問題篇
「随分年季が入った建物ですね」
砂利敷きの青空駐車場で作業をしていた三宅巡査が顔を上げる。
「築35年の木造モルタルアパートだそうです。室内もかなり古いですし、階段を上るときも足元が抜けるんじゃないかと冷や汗ものでした」
「へえ。で、ここが殺人事件の現場と」
「はい。2階の206号室から女性の刺殺体が見つかりました。死亡推定時刻は今日の夜中3時前後。時間が時間ですから、住人からの目撃情報も皆無でして。ちなみに隣の205号室は空き部屋でした」
「あのブルーシートがかかっている左端の部屋が、206号室ですか」
右から5番目の部屋を指差す私に、三宅巡査は「ああ」と頷く。
「縁起を担いで104号室と204号室はないみたいです……おや」
三宅巡査が私の肩越しを覗き込む。振り返ると、野次馬の中からパーカー姿の男がひょこりと頭を下げた。
「実は私、昨晩コンビニへ寄った帰りにここを通りかかりまして。アパートの階段を駆け下りる怪しい人影を見たんです」
「ほう。ちなみにその人影、あの206号室の部屋から出ていきましたか」
「え?」三宅巡査が示した最左端のドアに、男は怪訝な視線を飛ばす。
「い、いえ。部屋から出たところは、見ていなくて」
ぎこちなく答えるパーカーの男を横目に、私は若巡査にそっと耳打ちした。
「彼の証言ですが、鵜呑みにするのは危険ですよ」
Q:男の証言で怪しい部分は?




