問題篇
「こんな事件は前代未聞です。私の刑事人生における最大の難問だ」
思慮深そうな額に横皺を刻み、篠田警部は唸る。
「私も、まさかこんな怪事件を担当することになろうとは思いませんでした」
花菱警部補も悩ましげな吐息を洩らす。私は事件の概要が記された資料を捲りながら、
「死亡したのは自営業者の渡哲司。鍵のかかった部屋で水死体となって発見された」
「ええ。現場には風呂場もキッチンもなく飲料水の類も発見されませんでした。もちろん、被害者の遺体が水浸しなんてこともありません。にもかかわらず、特定された死因は溺死なのです。遺体が見つかった部屋は内側から鍵がかかっていて、外からは施錠できない仕組みになっていましたから、第三者がどこかで溺れた渡を部屋に運んだという可能性もない」
資料の内容を淀みなく諳んじてみせる警部。女刑事は資料をテーブルに放ると、
「体内から突然水が湧き出してきた、なんて魔法みたいなこともあり得ませんものね」
いつものクールな声で冗談めかす。そこへ、聞き込みに出ていた三宅巡査が慌ただしく駆け込んできた。
「警部。渡は死亡する前日に、川で溺れていた少年を救助したことで新聞記者からインタビューを受けていたようです」
若巡査のもたらした新情報で、私はすぐにピンときた。
「分かりましたよ。渡哲司が水場のない密室で溺死した原因が」
Q:渡哲司の死の真相とは?




