出せない様子が彼の悪事の多さを窺える。
「リスにされたよ」
「ああ、旅に連れてくのには軽い方がいいと思ったんだよ」
「巨人に殺されるところだったじゃん」
「まぁ、楽しかっただろ?」
そう言ってロキは眼を細めた。
「ロキといると命がいくつあっても足りないよ……」
非難めいた言葉を発しながら、ホズも笑っていた。
ホズはロキの思いつきに振り回されることが多かった。それでも一緒にいると最後には笑ってしまうのだ。
ロキにはどこか人たらしの気があった。容姿も中性的な美しい顔立ちで女神やら人間やら、果ては戦争中の巨人相手まで、様々な女性との噂があったりする。
そう、ロキの美しさは本物だ。
彼には独特の魅力がある。華奢だが、無駄のない筋肉が付いていて、背は高く足が長い。髪は金色に輝いている。容姿は整っているのだが、どこか妖しさを秘めており、艶やかである。そのアンバランスが彼を惹きたてていた。
ロキはアースガルドの生まれではないが、その容姿は神に劣らないほど優れていた。さらに頭の回転が速く、魔法も巧にあやつれたことからオーディンに気に入られた。彼がこの地に赴き神々の仲間に加わったのは随分昔のことである。ホズが産まれる前のことで、かなりの古株であること、実力があることから地位も高く発言力もあった。
そんな人気者と神界で『やっかいもの』である自分自身とはとても釣り合わないとホズはずっと思っていた。




