問題篇
「まりえ! 何ということだ、誰が彼女を」
酒井まりえの亡骸を抱えて、山野陽司は人目も憚らずおいおいと泣き叫んでいる。私は彼を力ずくで遺体から引きはがすと、室内を注意深く見渡した。
「酒井はバスローブを着込んでいる。髪も濡れているようだし、ドライヤーのコンセントも刺さったままだ。犯人は風呂上がりの彼女を訪れて殺害した。しかし、こんな夜中に風呂か」
ドレッサーの足元にドライヤーのコードが伸びている。被害者はその傍に、体をうつ伏せにして倒れていた。首にロープのようなもので絞められた跡を残して。
「おい、ちょっといいか」
ポロシャツ姿の男、川原仁が私に手招きをする。彼も山野も、殺された酒井まりえも私の大学時代の同級生だ。昨日から同窓会と称して、当時親交のあった学友同士でこの山荘を訪れていた。
「この洗濯機なんだけど」
共同洗面所にある洗濯機の蓋を開けると、女性もののブラウスとスカートが放り込まれていた。取り出してみると、水気をたっぷり吸っている。
「風呂に入る前に洗濯をしていたのか。だが、服を汚すほど彼女がアクティブに動いていた記憶もないが」
「俺も気になってな。何か手がかりになるかと思って」
酒井まりえの部屋の状況を思い返しながら、私はある可能性に行き着いた。不本意ではあるが、職業柄犯罪を見過ごすわけにはいかない。
Q:「私」が思い至った可能性とは?




