問題篇
水墨画家の大河内華月の屋敷に招待された。以前氏の御殿で起きた盗難事件を機に知り合ったのだ。
私の探偵事務所の倍はあろう広さの居間には、『文鳥の番』と題された水墨画が展示されていた。額縁の中の文鳥は浮き出るような立体感があり、素人目に見ても優れた作品であることが分かる。
リビングに通され茶を出されたが、肝心の主の姿が見えない。妻の花蓮さんに尋ねると、
「今、機嫌が悪くて……多分、遠山さんがいらしているから」
ソファに腰掛けた二枚目の男が遠山らしい。花蓮さんによると、氏の一番弟子なのだが最近は作風のことで揉めているとか。芸術家らしい師弟の衝突かと考えていると、すぐ近くで鐘の音が轟いた。今時古風な正午を告げる合図だった。
「た、大変だ! 文鳥の、文鳥の画が」
慌しい足音とともに華月氏が姿を現わす。花蓮さんと遠山と4人で居間に行くと、額縁のガラスが割られ画の中の文鳥が1羽だけ消え去っていた。まるでガラスを突き破り外界に飛び出したかのように。
「お前が、お前がやったんだろう! この額縁の鍵を持っているのは私とお前しかいない。私はずっと書斎にいたんだ」
「どうして僕が」シャツの襟元を氏に掴まれながらも、弟子は冷静に反論する。私は、消えた文鳥と同じ位置だけ割られたガラスを観察しながら、
「犯人はともかく、文鳥の片方が消えたトリックは説明がつきそうですよ」
Q:画の中の文鳥が消えたトリックとは?




