問題篇
「所長、たまにはコンサートにでも行って芸術に触れてみてはいかがですか」
という桜子さんのお節介に乗り、演奏会に足を運ぶことにした。小さな劇場のホールを埋め尽くす客は、なぜか若者ばかりが目立つ。
理由はすぐに判明した。がなり立てるような音で始まったのは、ロックバンドの演奏だったのだ。客は拳を振り上げたり席を立って飛んだり跳ねたりの大騒ぎ。桜子さんにこんな趣味があるとは意外である。
「これが、今どきの若者が惹かれる芸術というやつなのか」
耳障りなギターとドラムの音に負けじと、隣の桜子さんに向かって声を張り上げる。私の声が聞こえなかったのか、彼女は喧騒に似合わぬ微笑を浮かべるだけだ。
演奏会もようやく終盤に差し掛かり、残るはアンコールのみとなった。ところが、私はここで世にも奇妙な体験をすることになる。
「では、アンコールに応えて――『I can only hear you.』」
ギタリストがマイクを通して高らかに告げた瞬間、ホール内を沈黙が包み込んだ。私はいつアンコール曲が始まるのかと待ちわびていたが、割れんばかりの拍手が沸き起こる直前までステージでは一切の演奏が行われなかった。
「どういうことだ? 客を馬鹿にしているのか」
帰り道に憤慨する私をよそに、桜子さんは「洒落たアンコールだったじゃないですか」とクスクス笑っていた。
Q:アンコールの瞬間に何が起きていたのでしょう?




