問題篇
「彼が……彼がご主人様を手にかけたのです。きっとそうだわ!」
「落ち着いてください。彼とは誰のことです」
語りかけるような口調の篠田警部。メイド服の女性は拳を震わせながら、
「ご主人様のご子息の、慧汰さまです。彼は今夜、シャンパンを手に屋敷を訪れました。ご主人様の機嫌をとって金の無心をするつもりだったのです」
「なるほど。金銭トラブルから父親を毒殺し、現場から逃走したと。どう思われますか探偵さん」
私はテーブルの上に置かれたシャンパングラスを観察しながら、
「もし被害者が息子から危害を加えられることを予期していたとすれば、シャンパンにも警戒していたはずです。実際、2つあるグラスのうち被害者の目の前にあったこちらはシャンパンの量がほとんど減っていません……おや」
私はグラスに鼻を近づけ、注意深く匂いを嗅ぐ。そして、純白のテーブルクロスの上、被害者のシャンパングラスのすぐ傍にオレンジ色の染みが点々と飛散しているのを発見した。私は警部の許可を得てキッチンに立ち入ると、冷蔵庫の中を改める。端を少しだけカットしたオレンジが野菜室に残されていた。
「慧汰さんは、シャンパン以外に何か持参していましたか」
「いいえ。シャンパンのボトルだけです」メイドは小さく首を振る。
「なるほど。篠田警部、犯人が毒を仕込んだのはシャンパンではない可能性が出てきました」
Q:犯人が毒を仕込んだものとは?




