問題篇
今回の殺人は一風変わった場所で発覚した。被害者の小椋涼子は、公園の女子公衆トイレの個室で刺殺されていたのだ。
「被害者と犯人は、こんな狭い空間で一緒にいたのかしら」
ドアの内側全体に飛び散った血痕を眺めながら、花菱警部補が呟く。個室の床のタイルには僅かに血が混じった水溜まりができていて、これについては第一発見者の掃除員の女性から証言が得られていた。
「掃除を始めたのは、今朝の9時頃です。掃除をする前に個室をノックしたのですが、返事がなくて。仕方なく、その個室を避けて掃除を始めたのですが、ホースの水量を調節するときに間違って水を出しすぎてしまったんです。そのとき、ホースの口がたまたま鍵がかかった個室のドアの下に向いていて、慌ててホースを手に取ったら個室の隙間から真っ赤な水が流れ出して……」
「この掃除員のおっちょこちょいがなければ、事件の発覚はさらに遅れていた可能性もありますね」
クールにコメントする花菱警部補。私は個室の傍に立ち、血痕がほとんど流されてしまった床のタイルを観察しながら、
「花菱警部補。被害者の死亡推定時刻は?」
「渋沢検視官によると、昨夜の18時から21時の間だそうです」
「そうですか。もしかすると、被害者は別の場所で殺害されてここに運び込まれたのかもしれませんよ」
Q:なぜ殺害現場がトイレの個室ではないと推理したのでしょう?




